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エコノミー移動でも赤字、厳しい広告規制…「ACL出場はコストが利益を上回る」FIFPROアジアが50ページに及ぶ分析レポート公表

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2022年のACLを制した浦和レッズ

 国際プロサッカー選手会(FIFPRO)アジア(山崎卓也代表)は19日、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)に関する費用対効果分析レポートを公表した。今回の分析研究では、これまで幅広く指摘されていた長距離移動や過密日程の問題だけでなく、選手・クラブにもたらされる経済的な側面にもフォーカス。その結果、現状フォーマットのACLは各クラブ・選手にとって、競技面・ビジネス面ともにメリットが乏しいことが明らかになった。

 FIFPROはプロサッカー選手の権利保護に取り組む選手会・労働組合組織。日本人の山崎氏が代表を務めるアジア・オセアニア支部は日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、カタールなど11か国の選手会で構成され、6000人以上の選手を代表している。2022年春にはFIFPRO本部と協働し、アジア圏の代表選手の長距離移動問題に関する分析レポートを発表。DF吉田麻也が4年間で「地球8周分」の移動をしていたという調査結果で話題を呼んだ。

 今回の分析レポートは大手調査会社「トゥエンティ・ファースト・グループ」の協力のもとで制作。また20〜22年にACL東地区グループリーグに参加した5か国15クラブに所属する59選手へのアンケート、JリーグとAリーグに在籍する参加クラブからのフィードバックも踏まえた成果となっている。

 公表された分析レポートでは「端的にいえば、現状のACLは選手とクラブの双方にとって、参加するためのコストが、それによって得られる利益を上回っている状態です」と結論づけられており、ACLを主催するアジアサッカー連盟(AFC)の課題が次々と浮き彫りになっている。

 一方、山崎代表は「AFCを批判することが目的ではない」と強調する。あくまでも選手の権利保護を念頭に置き、「どのような仕組みがサステナブルなのか」を議論するための土台にしてほしいという姿勢だ。そんな分析レポートの中では、ACLに出場することで選手・クラブが被る以下のような悪影響が伝えられている。

▼選手への影響
 選手に関する項目では「ACLは金銭的な報酬という意味でも、選手としてのキャリアアップという意味でも、選手にほとんどメリットを与えていない状況」という結論が出された。

 分析レポートによると、出場選手に対してAFCから直接的な報酬を支払う仕組みは現状存在しないため、選手は所属クラブからのボーナスによってのみ金銭的なメリットを受けている状況。ところがアンケートの結果、所属クラブからACL出場による追加報酬を受け取った選手は50%にとどまっており、そのうち62%の選手のみが「報酬額に満足している」と回答したという。

 選手に十分な金銭が支払われていない背景として、分析レポートでは「AFCが選手の提供する労働価値という観点から、十分な金銭の支払いを行っていないということを示しているといえます」と指摘。AFCから出場クラブに対する分配額が少ないことを理由に挙げている。

 またACL出場によって選手の価値向上につながる期待もあるが、現状では「ACL出場は移籍金とは相関がない」という結論が出た。また欧州などへのキャリアアップに関しても、2013年以降の全移籍を調べた結果、ACL経験を持つ選手のうち28%が欧州移籍を果たしたのに対し、出場しなかった選手は35%が欧州移籍したというデータもあるという。

 加えてACL出場に伴う過密日程に関しては、72%の選手が「怪我のリスク増大につながる」、67%の選手が「疲労によるパフォーマンスへの悪影響を感じている」とそれぞれ回答。長距離移動も深刻で、アウェーゲームの平均移動距離は3670kmに及んでいるといい、「AFCから提供される遠征補助金ではエコノミークラス以上のフライトを賄うことができない状況」という問題も指摘されている。

▼クラブへの影響
 クラブに関する項目では「ACLは参加クラブにとって明確なメリットがない一方で、それに伴うコストは、非常に大きなものであると言わざるを得ない状況」という結論が出された。

 分析レポートによると、AFCはACL全ステージでアウェーチームに遠征費の補助を行っているが、予選とプレーオフに4万ドル、グループステージから準決勝に6万ドル、決勝で12万ドルにとどまっており、大半の試合で「実際の旅費を賄うには足りない状況」。Aリーグのあるクラブはエコノミークラスの移動でも9万5000ドルの経費がかかり、大赤字となったといい、浦和レッズからも「決勝に進出した2チーム以外は遠征費補助金と賞金だけでは費用を賄うのに十分でなかった」というフィードバックがあったという。

 またホームゲーム開催に関しても、各クラブは関係者用に5つ星の宿泊施設、車、食事、ランドリーサービスをそれぞれ用意すること、アウェーチームの現地経費を負担することをAFCから要求されている。これを入場料収入で埋め合わせられれば良いが、平日ナイトゲームに行われることが一般的なACLグループリーグでは平均観客数が国内リーグより26%少ない状況となっている。

 スポンサー収入に関しても厳しいAFC規定の障壁がある。大会への関心の低さからACL向けスポンサーの獲得が難航するのは通例。またAFCの承認を受けたパートナー以外のブランド看板広告をスタジアム内から排除する「クリーンなスタジアム」規定により、ペットボトルのラベルを剥がしたり、用具のロゴを隠したりする必要があるなど、さらに追加の費用がかかることも多く、メルボルン・シティFCはグループリーグ3試合で計24万豪ドルの経費を見積もっているという。

 加えてより高いレベルの大会に出場するという点に関しても、疑問符が投げかけられている。分析レポートの調査結果によると、ACL全体のクオリティーは日本のJリーグ、韓国のKリーグ、サウジアラビアプロリーグよりも低く、「3つのリーグに所属するクラブにとっては概して、国内の他のクラブの方が、ACLの対戦相手よりも質が高いといえる状況」。ACL出場経験を持つJ1選手のうち国内リーグよりもレベルが高いと感じたのは6%にとどまったという。

 大会の賞金も23-24シーズンは約700万ドルで、これはアフリカのCAFチャンピオンズリーグの1000万ドルより少ない。さらに優勝クラブに400万ドル、準優勝クラブに200万ドルとほとんどが割り当てられており、残りの参加クラブには1勝あたり5万ドルの勝利ボーナス、1回あたり1万ドルの引き分けボーナス、そして決勝トーナメント進出時に成績に応じて支給される10〜25万ドルの参加費しか分配されないという問題もある。

 分析レポートでは「賞金とボーナスの配分が、上位クラブに極端に偏っているため、ACLからの金銭支給は、一部の強豪国に集中しているのが現状」としたうえで、「賞金の74%が日本、サウジアラビア、韓国、イランのチームに支払われている」と指摘。移動費も大会序盤のほうが多くかかる傾向にあるため、「現状のACLは、早期に敗退したクラブに、大きな金銭的負担をかけているともいえます」と結論づけている。

 こうした課題の指摘を通じて、FIFPROアジアは「AFCの意思決定方法に大きな原因がある」と指摘。AFCの意思決定に関わる票を持っているのは各国サッカー協会のみで、各国リーグ機構、クラブ、選手などのステークホルダーの意見が直接反映されないというガバナンスシステムに問題の根幹を見出した。

 その上で「アジアのプロサッカー発展のためには、重要なステークホルダーが協力し合う必要があります。つまり、今こそ、こうした問題について、今までのような、トップダウンの意思決定ではなく、パートナーシップ型の意思決定、具体的には、リーグ・クラブ、選手といった重要なステークホルダーを巻き込んだ形での意思決定を行う構造に変えていくべき」と意思決定方法の変革を主張。結論として「選手、クラブ、リーグ、AFCの間に真のパートナーシップを確立し、すべての利害関係者に結果をもたらす最高の国際クラブ大会を作っていく」よう提言した。

 50ページに及ぶFIFPROアジアの分析レポートは公式サイト(https://fifpro.org/en/supporting-players/competitions-innovation-and-growth/competition-design-and-structures/new-fifpro-asiaoceania-report-encourages-collaboration-between-the-afc-clubs-and-players-to-unlock-value-in-asian-champions-league)で全文無料公開されている。

(取材・文 竹内達也)

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竹内達也
Text by 竹内達也

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