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『SEVENDAYS FOOTBALLDAY』:17人の夏(JFAアカデミー福島U-18)

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チームにとって最後の夏の全国大会を戦うJFAアカデミー福島U-18

東京のユースサッカーの魅力、注目ポイントや国内外サッカーのトピックなどを紹介するコラム、「SEVENDAYS FOOTBALLDAY」

 自分たちが最後の代になることは、もう最初からわかっていた。それでもこのチームで戦うことを、この仲間たちと成長する日常を選んだからには、前に進み続けるしかない。それだけがここまで支えてきてくれた方々への恩返しになることは、17人全員が十分過ぎるほど理解しているから。

「寂しくはないですけど、残り短い時間なので、全力でやりたいですね。この仲間と一緒にできるのも今年が最後なので、6年間ずっと一緒にやってきている選手もいますし、そういうヤツらと一緒にもっと勝ち進みたい気持ちはあります」(JFAアカデミー福島U-18・花城琳斗)

 今年度での活動終了が発表されている、JFAアカデミー福島U-18のラストサムライ。個性に富んだ17人の3年生たちは、ほんの少しの感傷と、大いなる躍進への野心を携えて、みんなで戦う最後の夏に挑んでいる。

「逆転された時には、たぶんみんな気持ちが落ちた部分もあったと思うんですけど、『もう1回前向きにプレーしていこう』とみんなで声を掛けてから、チーム全員で戦えました」。JFAアカデミー福島のキャプテンを務めるDF長尾ジョシュア文典(3年)は逆転を許した時のチームを、そう振り返る。

 ゲームの入りは上々だった。湘南ベルマーレU-18と対峙したグループステージ初戦。先制点を挙げたのは前半14分。左サイドからMF植田陸(3年)がクロスを上げると、前線に入ったFW吉田喬(3年)は懸命に飛び付いてヘディング。中央へ折り返されたボールを、左サイドバックの位置から飛び込んできたDF林晃希(3年)がプッシュする。「まあアシストする気はなかったんですけど(笑)、良いアシストになって、波に乗れたのは良かったのかなと思います」と自らゴールを狙いに行った吉田は複雑な表情を浮かべたが、まずはJFAアカデミー福島が1点をリードする。



 だが、前半の終了間際に1本のスルーパスから同点弾を献上すると、後半はスタートから防戦一方に。8分には一瞬の隙を突かれ、クイックリスタートのFKから相手の突破を許し、逆転ゴールまで奪われてしまう。

 1点のビハインドを負ったチームは、冷静だった。「全然気持ちは落ちていなかったと思いますし、自分たちの力を出せば逆転できるとも思っていたので、まったく焦りはなかったですね」と吉田が話せば、チームの10番を背負うFW花城琳斗(3年)は「逆転された事実は変えられないので、『もう点を獲るしかない』と、そこをみんなで目指していましたし、個人としては『点を獲られたから?逆転されたから?何?』という感じで、自分が点を獲ればいいという想いでやっていましたね」とカラッと笑う。

 失点から2分後の主役は、「『逆転されたんだから、もう1回逆転し返してやる』という気持ちがありました」と言い切るナンバー8。10分。左サイドで獲得したCK。キッカーの花城の狙いは密集を外したファーサイド。そこへ正確に届いたボールを、MF山崎太湧(3年)はダイレクトボレーで叩く。

「練習もやっていましたし、イメージ通りにドンピシャで決まりましたね。もうアレは決めてくれた人が凄かったです(笑)」(花城)「弾道もちょっと低くて、結構前寄りのボールだったので、あとは当てるだけでした、練習では外していたんですけど、本番のために取っておいた感じでしたね(笑)」(山崎)。練習通りのセットプレーから、山崎のゴラッソが飛び出し、たちまちJFAアカデミー福島は同点に追い付いた。

 逆転のヒーローは、「シーズン途中からうまく行かなくなって、ベンチになったんですけど、控えの選手だけの練習でも自分に矢印を向けて取り組んできましたし、試合に出て結果で見返してやろうと思って、練習に励んでいました」と口にした途中出場のナンバー14。25分。ピッチ中央のルーズボールをかっさらったMF山口惟博(3年)は、少しだけドリブルで運びながらミドルレンジから右足一閃。クロスバーの下をかすめたボールは、あっという間にゴールネットへ吸い込まれる・

「あまり実感がなくて、頭が真っ白になった感じだったんですけど、みんなが寄ってきてくれて、それで『ああ、ゴールだ!』って(笑)。メチャメチャ嬉しかったです」。リーグ戦序盤のスタメンから一転して、今の立ち位置になったにもかかわらず、努力を続けてきた山口の姿はみんなわかっている。飛び出した“ジョーカー”の一振り。3-2。JFAアカデミー福島が鮮やかに再逆転してみせる。

 5分のアディショナルタイムが過ぎ去ると、主審のホイッスルが夏空へと吸い込まれていく。「最後の方は『早く終われ』と思っていましたし、疲れ切っていたので、『ああ。終わった……・。勝ったんだ……』みたいな感じでした。5分のアディショナルタイムは長く感じましたね」(長尾)「今年のチームは勝ち切れる所や、走り勝てるのがストロングなので、それをこういうゲームで発揮できるのは自分たちの強さだと思います」(吉田)「今日もそうですけど、今年のチームは『動じない』ということが結構特徴なのかなと思いますね」(花城)。JFAアカデミー福島は激闘を制し、幸先良く勝ち点3をもぎ取ることに成功した。



「難しい試合でした……」と苦笑した津田恵太監督は、終わったばかりの70分間をこう振り返る。「いろいろ準備してきたつもりだったんですけど、それでも普段はもっと走れる選手が走れなかったり、ちょっと準備が遅かったり、足を攣ったり、そういう難しさはたくさんありました。でも、交代して入った選手も、ハーフタイムにはチームメイトの身体を冷やす準備もしないといけなかった中で、自分に何ができるかということをしっかりと理解しながらやってくれたことが、あのゴールに繋がったのかなと思います。これがこの人数だからできる戦いなのかなと。本当に選手たちも、他のスタッフたちも、できる限りのことを尽くしてここまで来たという感じです」。

 指揮官が『この人数だからできる戦い』と言及するのには理由がある。この大会にエントリーされている、JFAアカデミー福島の選手は17人の3年生のみ。今年は新チームの立ち上げからこの17人だけで、プレシーズンの時期も、堂々と首位を走るプリンスリーグ東海も、もちろんこの大会の東海予選も、戦い抜いてきている。

 2006年に開校したJFAアカデミーは、その3年後に当たる2009年にスタートしたU-18の活動を、今年度いっぱいで終了することを発表している。U-15年代から入校した12人と、U-18年代から入校した5人を合わせた総勢17人は、自分たちがこのチームにおける“最後の代”になることは、入校当初からちゃんとわかっていた。

 昨年まではコーチを務めていた津田監督は、“最後の1年”に当たる今シーズンを半年近く過ごしてきた今、改めて感じていることをこう話している。「難しさはもちろんあります。でも、それは選手もスタッフも全員覚悟して今年を迎えているので、たとえば控えの選手が十分試合経験を積めないとか、トレーニングマッチも平日に入れたりしていますし、そういう難しさはあるんですけど、そこは工夫次第というか、『アレもない、コレもない』ではなくて、『この人数だからこういうことができるよね』ということを追求してできるというか、もう割り切ってやるしかないというところが最初からあるので、そういう意味ではあと半年も『オレたちだからできる戦い』を追求していきたいと思います」。

 山口も『この人数だからできること』をしっかりと実感している。「他のチームは選手がたくさんいて、それぞれにいろいろ役割分担ができると思うんですけど、自分たちはたとえば試合撮影のカメラもみんなでやるんです。でも、そうやって自分たちで試行錯誤しながらいろいろやることによって、コーチたちのような大人だけに頼らなくても、自分たちでもチームを支えることができますし、そこは他のチーム以上に強みだと感じます。寮生活も楽しいですし、自立できるのも良いかなって」。

 その想いは花城も同様だ。「水出しとか、水の作り方とか、少ない人数の中でどうやったら試合後の疲労回復ができるか、ハーフタイム中の身体の冷やし方も、もう大会が始まる2週間ぐらい前から、夜にみんなで集まって1時間ぐらい話していましたし、そういう部分は徹底してみんなでやってきたので、そこに関しては少ない人数だからこそできたのかなと思います」。

華麗なドリブルで中央を切り裂く10番のFW花城琳斗


 山崎はピッチ面での変化を口にする。「自分は去年から試合に出ていたんですけど、みんながメチャメチャ上手くなっているんです。去年はあまり出ていなかった選手もメチャメチャ点を獲ったり、メチャメチャ守備で頼もしかったり、そういう選手がいるので、チームとして強くなっている感覚があります。それに選手1人1人の責任感も強くて、みんなが『自分がやらなきゃ』と思うことでモチベーションも上がってきているので、チームの状態としては非常に良いと思います」。

 この大会に対する準備について、吉田が明かしたエピソードも興味深い。「この大会は朝早いゲームなので、いつも寮は10時半に消灯なんですけど、9時半に変えて、できるだけこのゲームの時間に合わせて調整してきました。普段はみんな朝5時に起きるなんてキツいと思うんですけど、それをみんなでこれまでやってきたので、今日もスッキリ起きられたと思います(笑)」。確かに『9時半就寝、5時起き』もこの人数だからできることの1つと言えそうだ。

 彼らを一番近くで見つめてきた津田監督も、17人の確かな成長を頼もしく感じている。「まずはこの一体感もそうですし、大人数だと自分1人だけがちょっと隠れていても気付かれないことができますけど、この人数だとそれはできないので、『自分がやるしかない』という主体性は、今年に入って1人1人本当に持てるようになったのかなと。その成長は日を追うごとに感じています」。

 さらに彼らを見守る周囲への感謝も、指揮官は忘れていない。「彼らは寮でゴハンを食べる時も凄く雰囲気がいいんですけど、時之栖の方々も凄く良くしてくれて、選手の誕生日になったらケーキを出してくれたりしますし、『最後の1年間をしっかり送り出そう』という想いは周りの方々からも感じます。また、そういうサポートをしてもらっているので、選手たちもそれに応えようとしてくれますし、それはこの人数じゃないと、なかなか感じられないことなのかなとは思います」。親元を離れて生活している彼らは、多くの人の愛情に包まれて、今日もグラウンドに立っている。

JFAアカデミー福島U-18を率いる津田恵太監督


 今回のクラブユース選手権は、JFAアカデミー福島U-18にとっても最後の参戦であり、17人にとってもこのチームで戦う最後の全国大会となる。そのストーリーを知っていれば、どうしてもそこにフィーチャーしたくなるが、選手たちはむしろもっとシンプルな想いを抱いているようだ。

「自分たちが最後の代だということはあまり気にしていないです。この大会に出られたことで強い相手とやれるので、ベスト16という目標の達成とともに、自分たちの成長に繋げられたら一番いいかなと。どこのチームも勝ちたいとは思うので、最後だからというような想いよりも、『とにかく勝ちたい』という気持ちだけが強いですね」(長尾)「そこらへんの責任は背負い過ぎず、いつも通りのプレーをすることを心がけているので、確かにチームの最後の1年ではありますけど、自分たちのサッカーをするだけだと思います」(吉田)。

 おそらくは口に出さなくても、17人全員が貫いている意志は、花城がこう代弁してくれた。「僕らはアカデミーの高校年代としての最後の年で、その最後が良くなければ、今までのアカデミーの伝統や良い文化が廃れてしまうと思うので、今年はアカデミーのコンセプトをしっかりとみんなが体現してやっている感じがします」。当事者は今を生きている。わかりやすいストーリーなんかよりも、目の前の相手を倒したいと、目の前の試合に勝ちたいと、彼らはもっと根本的な部分でサッカーと向き合っているのだろう。

 グループステージの2戦目はベガルタ仙台ユースと引き分けたため、決勝トーナメント進出は3戦目のサンフレッチェ広島F.C.ユース戦の結果次第になる。掲げてきたベスト16という目標を引き寄せるためには、勝利が必要な試合ではあるが、そんな大一番でも彼らの軸は変わらない。再逆転で白星を手繰り寄せた初戦の試合後に、津田監督が話していたことを思い出す。

「もちろん『できればいいな』とは思っていたんですけど、本当にこういう戦いができるようになるのは、なかなか凄いことですよね。実際に選手が1人1人成長してくれているので、自分自身も驚くくらいで『人って変わるんだな』って。そういう意味では貴重な経験をさせてもらっていると感じています。たぶんこういう経験は、大学に行ってからもそうですし、もしプロに行ったとしても、なかなかないものだと思いますし、ここで経験していることは次のステージに繋がることだと思うので、まだまだあと半年ある時間の中で、もっともっと成長してほしいですね」。

 その関係性はきっと、簡単に言葉で括れるはずもない。同じ空間で学び、遊び、ボールを蹴り、ともに成長してきた時間は、彼らを強い絆で結び付けてきた。言うなれば“一心同体”。17人で過ごす、かけがえのない最高の夏は、まだまだそう簡単に終わらせない。



■執筆者紹介:
土屋雅史
「群馬県立高崎高3年時にはインターハイで全国ベスト8に入り、大会優秀選手に選出。著書に『蹴球ヒストリア: 「サッカーに魅入られた同志たち」の幸せな来歴』(footballista)。」

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