beacon

「自分らのできることをやって恩返し」公式戦自粛明けの山梨学院高が首位・柏U-18撃破!!:プリンスリーグ関東1部

このエントリーをはてなブックマークに追加

[9.1 高円宮杯プリンスリーグ関東1部第11節 柏U-18 1-3山梨学院高 日立柏総合G]

 高円宮杯U-18サッカーリーグ2013 プリンスリーグ関東1部は1日、第11節を行い、最下位の山梨学院高(山梨)がFW高橋建也の2ゴールなどによって首位の柏レイソルU-18(千葉)を3-1で撃破した。

 ピッチ上で表現した一体感と強さ。活動停止及び公式戦自粛明けの山梨学院が終盤、10人での戦いを強いられながらも6戦連続不敗中で首位の柏に黒星をつけた。山梨学院のトップチームにとってはこれが活動再開後初の公式戦勝利。1人少ない状況の中で互いが声を掛け合い、ゴール前ではシュートブロックやスーパークリアを連発するなど“魂の守備”を披露、そして狙いすましたカウンター攻撃で3ゴールと勝ち点3をもぎ取った。

 山梨学院は今春、サッカー部員の暴行問題が発覚し、6月12日から8月11日までの2か月間、公式試合を自粛して全国高校総体山梨県予選やプリンスリーグ関東等の出場を辞退。09年度全国高校選手権で日本一に輝いている名門はチーム全員が個々の行動、気持ちの緩みを反省し、問題を起こした責任を忘れず、再び地域に愛されるチームを目指してこの夏を過ごしてきた。活動再開初戦となった市立船橋高戦(8月25日)は、全国総体優勝校相手にシュート数、決定機の数で互角に持ち込みながらも1-5で敗戦。ただ、この日山梨学院が見せた勝利への貪欲さ、団結して戦う姿は格別だった。もちろん退場者を出した中でリードを守る試合展開だったという理由もある。それでも吉永一明監督が「いろいろな問題があった中で、みんなで苦しい思いをしたり、笑ったりというような部員全員が一体感を持てるような取り組みを夏にやってきたつもりです」と説明したチームは目の前の試合に集中して戦いぬく。

 また、試合へ向けた一週間はBチームの選手たちがAチームとのゲーム練習で非常に熱いプレーをして後押し。指揮官も「サブチームがスモールゲームでも1対1の局面だったり、球際だったり、バチバチ行って、激しいトレーニングをやってくれたのは凄い良かった。『Bチームの方に感謝してくれないと困る。非常にいいことだよ』という話をしましたけれど、そういう状況が日常からつくり出せるようになった。(彼らの心が)完全に成長しきれたとも思わないけれども、凄い葛藤は見えるし、それは個人としても、グループとしても、なんとかここで我慢してとか、乗り越えてというところは多少なりとも見える場面が多くなりましたね」。再スタートを切ったチームの代表としてプレーすることへの思いも伝わってくる90分間だった。

 立ち上がりからボールを保持したのは、けが人などの影響で1、2年生9人が先発した柏。自分たちのスタイル通りに徹底したポゼッションでボールを縦横へと動かすと、最終局面では背後のスペースを狙ったラストパスやクロスを通そうとしてくる。柏の下平隆宏監督が「きょうは悪くなかったと思う。(カウンターから失点しても)ネガティブにならず、自分たちのスタイルを崩さなかった」と振り返ったように、MF手塚康平やMF会津雄生が多くボールに絡み、最前線のFW大島康樹が脅威となるなど、PA付近での攻撃を繰り返した。だが、前回4-6で敗れた反省点を修正して5-3-2の守備的布陣で試合に臨んだ山梨学院はチームリーダーのDF毛利駿也や対人の強さ、ポジショニングの速さを示したDF渡辺剛中心に穴を開けない。20分には柏MF山本健司の右足シュートがGK不在のゴールを捉えたが、毛利がゴールライン上でクリア。危ない場面も何度もあったが、MF小林智光や左DF冨田博斗が懸命に戻ってクリアするなど得点を許さなかった。

 また、MF樋口竜也やFW山口一真が前線から人数をかけてボールを奪い返そうとする柏のプレッシャーを剥がして前進。集中した守備と同時に技術の高さも示した山梨学院の攻撃力が柏ゴールを破る。37分、中盤でボールを奪った山梨学院は間髪入れずにショートカウンター。中央をドリブルで駆け上がった樋口が左前方へパスを送ると、山口がスライディングタックルしてきたDFをかわしてPAへ侵入する。背番号10の注目FWはさらにカバーにきたDFを緩急をつけたドリブルで振り切って左足を振りぬくと、クリアしようとしたDFがオウンゴール。少ないチャンスをものにした山梨学院がリードを奪った。

 関東地方を襲った雷雨の影響か、急激に空が暗くなり、風も強まった後半、山梨学院が加速する。7分、自陣中央で相手ボールをつついた小林智が高橋へつなぐと、高橋がハーフウェーライン付近から独走。一気にPAへまで持ち込むと、対応したDF2人を物ともせずに左足を振りぬく。狙い通りの一撃がGKの指先を抜けてゴール右隅へ吸い込まれると、ファインショットを決めた高橋中心に青いユニフォームが喜びを大爆発させた。

 ピッチ内はもちろん、ピッチサイドでもサブ組の選手たちが好プレーを讃える声を連発。攻められ続けていた展開もあってチームの一体感が伝わってくるような戦いぶりだった。後半13分に相手の突破をファウルで止めた毛利が決定機を阻止したとして一発レッド。この後は相手DFを引き出すようなポジショニングと正確なパスワークを見せる柏の前に、自陣にほぼ釘付けにされて攻められ続けた。だが声が途切れない山梨学院は冨田や高橋がエネルギッシュにボールを追い、PAで穴をつくらない。そして後半29分、山梨学院は右サイドでボールを奪った高橋が再び敵陣を独走。迷うことなく一直線にゴールへ突進した高橋はフェイントでわずかにマークをずらしてから勝利を大きく引き寄せる右足シュートをゴール左隅へ流し込んだ。

 0-3となってもスタイルを変えることなくポゼッションから攻める柏は、42分に山本からDFのギャップを突くパスを受けたFW宮澤弘が右足シュートをねじ込んで1点を返した。堅守をこじ開けレベルの高さを印象づけた柏だったが、この日は山梨学院に軍配。1点のみに終わった柏は、同日に市立船橋を破った2位・前橋育英高(群馬)に首位の座を明け渡した。

 この日ポテンシャルの高さを示して勝った山梨学院だが、まだリーグ9位。公式試合を自粛したことによってプリンスリーグでは7月の3試合が全て不戦敗(0-3扱い)となり、加えて勝ち点「3」を没収されている。ただ、新人戦山梨県大会、関東大会予選を制しているチームは山口、樋口をはじめ昨年からの経験者、タレントが多く、チーム力は全国でも上位にあることは間違いない。冬の高校選手権で日本一を獲得し、プリンスリーグでも残留を決めることが彼らの目標だ。高橋は「迷惑かけた分もある。これから選手権もあるし、プリンスもまだあるのでどんどん恩返ししていきたい。夏、自分らでやったことを反省して苦しいことをやってきた。これから選手権モードに入るので、自分らのできることをやって恩返しできたらいい」。支えてくれる人々に感謝し、自分たちが今できることを精一杯続ける。

[写真]先制点を喜ぶ山梨学院イレブン

(取材・文 吉田太郎)
▼関連リンク
2013 プリンスリーグ
2013 プリンスリーグ関東1部

TOP