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【GK's Voice 5】守るだけでなく攻め続ける…広島・大迫敬介「僕は仕掛けるタイプ」

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サンフレッチェ広島GK大迫敬介

GKヒューマンドラマ『蒼のアインツ』第1話を読む↑

 試合に一人しか出場できない。そしてピッチ上でただ一人、手でボールを扱うことが許されたポジション。それがGKだ。“孤独なポジション”で戦う彼らはどのような思い、考えを持ちながらトレーニングに打ち込み、ピッチに立っているのか――。ゲキサカではコミックDAYSで好評連載中の『蒼のアインツ』とのコラボ企画として、GKにスポットライトを当てた連載を不定期で掲載中。第5回はサンフレッチェ広島でプレーするGK大迫敬介に幼少時代から現在までを振り返ってもらい、GKとして生きていく術を聞いた。※オンラインにて実施

GKに対してマイナスのイメージはなく
「やりたくない」と思うことはなかった


――まず、サッカーを始めたきっかけを教えて下さい。
「小学1年生のとき、兄が友達に誘われてサッカークラブの練習に行ったのについていったのがきっかけで、僕もそのままクラブに入りました。幼稚園にはサッカークラブがなかったし、遊びでやる程度だったので、本格的に始めたのはそのときからでした」

――サッカーを始めた頃のポジションは?
「始めて半年から1年くらいはフィールドプレーヤーとしてプレーしていました。ただ、チームに決まったGKがいなかったから、『それなら自分がGKになりたい』と思っていたし、遊びの中でGKをしていくうちに『GKって楽しいな』と思うようになっていたので、自分から『GKがしたいです』と伝え、小学2年生になる前には基本的にGKとしてプレーするようになりました」

――サッカーを始めたばかりの頃は、GKに対してマイナスのイメージを持つ選手も多いと思いますが、その印象はありませんでしたか。
「僕の場合はマイナスのイメージは全然なくて、逆にGKでプレーしたかったです。地元はすごい田舎だったので、全学年を合わせてもチームの人数は20人いなかったと思う。低学年の頃からずっとGKとして試合に出ていたので、『フィールドで試合に出たい』というよりも、『GKをやりたくない』と思うことがなかったですね。あと、シュート練習で、固定されたGKがいないと『止められなくても仕方ない』という感じになり、結構甘いシュートでもゴールになっていたので、僕は『絶対に止めてやるぞ』とガンガン飛び込むようにしていた。ゴールを守ると、皆から『すごいぞ』と言われるようになって、シュートを止めるのがすごく楽しくなりました」

――Jリーグの影響を受けて、GKへの憧れが強くなったということは?
「当時、僕の出身地である鹿児島にはJリーグのクラブがなく、その頃はプロサッカーの試合を見る機会は限られていました。唯一、日本代表の試合はテレビで放送されていたので、川口能活選手などがプレーする姿を見て『格好いいな』ともちろん思いましたが、自分がGKをやりたいという気持ちが一番強かったです」

――当時、GKコーチはいなかったと思います。どのような練習をしていましたか。
「専門的なGKの練習はなくて、シュートを蹴ってもらって止めることを繰り返していた。コーチのシュートは同世代の選手のシュートよりも速いし、ものすごく強かったので、そのシュートを止められるようになってくると、うまくなっていると感じられました。小学6年生くらいからは選抜に入るようになり、トレセンに行ったときにGKコーチから専門的な練習や技術を教えてもらえるようになった。選抜で教えてもらったことを自分のチームに持ち帰り、後輩のGKに教えていましたが、後輩に伝えるために頭の中を整理しないといけないし、反復練習することで、自分の中でも一つひとつ確認しながら練習できていたと思います」

――中学に進学した頃、どういう目標を掲げてサッカーに打ち込んでいましたか。
「中学のときに在籍したフェリシドFCの佐渡谷聡監督が元サッカー選手だったので、監督と出会ってからプロの話を聞くようになり、本気でプロを目指すようになりました」

――佐渡谷監督からは大きな影響を受けたようですね。
「プロを目指すきっかけを与えてくれた監督の存在は、僕にとって大きかったですね。監督が知り合いを通じてJリーグのGKコーチと連絡を取って、GKの練習メニューを考えてくれたし、福岡に遠征に行ったときにはアビスパ福岡の試合に連れて行ってくれました。今、考えると、プロの試合を見せることで僕たちに刺激を与えてくれていたと思います。あと、小学生の頃はキックの精度を考えずにとにかく遠くに飛ばせば良かったけど、監督からキックの指導を受け、コツを教えてもらうことで、その精度を少しずつ上げていくことができました」

「サッカーに集中できる」ことを理由に入団した広島ユースでは「濃い一日一日を過ごせた」

クロスを「上げられた」ではなく「上げさせた」
シュートを「打たれた」ではなく「打たせた」


――高校生になると、広島ユースに入団して鹿児島を離れることになります。他チームからも誘いがある中で、なぜ広島行きを決断したのでしょうか。
「いろいろなチームの練習に参加しましたが、サッカーに集中できる環境が整っていたのが広島でした。学校や寮、グラウンドの環境も良かったし、全寮制というのに魅力を感じました。団体生活をしていればチームとしての結束力も高まるし、スタッフが集まればミーティングもできるので、すごく強いチームになれるんじゃないかなと思いました」

――高校時代は色々なものに興味を持ち、「遊びたい」という気持ちもあったと思います。
「いろいろな誘惑があると思っていたので、そこで自分が流されないようにサッカーに集中できる環境を選んだつもりです。朝練をして、学校に行き、学校が終わればまた練習です。生活していたときはバタバタしていて、きついなと思った時期もあったけど、サッカー選手になるために本当に濃い一日一日を過ごせていたと思います」

――ユースにはレベルの高い選手が集まっており、これまでは感じなかった“壁”もあったと思います。
「中学生までは後ろからボールをつなぐことはなく、僕までボールが戻ってきたら、皆がラインを上げて大きく蹴ることがほとんどだった。でも、広島ユースでは練習から足下でつなぐ練習が多かったので、そこはすごく苦労しました。あと、シュートストップの部分は強みでしたが、シュートを打つ選手のレベルも高くなり、シュートストップの技術も伸ばさないといけないと感じました」

――ただ、GKコーチから日々指導を受けることで、これまでとは異なる成長もあったと思います。
「GKコーチと一緒に専門的な練習をすることは経験したことがなかったので、毎日がすごく楽しかったし、自分がうまくなっている感覚がありました。GKが不利なシチュエーションの練習では最初の頃は全然止められなかったのに、繰り返していくうちに止められるようになったり、練習で想定したシチュエーションでイメージ通りにプレーできるようになることで、さらに自信がついていったと思います」

――GKとして充実感を得られる試合展開、試合内容はどういうものでしょうか。
「いつも目標にしていますが、失点ゼロで勝利できたときはすごく嬉しい気持ちになります。一試合でピンチがゼロということは絶対にないので、そのピンチを味方の力を借りて防いだり、自分がシュートストップしたり、結果的にゼロで終えられたときはものすごい達成感があります」

――では、GKとしてプレーする醍醐味や面白さをどういう部分に感じていますか。
「GKはシュートを止めるポジションなので、多くの人は受け身のイメージを持っていると思います。相手がやってきたことに対し、GKはどのプレーを選択するのかと思われがちだけど、意外と自分が先手を取っています。あえてスペースを空けたり、コースを制限することで『クロスを上げられた』ではなく『クロスを上げさせた』、『シュートを打たれた』ではなく『シュートを打たせた』ことになります。リアクションではなく自分からアクションを起こして攻撃的に守り、狙い通りに相手攻撃をストップできたときは楽しいし、自分のフィードでピンチから一気にチャンスに持っていけるのは醍醐味だと思います」

――試合中に相手選手と多くの駆け引きがあるのですね。
「ボールホルダーや相手選手と細かい駆け引きを結構していて、クロスの場面では相手が蹴るモーションに入ってボールを見た瞬間に、ちょっとだけポジションを前にずらしたりします。相手選手のボールへの入り方やキックモーションを見れば、速いボールが来るか、フワッとしたボールが来るかは大体分かるので、前もって良いポジションを取れると、ボールにより積極的に行けるようになります。相手との駆け引きはすごく楽しいし、ビルドアップで相手の隙を突けたときも嬉しいですよ」

東京五輪世代の代表の守護神を務めるだけでなく、コパ・アメリカのチリ戦でA代表デビューを飾った

悩んでいるときに好パフォーマンスは出せない
メンタルの部分がプレーに与える影響は大きい


――逆にGKだからこそ感じる辛い瞬間は?
「GKはどうしても失点に絡んでしまうポジションです。ノーリスクで安全なプレーをすれば、失点の確率を下げられるかもしれませんが、僕はそうではなく、どんどんトライしています。ただ、そのトライがミスとなり、自分のプレーが失点の起点になってしまったときは、『やってしまった…』と思うし、その失点で負けたときは本当に申し訳ないと思います」

――どうしても、GKは一つのミスがフィーチャーされがちです。仮にミスから失点した場合、どのように自分をコントロールしてきましたか。
「たとえ、ミスをしても引きずりません。初めてミスから失点したときは、どうしても落ち込んでしまうけど、いろいろな経験をしてきた中で、その場での切り替えはうまくなってきたと思う。ミスをしたプレーの修正点が分かっていれば、次に同じシチュエーションになったときに良いチャレンジができます。その繰り返しで成長していくことになるので、気持ちの切り替えは大事だと思います」

――ただ、一つのミスでポジションを失う可能性もあります。今季は逆転負けを喫した第3節大分戦以降、3試合ベンチを温めることになりました。
「どのポジションもそうですが、いつポジションを失ってもおかしくない状況だと思います。でも、ベンチから試合を見ることで気付くこともあります。今回はピッチの外から見ることでピッチが広く見えたり、ピッチに立っていたときには相手のプレッシャーをものすごく感じていたけど、もう少し余裕を持っても大丈夫かなと考えられるようになった。試合に出られなかった時間もプラスに捉えられたし、もう一度試合に出たい思いが強くなりました」

――今後もGKとして生き残っていくために、何が一番重要だと感じますか。
「いろいろあると思いますが、自分が今、感じているのはメンタルの部分の重要性です。ミスをして失点に絡んだり、悪い流れが続いたときに考え込む時期があったけど、悩んでいるときに好パフォーマンスは出せないし、チームの結果にも結び付かなかった。だから、切り替えるというよりも、吹っ切るようになりました。大げさに言うと、たとえ完璧な内容ではなく、自分がどれだけミスをして試合が終わっても、無失点なら周りから何を言われてもいいくらいに思うようにしている。そうすると、次の試合ではミスを怖がらずに思い切ってチャンレジできるようになるので、メンタルの部分がプレーに与える影響は大きいと思っています」

――今後、どのようなGKになっていきたいか理想像を教えて下さい。
「結果を出し続けたいと思っていますが、自分らしさを前面に出していきたいです。守るだけではなくチャンスを作り出し、自分から相手のプレーを誘導するような攻撃型のGKになっていきたい。やっぱり僕はゴール前に張り付いて守るタイプではなく、自分からどんどん仕掛けていくタイプのGKだと思うので、これからもチャレンジし続けたいと思っています」

――最後にGKとしてプレーする中高生にメッセージをお願いします。
「GKというのは失点に絡んだときにバッシングを受けたり、ネガティブでナーバスなポジションに見えるときもありますが、フタを開けてみると、1点取ることと同じくらい、1点を守ったときの達成感があります。そして、守るだけでなくチャンスも作り出せる唯一のポジションだと思うので、ものすごくやりがいがあります。時にはつまずくこともあると思いますが、目標を立てながら乗り越えられるように頑張ってほしいです」

【『蒼のアインツ』とは…】
コミックDAYSで好評連載中。プロ3年目、20歳のGK・神谷蒼は、万年下位のクラブを3位に躍進させる活躍が認められて、日本代表に初選出された。その後、さらなる成長を求め、ドイツ2部のチームに海外移籍。だが、合流早々、足に大怪我を負い、出遅れてしまった上に、新監督から事実上の戦力外通告を突きつけられてしまう。蒼はドイツで輝くことができるのか――。『1/11 じゅういちぶんのいち』の中村尚儁が贈る、GKサッカーヒューマンドラマ、キックオフ!


(取材・文 折戸岳彦)

↑GKヒューマンドラマ『蒼のアインツ』第1話を読む↑

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