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キャプテンマークを巻いていないキャプテン。開志学園JSC FW澤田優一朗が10番を託される理由

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開志学園JSC高が誇る3人制キャプテンの一角、FW澤田優一朗

[6.5 インターハイ新潟県準決勝 帝京長岡高 0-1 開志学園JSC高]

 試合終了のホイッスルが鳴ってしばらくすると、今まで感じたことのない想いが、押し寄せてきた。「終わった瞬間も実感がなかった訳ではないですけど、少しして急に『ああ、勝ったんだ』という想いが湧いてきて、他の人が叫んでいるのを見て、ちょっと泣いちゃったんです。とりあえず明日があるからと思って、もう切り替えていますけど」。今年の開志学園JSC高が誇る、3人体制のキャプテンの一角。FW澤田優一朗(3年=バリオーレ日の出出身)の涙には、いろいろな感情が入り混じっていた。

 いくつかの可能性を考えていた中学3年時に、全国的な強豪校のセレクションを受けたものの、結果は不合格。そんな時、当時も今もチームメイトであり、友人でもあるMFモーリス・ケンヤ(3年)と一緒に「自分で行った所を正解にしようと」、澤田は開志学園JSCへの進学を決意する。

 入学すると、すぐにAチームの練習には参加していたこともあり、2年生を飛躍の年にするつもり、だった。「『これから試合に出ていけるかな』と自分の中で思っていて、『リーグ戦が始まるぞ』と思ったら、コロナウイルスがあって、試合勘も自分の中で全然なくなっちゃって、もうまったく自分のプレーも思い出せなくて、それからメンバーにも入れず、という厳しい1年でした」。

 覚悟を決め直して迎えた最高学年。澤田は3人制が敷かれたキャプテンの1人に指名される。「私生活とかマジメなだけなので、たまたま入れられた、みたいな感じです」とは本人だが、宮本文博監督は全体のバランスを考え、目に見えるようなリーダーシップを発揮できる2人が気付かない所を、しっかり拾える澤田の人間性を評価していた。

「東(界杜)が気付いたらキャプテンマークを巻いていて、アイツが一番やりたそうでしたし、特に誰も反対はなかったですね。GKの中島(巧翔)は圧倒的な実力で引っ張ってくれるみたいな安心感があって、私生活でも声が出せるので助かっています」。あとの2人のキャプテンを称えるあたりに、やはりマジメさが滲む。

 その一直線な姿勢は、この日の帝京長岡高と対峙した準決勝でも現れる。チームで決めた、相手の嫌がるロングスロー攻勢。そのスローワーには、澤田が指名される。「ある時に投げたら『意外と行けるじゃん』と。特別なトレーニングというのは中学でも高校もあまりしていないですけど、『気付いたら飛んでいた』みたいな感じでした」。そこからは自分の武器として、懸命に努力を重ねてきた。

 投げる。相手陣内の深い位置でスローインを獲得したら、とにかく投げる。唯一のゴールはそこから生まれた訳ではなかったが、その愚直な連続性に、帝京長岡の集中力も少しずつ、少しずつ削がれていったことが、結果的に決勝点に繋がったというのは、あながち間違いでもないだろう。

 託された10番は、少し重いが、背負っていく覚悟は定まりつつある。「最初は自分が下手なので『オマエ全然似合ってねえぞ』って、『オレが10番付けるわ』みたいに茶々を入れられるんですけど、まあみんなもだんだん認めてきてくれているのかなって思っています」。

 チームメイトもわかっている。「自分はマジメさでキャプテンに選ばれただけで、他の人に比べて実力がある訳じゃないので、私生活も隙なくやったり、試合でも誰よりも走ったり、フェアプレーをしたり、そういうことを意識してやっています」と口にするような澤田の謙虚さも、試合に勝って泣くことのできる熱さも、ゆえにチームにとって欠かせない存在であることも。

「今年はキャプテンにもなりましたし、一応10番も付けているので、その自覚はありますし、インターハイ、選手権、新潟の県1部リーグを絶対優勝して、今まで開志でそういう学年はなかった“三冠”を絶対獲ろうってみんなで言っています」。

 まずは一冠目へ向けたラストゲーム。その決戦の舞台でも、10番を背負ったキャプテンマークを巻いていないキャプテンは、いつもと変わらずマジメに、愚直に、自分にできることを100パーセントでやり続けるに違いない。

(取材・文 土屋雅史)
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