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チームにまっすぐな芯を通すキャプテン。米子北DF鈴木慎之介が纏う絶対的な安心感

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米子北高を牽引した頼れるキャプテン、DF鈴木慎之介(写真協力=『高校サッカー年鑑』)

[8.22 インターハイ決勝 米子北高 1-2(延長) 青森山田高 テクノポート福井総合公園スタジアム]

 目の前で叩き込まれたゴールの瞬間は、絶対に忘れない。キャプテンだとか、ディフェンスリーダーだとか、そういうことは関係なく、1人のサッカー選手として、あの瞬間は絶対に忘れたくない。

「こういう勝たなければいけない試合で落としてしまうというのが、今の米子北高校の現在地だと思うので、また冬の選手権に向けて来週から公式戦も始まりますし、もう1回切り替えてというか、気を引き締め直していかなければいけないなということが分かった試合だと思います」。

 日本一の座を寸前のところで掴むことができなかったキャプテン。米子北高(鳥取)のディフェンスリーダーを任されたDF鈴木慎之介(3年=大宮アルディージャジュニアユース出身)は、それでも十分に胸を張っていい。

 大声を張り上げて、チームメイトを鼓舞し続けるタイプではない。話してみても冷静に、丁寧に、言葉を発していく。ただ、この男が最終ラインにいるだけで、チームに1本のまっすぐとした芯が通る。

 後半のラストプレーで劇的に追い付き、PK戦で勝利を収めた初戦の帝京高(東京)戦。試合後には取材エリアに到着しているにもかかわらず、なかなか自身のインタビューが始まらないというハプニングがあったが、その場で状況を見極めながら静かに待っている姿に、誠実な人間性が透けて見えたことは強く記憶に残った。

 1試合ずつ、粘り強く勝ち上がって辿り着いた決勝の舞台。「青森山田は大会を通して凄く迫力のあるチームだと思っていて、実際に戦ってみてもそうだったんですけど、全然やれる部分もありました」と鈴木が語った言葉通り、開始10分で先制した米子北は、高校最強チームの圧力にも屈することなく、鈴木を中心にゴールへ鍵を掛ける。

 前半の終盤。負傷した選手の治療で少し試合が止まったタイミングで、ディフェンスラインの選手たちが集まって、守備の対応を話し合う一幕があった。全国決勝。青森山田相手に1点をリード。ただでさえ高揚するようなシチュエーションにもかかわらず、冷静に現状を分析するような鈴木の立ち姿は、間違いなくチームメイトに勇気と安心感を与えていたはずだ。

 最初の失点は後半34分。想定していたロングスローではなく、クイックで始められたスローインからのクロスに、対応が後手に回る。「相手の特徴がセットプレーやコーナーキックだったので、悪い方に捉えずに、どれだけ嫌がらずにできるかというのが課題だったと思うんですけど、この試合はロングスローばかり入っていたので、失点の場面はボールを見ていなくて、そういうところに気の緩みが含まれていたことで、失点に繋がったのかなと思います」。

 最後の失点は延長後半10+1分。相手のコーナーキックにマークがわずかにズレると、懸命に飛び込んだ鈴木の目の前で叩かれたヘディングは、ゴールネットを揺らしていた。ほんの少しだけピッチに突っ伏したキャプテンは、それでもすぐに立ち上がると、倒れ込むチームメイトに声を掛け、整列へと向かうことを促す。毅然とした態度はキャプテンというより、鈴木個人の人間性をよく現わしていた。

「この試合を通してでも、選手1人1人が成長して、声を掛け合うことができていたのかなと思います。これから自分たちが勝つためには、できていない所を改善していって、やれた部分や勝っている部分をもっと伸ばしていきたいなと思います」。試合後。鈴木はこう語った。青森山田に『勝っている部分』。そのことを尋ねると、答えた言葉に自分たちが積み上げてきたスタイルへの自信とプライドが滲む。

「ゴール前の身体を張るところだったり、シンプルに走るところだったり、気持ち的な面では、今日の試合だけ見ると相手より頑張れたんじゃないかなと思います」。

 キャプテンであり、ディフェンスリーダー。チームをまとめる役割を常にこなしてきた鈴木が、1人のサッカー選手として、この悔しい経験をどう成長に繋げていくのかは、大いに楽しみだ。

(取材・文 土屋雅史)
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