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「よし!やっと来た!」。苦しい1年を過ごしてきた北越が“自信のPK戦”で粘る上越を振り切ってファイナル進出!

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北越高は“自信のPK戦”を制してファイナルへ!

[11.3 選手権新潟県予選準決勝 上越高 1-1(PK3-5) 北越高 新発田市五十公野公園陸上競技場]

 後半終盤に追い付かれた。押し込み続けた延長も勝ち越し点を奪えなかった。傍から見れば“もつれ込んでしまった”PK戦。だが、彼らはむしろこのシチュエーションをポジティブに捉えていた。

「去年の選手権の準決勝で帝京長岡にPK戦で負けたことが凄く大きくて、実はこの1年間でPKは結構練習してきていたんです。今まで僕はあまりPKの練習は好きじゃなかったのでやっていなかったんですけど、去年のことがあって、『やっぱりこれって年間通してやっていないとダメだよね』ということで続けてやってきたので、彼らもPK戦になって『よし!やっと来た!練習してきたことが出せるぞ!』ぐらいの雰囲気でした」(北越高・荒瀬陽介監督)。

 1年越しのPK戦勝利。31日、第100回全国高校サッカー選手権新潟県予選準決勝、創部6年目で初のベスト4に意気上がる上越高と、12年ぶりの全国を狙う北越高が激突した一戦は、後半15分に北越がCKからDF高橋泰輝(1年)のヘディングで先制すると、上越は33分にこちらもCKの流れでMF家塚成輝(3年)が同点弾。最後はPK戦を5-3で制した北越が、ファイナルへの挑戦権を獲得している。

 立ち上がりから押し気味にゲームを進めたのは北越。前半14分にはFW小林謙心(2年)がミドルレンジからチーム初の枠内シュート。ここは上越GK伊海央祐(1年)が何とか凌いだものの、1つチャンスを生み出すと、20分にも右SB鈴木洸聖(3年)のパスを受けたMF堀野辺空(2年)が鋭いクロス。ここも飛び出した伊海が何とか掻き出したが、まずは積極的に相手ゴールへ迫る。

 北越は「あのへんの関係性はやっぱり良いですね。サイドで選手がもう1枚絡んできてとかは、ここ最近は凄く良いと思います」と指揮官も言及した右サイドのアタックが充実。堀野辺と鈴木の連携に、キャプテンマークを巻く右ボランチのMF五十嵐暉(3年)を交えたチャンスメイクが冴える中で、33分にはMF稲葉悠(3年)の積極的なフィニッシュから奪った左CKを五十嵐が蹴り込むと、MF田中亮(3年)が合わせたヘディングは枠を越えたが、続く攻勢の時間。

 一方の上越は「やれることをしっかり整理して、落とし込んできたチーム」(藤川祐司監督)。DF田中皓稀(2年)とDF斉藤聖(2年)のCBコンビを中心に、まずは守備の意識を整えながら、素早いアタックに活路。37分には左右両足でプレースキックを蹴っていたMF望月洸聖(1年)が、ここは右足でミドルを狙うと、上越のGK内田智也(2年)が何とかセーブ。1つチャンスを作り出し、最初の40分間を終える。

 後半も北越が攻める。12分。鈴木のクロスから、FW吉田勝己(3年)が放ったシュートは上越のMF杉本大空(3年)が懸命に身体でブロック。13分は決定機。右サイドで鈴木、堀野辺と繋いだボールを、五十嵐が折り返すと、FW高橋航輝(1年)のフィニッシュは右ポスト直撃。じわじわとゴールへ迫ると、均衡が破れたのは15分。

 右サイドで獲得したCK。五十嵐がアウトスイングで入れたボールに、高橋泰輝がドンピシャで叩いたヘディングは、バウンドしながらゴールネットへ到達する。「1年生に見えないですね。彼もヘディングは強くて、『たぶん獲ってくれるだろうな』という気はしていたので、やってくれました」という指揮官の期待に応える、1年生センターバックの先制弾。北越がリードを奪う。

「だいぶ押し込まれていた時に獲られてしまったので、雰囲気の悪い感じはあったんですけど、時間は十分ありましたし、『何も下を向く必要はないな』という感じでした」。キャプテンのMF宮本昂成(3年)が振り返ったように、上越は焦らなかった。もともと劣勢の展開は織り込み済み。耐えて、耐えて、一刺しを狙う。

 33分。上越が得た左CK。望月のキックに、ニアへ突っ込んだ杉本のヘディングは内田がファインセーブで弾き出すも、こぼれに詰めた家塚のシュートが力強くゴールネットを揺らす。「良く追い付いたと思います。本当に胸が熱くなりましたし、見ていて誇らしかったですね」(藤川監督)。1-1。上越がこの試合最初の決定機で追い付いてみせた。

 延長も北越が攻め、上越が守る。上越が凌ぎ、北越は切り崩せない。20分間で得点は生まれず、決勝進出の行方はPK戦へと委ねられる。

 1年前。この日と同じ選手権予選準決勝。北越は帝京長岡高に、PK戦の末に涙を呑んだ。もうあんな想いはしたくない。荒瀬監督は自身の信念を曲げてまで、日常の練習にPKを組み込み、勝利への執念を植え付けてきた。五十嵐。小林。堀野辺。吉田。4人目まで全員が完璧なキックを成功させる。

 守護神も魅せる。上越1人目のキックを、内田は力強く弾き出す。「最初に自分は右に思い切り飛ぶつもりだったんですけど、相手の目を見たら自分が飛んだ左の方向に向いていたので、もう『そっちに思い切り飛ぼう』と決めました」。積み上げてきた練習の成果を、大一番で発揮する。

 北越の5人目。決めれば勝利のキッカーは途中出場のDF布川楽生(3年)。「途中出場が多いんですけど、よく決勝ゴールを決めたりしていて、何か持っている選手なので、『大丈夫だな』と思って5人目に決めました」(荒瀬監督)。布川のキックは右。GKは左。1年間の執念、結実。北越が粘り強く戦った上越の挑戦をPK戦で退け、3年ぶりとなるファイナルへと勝ち上がった。

 去年の秋からの1年は、北越にとって苦しい時間だった。「ちょうど1年前に秋の地区大会で負けて、シードを落として、そこから春地区大会、県総体とすべてシードなしで戦って、順番に負けてきたので、やっぱり『ここで最後に頑張らないといけないよ』というところで、チームが1つになった雰囲気があって、夏休み明けのリーグ戦ぐらいから調子が凄く上向きになってきたんです。選手たちが良く気持ちを切り替えて、『ここで終わらないんだ』と思ってやってくれたのがこの結果、こういう勝利に繋がっているんじゃないかなと思います」(荒瀬監督)。

 とりわけ3年生の一体感が、このグループを牽引してきた。Bチームの選手も含めて、練習から盛り上げる声を出し、学年でのミーティングも重ねながら、それぞれが自分にできることを考え、チームのために日々を過ごしてきた。「技術は他のチームに比べたら低いかもしれないですけど、仲が良いのでコミュニケーションは多く取れるチームだと思います」。以前に五十嵐が話していた言葉を思い出す。スタンドも含めたポジティブな空気が、この日の勝利に繋がっていたことは間違いない。

「本当に今までトーナメントで勝ってきていないチームでしたけど、PKだろうと何だろうと、やっぱり勝てたということが彼らの自信に繋がってきていると思いますし、そこの自信は付けてきてくれているので、次もしっかりやってくれるんじゃないかなという気がします」(荒瀬監督)。

 この4年間の選手権予選。北越はすべて帝京長岡に敗退を突き付けられている。5度目の正直へ。苦しみ、もがき、それでも前に進んできた今の北越は、きっと自分たちが思っている以上に、強い。

(取材・文 土屋雅史)

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