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“囮”グルグル、4連トレイン、6人大回転…妙技連発の高川学園、ラストCKで劇的8強入り!! 相手もお手上げ「対策していたが…」

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MF西澤和哉(3年)が劇的な決勝弾

[1.2 選手権3回戦 高川学園高 1-0 仙台育英高 等々力]

 第100回全国高校サッカー選手権は2日、3回戦を行い、等々力陸上競技場の第2試合は高川学園高(山口)が仙台育英高(宮城)を1-0で破った。ユニークなセットプレー戦術で世界から注目を集める高川学園は、この日もCKから決勝点。0-0で迎えた後半アディショナルタイム3分、相手の裏をかいたオーソドックスな陣形で左CKをスタートすると、途中出場のMF西澤和哉(3年)が劇的なダイレクトシュートを突き刺した。

 拮抗した展開となった伝統校同士の一戦。両チーム通じてのファーストシュートは前半19分。仙台育英は左に開いたMF小林純太(3年)のフィードからMF島野怜(3年)が頭で狙ったが、高川学園GK徳若碧都(3年)の正面を突いた。直後、高川学園もFW林晴己(3年)が遠目から狙って最初のシュートを記録したが、これは大きく枠を外れた。

 次第に勢いを強めた仙台育英は前半27分、島野が巧みな浮き球パスを前線に送ると、右サイドでうまく収めたMF安藤誠哲(3年)がカットインから左足シュート。そのままセットプレーを有効に使って押し込み続け、同31分にはこぼれ球を収めた島野の左足ミドルシュートがGK徳若を襲った。島野は同32分にもCKからチャンスを創出。1年時から主力を担ってきた背番号10が絶大な存在感を放っていた。

 一方の高川学園は前半34分、敵陣左サイドでFKのチャンスを獲得。世界から注目を集めているトリックプレーへの期待に会場は大きく沸きたった。しかし、最初のセットプレーでは温存。普通に蹴り出したキックを起点に林がタメをつくり、対面の相手をかわして前進したが、シュートチャンスには至らなかった。

 それでも高川学園は前半40分、右CKを獲得すると、すぐにベンチから「行くぞ!」の声。MF北健志郎(3年)ら5選手が手をつなぎ、ペナルティエリア内で回転し始めた。1回戦、2回戦でも披露した“トルメンタ”(スペイン語で「嵐」)と称する技だ。するとキッカーのDF山崎陽大(3年)はショートコーナーを選択し、林とのパス交換からクロスを供給。ゴール前のトリックを“おとり”に使う高度なプレーを見せたが、ボールはファーサイドに流れてしまった。

 そのまま0-0で迎えた後半も、なかなかスコアは動かない。仙台育英は8分、MF松本銀士(3年)の左CKに島野が頭で合わせたが、うまくミートできず。高川学園は11分、FW中山桂吾(3年)のポストプレーから左サイドを攻め上がり、山崎のクロスにFW小澤颯太(3年)が頭で合わせるも、シュートは大きく右に外れた。

 後半18分、ようやく仙台育英にビッグチャンス。右サイドを攻め上がった安藤がクロスを上げると、ゴール前に入っていた島野が強烈なヘディングシュートで枠内を襲った。ところがここで徳若がスーパーセーブ。左足一本でボールの勢いを殺した高川学園の守護神が絶体絶命の大ピンチを阻んだ。

 仙台育英は後半22分、途中出場のMF明石海月(3年)が左サイドからゴールに向かうクロスを送り込むも、またしても徳若がビッグセーブ。徳若は直後のセットプレーでも完璧なパンチングでピンチを回避し、劣勢のチームを何度も救った。

 すると高川学園は徐々に前に出られるようになり、お家芸のセットプレーを連発。後半34分の右CKでは、エリア内にバランスよく配置する普通の布陣でリスタートし、ファーから飛び込んだDF岡楓太(2年)が高い打点のヘディングシュートを放った。だが、これは枠外。同39分の右CKでは、4人が縦列に肩を組むトレイン布陣を取ったが、シュートにはつなげられなかった。

 それでも後半終了間際、高川学園はやはりセットプレーから試合を決めた。アディショナルタイム2分の右CKでは、過去最多6人で手をつなぐ“トルメンタ”を敢行。山崎のキックはGK落合孝昭(2年)に弾かれるも、これが左CKにつながった。そして今度はオーソドックスな陣形で再開。山崎のキックはニアで相手DFに触れられたが、浮き上がったこぼれ球に反応した西澤が左足を振り抜き、見事なボレーシュートを突き刺した。

 手を変え品を変え、さまざまな妙技を繰り出した末にラストプレーで奪った決勝弾。最後はトリックプレーではなかったが、ここにもドラマがあった。ゴールは後半40分に投入されたばかりの西澤のファーストタッチ。「1回戦、2回戦とも結果を出せていなかったが、それでも何かやってくれるという思いがあった」という江本孝監督の予感を込めて投入された背番号14の大仕事だった。

 西澤は昨年度の山口県大会決勝の西京高戦(○1-0)でも、後半アディショナルタイムに全国出場を決める決勝ゴールを記録。指揮官は「彼は決定力があるし、1年生から得点を取っていた。県の決勝戦でもロスタイムに点をとっていたので、そのシーンが頭をよぎった。ラストで使ってみたら決めてくれると思って出場させた」と“持ってる男”の活躍を称えた。

 また高川学園はこの日、もう一つのドラマを胸に試合に臨んでいた。それはちょうど2年前の「リベンジ」だ。昨季の全国選手権2回戦、高川学園は仙台育英に0-1で敗れて大会を去っていたが、奇しくも同じ1月2日で、会場は同じ等々力陸上競技場で、キックオフ時刻も同じ14時10分だった。選手たちは2年越しの再戦に向けて「同じ日、同じ時間、同じ場所、同じ相手で負けるわけにはいかない」(江本監督)とモチベーションを高めていたのだという。

 その結果、あの日と同じ1-0のスコアで、今度は勝利を収めた。右膝の負傷でピッチに立てないDF奥野奨太主将(3年)に代わってキャプテンマークを巻くMF北健志郎(3年)は試合後、劇的なゴールへの言及よりも先に「2年前のリベンジということで、時間も場所も相手も同じで、絶対に勝とうと話をしていたので勝ててよかった」と述べ、リベンジへの思いの強さをのぞかせた。

 一方、仙台育英は「警戒していた」はずのセットプレーに屈しての敗退となった。

「ある程度狙い通りにできたゲーム。点が取れなかったこと、セットプレーのチャンスをモノにされた勝負強さで敗れた」。そう敗因を振り返った城福敬監督は、勝負を分けたセットプレーについて「映像を何度も何度も見直して、(マークに)どうつくかという対策はしていた。誰が誰につくというのもやっていたが、最後の最後にちょっと甘くなった。あとのところはしっかりついていたのに、最後のプレーは人数がいたというだけになってしまったのが反省材料」と悔やんだ。

 高川学園はベスト4入りした2007年度以来の8強。準々決勝では桐光学園高(神奈川)と対戦する。

(取材・文 竹内達也)

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