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キーポイントは「立ち上がりの15分」。前半15分に先制した青森山田が試合巧者ぶりを発揮してベスト8進出!

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チーム2点目を決めたDF丸山大和にMF松木玖生が駆け寄る(写真協力『高校サッカー年鑑』)

[1.2 選手権3回戦 阪南大高 1-3 青森山田高 駒沢]

 試合のキーポイントは、立ち上がり15分の攻防だった。結果的に先制点が生まれたのは前半15分。このゴールを奪った時間が、彼らの試合巧者ぶりを如実に物語っている。

「相手の特徴は立ち上がりの15分で先制点を決めて、そこからだんだんと点数を積んでいくことというのが自分たちが分析した結果で、『立ち上がりに圧倒的な差を見せ付ける』とチームでも話していたので、良い時間帯に先制できたと思います」(青森山田高・松木玖生)。

 相手の得意な時間帯で奪った先制点の効果絶大。第100回全国高校サッカー選手権は2日に3回戦を開催した。駒沢陸上競技場の第1試合では、2試合で11得点と抜群の攻撃力を誇る阪南大高(大阪)と3年連続ファイナリストの青森山田高(青森)が対峙。前半15分にオウンゴールで青森山田が先制すると、後半3分にはDF丸山大和(3年)、12分にはFW名須川真光(3年)が相次いで加点。阪南大高も19分には、FW鈴木章斗(3年)が今大会7ゴール目を奪ったものの、3-1で青森山田が勝利を収め、準々決勝で東山高(京都)との対戦が決まっている。

「今日はミーティングでも『ここが山場だな』としっかりチームで話し合っていた」と青森山田の丸山が話せば、「まずここが1つの難関だと思っていた」と阪南大高の鈴木も口にする。お互いに相手をリスペクトした中でキックオフを迎えたゲームは、阪南大高の勢いが青森山田を上回る。

 前半10分にはFW石川己純(3年)を起点に、MF松本楓悟(3年)が右へ流し、上がってきた右SB今西一志(2年)が縦に持ち出してクロス。ニアに入った石川のシュートはヒットしなかったものの、惜しいシーンを作ると、14分にもMF稲垣大燿(3年)、MF田中大翔(3年)と繋いだボールを、MF櫻井文陽(3年)がミドルにトライ。わずかに枠の右へ逸れるも、立ち上がりのリズムは明らかに阪南大高の手の中にあった。

 だが、先にスコアを動かしたのはインターハイ王者。15分。右サイドで奪ったスローイン。スポットに向かったMF藤森颯太(3年)はそれまで投げていたロングスローではなく、クイックでDF中山竜之介(2年)へ。そのリターンを受けた藤森の右クロスにMF松木玖生(3年)が飛び込むと、相手DFに当たったボールは緩やかな軌道を描いて、ゴールネットへ吸い込まれる。

「この2戦の阪南はかなり立ち上がりから押せ押せで、得点を奪って、後半はかなり楽に試合を進めていくような状況が見えたので、相手の攻撃をきちっと跳ね返しながら、我々の攻撃に繋げていこうと。我々が相手を飲み込むつもりでやっていこうということで、向こうも先制したかったんでしょうけれども、そこで我々が先制できたことは凄く良かったと思います」と話した黒田剛監督の言葉は、冒頭で紹介した松木のそれと重なる。

 実際には圧倒的な差は見せられず、相手を飲み込むことも叶わなかった中での先制点。この1点が青森山田に精神的な優位性をもたらし、阪南大高に精神的なダメージを与えたことは想像に難くない。以降は落ち着きを取り戻した青森山田が、試合をコントロールしていく。
 
 阪南大高にはツキもなかった。前半終了間際の40分には、松本が入れた左ロングスローの流れから、石川が強烈な左足シュートを繰り出すも、ボールはゴールポストに弾かれる。「前半はしっかり1-0で終われたことは凄く良かったと思います」と黒田監督。逆に言えば、青森山田には先制点の形も含めてツキもあったと言える。

 後半に入ると、まずは3分に松木の右CKから、ニアに入り込んだ丸山が高い打点のヘディングを叩き込み、スコアは2-0に。さらに12分にはMF宇野禅斗(3年)の素晴らしいインターセプトから、FW渡邊星来(3年)のスルーパスに走った名須川が、GKとの1対1も冷静に沈めて3-0。一気に勝負を決めに掛かる。

 阪南大高も19分には松本の右ロングスローがエリア内でこぼれると、得点ランキングトップを独走する鈴木が、さすがの嗅覚でボールをゴールへ押し込んで1点を返すが、20分に石川が迎えた1対1の決定機は枠の右へ外れ、最終盤の40+4分にDF保田成琉(2年)が枠へ収めたヘディングは、青森山田のGK沼田晃季(3年)がファインセーブで回避。ファイナルスコアは3-1。シュート数では阪南大高が9対8と上回ったものの、青森山田が丁寧に勝利を手繰り寄せた。

 この日の勝者の主役は、守備陣だったと言っていいだろう。相手に鈴木という絶対的なエースがいる中で、マークに付くことの多かった丸山は空中戦でもほとんど勝利。「鈴木くんに関してはもちろん前評判も高かった中で、終始我々の丸山大和がヘディングではほぼほぼ勝てたんじゃないかなと。プレミアリーグで清水エスパルスや柏レイソルの本当に素晴らしいフォワードたちと対峙してきたその経験値が出たのではないかなと思いますし、今日はセンターバックが非常に頑張ったと思います」と黒田監督。ディフェンスリーダーのDF三輪椋平(3年)もカバーリングに奔走しながら、勝負どころの空中戦では強さと高さを発揮。松木も「新チームが始まってから常に成長してきているセンターバックの2人がいるので、そこは頼もしいです」と厚い信頼を寄せている。

 また、見逃せないのはこの日のベンチに入ったDF大戸太陽(3年)の負傷を受けて、11月から右SBを務めてきた中山の働き。ドリブルに定評のある阪南大高の左SHに入った田中に仕事をさせず、左からのチャンスメイクを封じ切ったことも、勝利に直結する大きなポイントだった。

「阪南大高は前に速いサッカーということで、なかなかプレミアリーグ等では経験できないようなサッカースタイルだったんですけれども、我々のテーマのどんな相手でも対応できるサッカーを1年間やってきましたので、選手たちはよく対応してくれました」(黒田監督)。

 1年間でさまざまなスタイルのチームと、さまざまな真剣勝負を積み重ねてきた経験値の持つ引き出しの多彩さ。『どんな相手でも対応できる』青森山田の“三冠”達成までは、あと3勝。

(取材・文 土屋雅史)

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