そのプレーに多くの言葉は必要ない。絶対的な自信を持つ左足を振るい、ゴールを紡ぎ出す。そうやって今までもサッカーの世界で生きてきた。

「一番の目標はFC東京のトップチームに上がることで、最初は少しずつ力を付けていって、しっかりスタメンを獲れるようにしたいですし、ディエゴ(・オリヴェイラ)選手を超えられるような選手にはなりたいなと思います」。

　屈強なフィジカルと繊細なテクニックを高い次元で共存させるストライカー。FC東京U-18(東京)のナンバー9。FW熊田直紀(2年=FC東京U-15むさし出身)の圧倒的なポテンシャルが、いよいよ解き放たれつつある。

　新しいポジションへのトライは、チームのシステム変更の影響からだった。「4-3-3になって、フォワードだとあまりボールが来ないというのがあって、それで技術が落ちたり、ゴール前に入った時のアイデアがあまり出なくなっていたので、1回ポジションをボールにたくさん触れる位置にして、『もっとサッカーを上手くなろう』という考えで、今はシャドーをやっています」。

　今シーズンからU-18の指揮官に就任した奥原崇監督は、トップチームと同じ4-3-3のシステムを採用。その中でストライカーのイメージが強かった熊田は、インサイドハーフにトライしている。

「やったことはあまりないですけど、このフェスティバルが最初ではなかったので、徐々に慣れてきてはいます。自分はアシストするという面も特徴なので、それはシャドーだと出しやすいのかなと思います」。ポジティブな挑戦でプレーの幅を広げているが、やはりこの男の真価はゴール前で発揮される。

「しっかりボールを回して、自分が起点になってゲームを動かしたいなと思っていて、得点にも絡めたので良かったです」と振り返った2022プーマカップ群馬2日目の尚志高(福島)戦は、まさに“熊田ショー”。圧巻のハットトリックを達成してしまう。

　1点目は左からグラウンダーで入ってきたパスを、左足ダイレクトで叩いたボールがポストの外側を巻きながら、ゴールネットへ滑り込む。2点目は味方のシュートのこぼれ球にいち早く反応してきっちりプッシュ。さらに、驚異的だったのは3点目だ。

「このフェスティバルでは、シャドーをやっている分、ロングシュートも意識してやっていこうと思っていたので、良いゴールだったかなと思います」と自ら振り返った得点は、ペナルティエリア外でマーカーを一瞬の切れ味で外しながら、小さいスイングの左足シュートでゴール左スミを貫く。技術とパワーが融合した、まさにゴラッソ。スペシャルな能力を一瞬で見せ付けた。

　昨シーズンもプレミアリーグでは出場機会を得ながら、4試合で無得点。中でもとりわけ悔しさを味わった試合があったという。「ホームの青森山田戦では、オレがもっとチームのためにチャンスに絡んだりできたんじゃないかなって。ああいう相手には結構自分もスタイルが合うと思うんですけど、そういう面でももっと得点に絡めましたし、もう少しチームの流れを変えられたと思って悔しかったです。去年は正直もったいない1年だったというか、あまりチームのために戦えていなかったという想いがあります」。

　それだけに今年に懸ける想いは小さくないはず。ハットトリックにも満足する気配は微塵も感じられない。「結果としては良いんですけど、まだ攻撃の部分のクオリティも低いですし、チームの完成度もまだ全然高められると思うので、そこはもっと意識してやっていけたらなと思います」。目指すべき場所は、まだまだずっと先に設定されている。

　多くを語るタイプではないが、言葉には力がある。参考にしている選手を問われ、「いや、特にいないです」と答えるメンタリティは実にアタッカー気質。今シーズンの目標も「空中戦や左足のシュートが特徴なので、それを今後はストロングにしていきたいなと思いますし、どんなゴールでも決め切れるように、得点王は目指していきます」と言い切っている。だが、不思議とこの男が口にすると、当たり前のように実現してしまいそうな雰囲気があるのも、何とも魅力的だ。

「チームとしてはプレミアで一番になって、チャンピオンシップを獲るというのが目標なので、自分がチームの勢いを付けられるような、流れを変えられるようなプレーを多く出せたらなと思います。勝ち方というのにはあまりこだわっていないですけど、何点獲っても後ろに引くことのないような試合はしたいです」。

　自らも口にした『一番』という表現が、彼のプレースタイルにはしっくり来る。青赤を牽引するストライカー。あらゆる意味で『一番』を引き寄せることに挑む熊田の今シーズンには、誰もが注目せざるを得ないだろう。

(取材・文　土屋雅史)