beacon

到来しつつある大きな流れ。夏冬全国8強の東山は周囲の注目度を意識しつつ、「届くとこ」の目線を上げる

このエントリーをはてなブックマークに追加

全国8強のその先を目指す古都の実力者、東山高

 間違いなく、大きな流れは到来しつつある。今までも何度か目の前に現れてはいたものの、ハッキリと引き寄せるまでには至らなかった波を、一気に掴むための大事な1年が、いよいよ幕を開ける。

「もっと注目されていることを意識せなあかんですよね。『意識するな』ではなくて、意識せな。今の時代は幸いにして、SNSも含めて情報が外に出るわけじゃないですか。それを意識せなあかん。『自分らは見られているから、責任のあるプレーをせなあかん』ともっと思っていかないと。『気にするな』ではなく、そのプレッシャーを感じれへんかったら、選手権の決勝の舞台なんて絶対無理やし、もっともっと強いプレッシャーがあるはずやし、そういう意識を持ってほしいなと」(福重良一監督)。

 インターハイ、選手権とともに全国8強を経験した古都の実力者。東山高(京都)にとって、2022年は今まで以上に大事な年になる。

 試合後。冷静に、だが確かな怒気をはらんだ口調で、集めた選手たちに指揮官は語り掛ける。強豪の集ったTOKINOSUMIKA CHALLENGE。昨年度の夏と冬の全国で、どちらも敗退を突き付けられた青森山田高(青森)とのリターンマッチに挑んだ東山は、再び1-3で返り討ちに遭う。

「青森山田独特のパワーというか、それは下の学年でも継続してやっていることなので、選手が変わっても一緒でしたね。それにウチの子らが負けていたので、課題をどう感じてやるのかというのが今回の“課題”ですよね。とにかく攻撃にしても、守備にしても、判断が遅い。全部後手に回っているので、そのへんをどう感じるか。こっちがナンボ言ったって、やるのはこの子らやし、この子らが本気で感じるかやし、もう1つは結局気持ちの部分で、去年もトレーニングマッチも含めて山田に3敗しているのを、『自分らの代では3勝してやるんだ』という感じが見えなかったですよね。そのへんが残念かな」。

 選手権でも活躍したMF阪田澪哉(2年)は日本高校選抜合宿のために不在だったが、大会優秀選手に選出されたDF新谷陸斗(2年)やMF真田蓮司(2年)、MF松橋啓太(2年)、GK佐藤瑞起(2年)と主力も揃っていた中で、もちろんその実力の一端を覗かせる場面はあったものの、結果的にはほとんど選手権からメンバーの入れ替わっていた青森山田の強度に屈する形となる。

 福重監督は去年のチームとの違いを、明確なキーワードで口にする。「やっぱり結局はまず『感情』の部分をもっと出さんと。そこが大事ですよね。去年は凄く『感情』があったから、本当はもっと力がないのにあそこまでのゲームができたわけで、今は去年の選手が残っているからとか、技術があるから、というので『感情』がない。だから、『感情』がベースとしてあるチームの青森山田に、何も発揮できないんですよ。試合前に『声出せ』とは言ったけれど、それで解決するものじゃないし、彼らも内面には持っているんやろうけど、サッカーはそれを表現するスポーツやから」。何よりも大事な『感情』を表出させるためのアプローチに、指揮官はさまざまな形で腐心しているようだ。

「僕とか何人かはインターハイや選手権で戦っているので、まだスピード感は分かってやれるんですけど、やっぱりこの山田のプレースピードに慣れていない子が結構いて、そこがまだまだかなと思いました。山田がやっている練習と僕らがやっている練習は質がまだまだ全然違うと思うので、そういうところが出てしまったかなと思います」と話したのは、本職のボランチではなく、前線にトライしている真田。ただ、このプレシーズンの時期で、明確に日本一を目指すチームの“基準”を体感できた完敗は、もちろんネガティブな側面ばかりではない。

「僕らがナンボ言ったところで百聞は一見に如かずでね。体験、体験をしていかないと。そういう意味でも今日は良い勉強になりましたし、“勉強”というのはこれを糧にどう頑張るかで、いかんせんプレミアを22試合やるチームと、プリンス2部を18試合やるチームでは、明らかに差がありますから、どれだけの意識を持ち続けられるかですよ。山田の子たちはたぶん放っておいても意識がありますし、ウチは明らかに意識してそこに持っていかないといけない。意識することを“意識”せなしょうがない(笑)」(福重監督)。この90分間で得た『体験』『勉強』『意識』を、ここからの1年間にしっかりと繋げていく必要がある。

 前述したように、昨年度はインターハイでも選手権でも全国のベスト8で青森山田に屈したが、夏に2-5だったスコアは、冬に1-2まで縮まった。三冠王者をギリギリまで追い詰めた経験を、東山がさらなる強豪校へのステップを駆け上がるための材料にする覚悟は、もちろん指揮官も携えている。

「やっぱりこれで終わってしまうと、『ああ、東山も去年は強かったね』で終わってしまうし、何が何でも全国に出るという意欲を持ちたいですよね。まずウチは京都府予選を勝たなアカン。ただ、そこは子供らに言うんじゃなくて、僕らがちゃんと見ていくところで、彼らは去年の1年間で『あともう少しやれば“届くとこ”やな』というのは実際に体感できているので、そこはこれからの彼らにも本当に意識してほしいところですよね」。

 去年は夏になってようやく体感した青森山田の“基準”を、今年は既にこの時期で味わうことができた。想像し得るイメージのレベルが上がっていることに、疑いの余地はない。ここから先は自分たちの『意識』と『感情』次第。情熱の指揮官に率いられた東山が実現する“届くとこ”は、果たしてどこまで。



(取材・文 土屋雅史)

TOP