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大事なのはピッチ上の“空気”を感じる察知力。八戸学院野辺地西が突入するもう1つ先のフェーズ

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八戸学院野辺地西高は絶対王者を追い詰めるも悔しい敗戦

[6.6 インターハイ青森県予選決勝 青森山田高 3-0 八戸学院野辺地西高 カクヒログループアスレチックスタジアム]

 その背中は、確実に捉えていた。やれるという手応えも、確実に掴んでいた。だからこそ、勝ちたかった。悔しい。次は負けたくない。

「先ほどのミーティングでも『たぶんウチも苦しいけど、あっちも苦しいぞ』と話をしました。その中でいかに冷静に相手と駆け引きしながらできるか、というところまで行けば、もっとサッカーの楽しさも感じられますし、山田相手にプレーしながら、ボールのあるところ、ないところ、メンタル的なところの駆け引きも含めて、そういうものが出せるように成長してほしいとは子供たちにも話しました」(八戸学院野辺地西・三上晃監督)。

 大事なのは、ピッチ上の“空気”を敏感に感じられる察知力。八戸学院野辺地西高が期すさらなる成長のカギは、きっとそこに隠されている。

「まずはやってみないとわからないという状況で、『前半の飲水まで失点ゼロで行こう』と話していて、実際にゼロにもできましたし、チャンスも何個か作れていたので、『やれるな』というのは前半で思いました」。キャプテンマークを巻いたDF布施颯大(3年)はそう振り返る。絶対王者の青森山田高と対峙した、インターハイ予選の青森ファイナル。八戸学院野辺地西は間違いなく、やれていた。

 前半2分には相手の連係ミスを突き、中盤のキーマンでもあるMF村上琳星(3年)がファーストシュート。ボールはわずかに枠を外れたものの、あわや先制というシーンを作り出して、ゲームはスタートする。

「攻めていたのもあったので、逆に『前半で1点獲って帰ってこれれば凄く良いな』という気持ちには変わっていました」と話したのは布施。7分にもMF長谷川陽大(2年)の右FKから、村上がシュートを打ち掛け、再び長谷川が上げたクロスは中央に合わなかったものの、17分にはCBの高木和(2年)が右へ振り分け、ここも長谷川がクロス。走り込んだMF金津力輝(3年)はフィニッシュまで至らなかったが、何度か創出したチャンスに、『前半の飲水まで失点ゼロで行こう』というキャプテンのマインドは、『前半で1点獲って帰ってこれれば凄く良いな』に変わっていた。

 指揮官も同様の感想を口にする。「我々も『子供たちは非常に良く戦っているな』ということも感じながら、山田さんも相当嫌がっているというか、警戒していることも感じましたし、ピッチの中でもお互いタフに戦えていて、『非常に良いゲームだな』と思いながら見ていました」(三上監督)。前半の手応えは、間違いなく八戸学院野辺地西が上回っていた。



「後半の入りも良くて、『本当にできるんじゃないか』と。『失点は絶対にやめよう』という共通意識もあって、凄く良かったですね」(布施)。後半も立ち上がりは“チャレンジャー”の出足が鋭い。ちょうど半分の時間の目安となる、飲水タイムまでのスコアは0-0。勝機は見えていたはず、だった。

 タイムアップのホイッスルが鳴り響くと、オレンジの選手たちは膝に手を突いてうつむく。「凄く悔しいです。後半の飲水まで自分たちがやれていたからこそ、本当に悔しいです」とは布施。23分に先制点を献上すると、終了間際の35分、35+2分に相次いで失点を許し、結果は0-3での敗戦。絶対王者の22連覇阻止は叶わなかった。

「もちろん相手をリスペクトしていますけど、『全国優勝したのは去年のチームで、今年はまだ何も成し遂げていないチームだから、同じ高校生だぞ』というメンタル的なところをミーティングでも話して、今日のゲームに臨みました」と語った三上監督は、こう言葉を続ける。

「我慢比べのところを長くしつつ、山田の状況を見ながらこっちがプレーできるようになれば、もうちょっと面白いゲームになるのかなと思います」。キーワードは『山田の状況を見ながら』。もう少し突っ込んで尋ねると、指揮官はその真意をさらに説明してくれた。

「決勝になると我慢比べの中で、いかに淡々と自分たちのゲームをできるかというところでは、前半はお互いに思うようなゲームプランができないまま経過したところがあるので、そこで逆にこっちが仕掛けられるようなチームにもしていきたいですし、ピッチ内の選手たちが『山田のそういうところ』を感じられるようにならなければいけないよねということは、ミーティングでも話しました」。

 青森山田は焦っていた。実際に前半の出来について、FW小湊絆は「正直自分もやりながら『大丈夫かな?』という感じでした」と素直な感想を明かしている。では、『山田のそういうところ』を、ピッチ上でどれだけの選手が感じていただろうか。そのゲームの流れの機微を読む“察知力”が、きっともう一段階先に進むためには必要になってくると、三上監督は痛感したわけだ。

 おそらくはチームの中で『山田のそういうところ』を最も感じ取っていた布施は、「この試合のピッチに立っていないメンバー,スタンドにいる他の部員にも凄く良い刺激になったんじゃないかなと思いますし、本当にこれをきっかけに、チーム全体の意識も変わればなと思います」と今後のチームの進化に目を向ける。

 一定の手応えは得た。互角にやれる時間も作った。今度はもう1つ先のフェーズ。手繰り寄せつつある試合の流れを、みんなが察知し、みんなが信じ、どういう形で成果に結び付けるか。八戸学院野辺地西が期すさらなる成長のカギは、きっとそこに隠されている。



(取材・文 土屋雅史)
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