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[MOM3885]青森山田FW小湊絆(3年)_覚悟と献身が呼び込んだ3か月ぶりの公式戦ゴール!悩めるストライカーに弾けた笑顔

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青森山田高の絶対的エース、FW小湊絆

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[6.6 インターハイ青森県予選決勝 青森山田高 3-0 八戸学院野辺地西高 カクヒログループアスレチックスタジアム]

 それは、何よりも自分が求め続けてきたものを手に入れられなくても、チームのために為すべきことを最優先に戦ってきた悩めるストライカーへ、サッカーの神様が用意したご褒美だったのかもしれない。

「ストライカーをやっている以上は、『自分が全部ゴールを決めたい』ぐらいの気持ちなんですけど、それができるのはチームが勝つということが大前提であって、結局自分が点を決めても負けたら意味がないですし、自分が点を決めなくても勝てるんだったら、絶対にそっちの方が自分にとってもプラスになると思うので、そこはもう自分のエゴを抑えながらやっています」。

 青森山田高(青森)を最前線で牽引する絶対的なエース。FW小湊絆(3年=横浜FCジュニアユース出身)の実に3か月ぶりとなる公式戦でのゴールが、苦しむチームを青森制覇へと導いた。

 2022年は自分の年になるはず、だった。高校年代三冠を獲得した昨年のチームでも出場機会を得て、高校選手権では3ゴールをマーク。背番号10を前任の松木玖生(FC東京)から引き継ぎ、大きな覚悟と自身への期待を抱いて迎えたプレミアリーグの開幕戦では、PKで自らゴールを奪い、チームも勝利。最高のスタートを切っている。

 だが、少しずつチームの歯車は狂っていく。リーグ戦では連敗が止まらず、小湊にも得点が付いてこない。楽しみにしていた“古巣対決”も3連敗という苦境で迎えることに。「横浜FCユース戦の前日とか全然寝られなかったです。『4連敗になったらどうしよう……』って。中学時代のチームメイトと対戦できる楽しみもあったんですけど、全然寝れなくて、そういう意味では結構気負っていたのかなと思います」。結果は後半終了間際に失点を許し、ホームで敗戦。続く桐生一高(群馬)戦も後半アディショナルタイムの失点で敗れ、泥沼の5連敗を突き付けられる。

「メチャメチャ大変でした。良い練習ができたなと思った週の試合でも負けていたので、『これだけやってもダメなのか……』と正直思った部分もあって……」。そんな状況にようやく光明が差し込む。5月28日にホームで流通経済大柏高(千葉)と対峙した一戦で、チームは1-0と勝利。連敗を脱出したことの嬉しさはもちろんだが、小湊はこの90分間にある手応えを感じたという。

「今までベンチ外の選手があまり一体感を持てていなかったんですけど、ホームゲームでもあったので、ベンチ外のメンバーも全員で戦って、そこで勝つことができたんです」。本来のキャプテンであるDF多久島良紀(3年)はまだ戦線復帰できず、MF中山竜之介(3年)も負傷でチームを離脱。昨年の栄光を知る唯一の選手として、キャプテンマークを託されてきた小湊が抱えてきた苦悩は、想像に難くない。

 実はインターハイを目前にした練習で、ケガを負っていたという。その影響もあって、今大会の出場はここまで準々決勝の10分程度。「今日に全部合わせて若松トレーナーも見てくれていたので、そこは本当に感謝したいです」と口にした10番は、強い決意を持ってファイナルの舞台に挑んでいた。

 決して楽な試合ではなかった。「正直自分もやりながら『大丈夫かな?』という感じでしたし、前半は失点しないようにということだけは思っていました」とは率直な感想だろう。信じられないようなイージーミスも散見され、チャンスらしいチャンスも巡ってこない。前半に一度だけあったシュートシーンも、ゴールには繋がらず。0-0でハーフタイムへ折り返す。

 後半23分にロングスローの流れから、ようやく先制したものの、点差はわずかに1点。緊張感のある展開が続く中、その瞬間は訪れる。終了間際の35分。「『時間を作ろうかな』と思ったんですけど、ベンチから『絆、中に行け!』という声が聞こえたので、それを聞いて『点を獲りに行けということか』と思い直しました」。左サイドからMF川原良介(2年)がグラウンダーで送ったクロスが、足元へ届く。冷静に、丁寧に、蹴り込んだボールがゴールネットを揺らす。10番の待ちに待った笑顔が、ピッチに弾けた。



 指揮官はもちろんエースの苦悩を理解していた。「プレミアでもPKの1本以外ゴールが獲れていなくて、ひたすらプレッシャーが集まる中で、もっと周りを信じて、使って、動き出して、また受けるということができればいいんだけど、自分で時間を掛けて攻略してやろうという意識が強すぎたなと。それが流経戦ぐらいからシンプルにやり始めたら、彼のところにも良いボールが入ってくるようになったので、これからますますその感覚で良くなってくるのかなと思いますね」(黒田剛監督)。

「小学校の時から全部自分でやってきましたけど、監督からここ2,3週間はずっと『考え方を変えろ』と言われてきて、自分もそういう意識の部分を変えなくてはいけないなと感じていたので、自分が決めるという想いだけではなくて、自分が決められればラッキーぐらいの感じで、チームが勝つためにどう働けるかを意識してきました」。その意識が結果的にあれだけ欲しかった自分のゴールに繋がるのだから、サッカーは不思議なものだ。

 勝利は付いてきた。ゴールも付いてきた。あとは、さらなる結果を引き寄せるだけ。「試合前のアップの円陣から全員で『徳島に行くぞ!』と盛り上げながら言っていたので(笑)、目に見える結果として、勝利が優勝に繋がったことはチームの活力になると思いますし、去年優勝したことで、ディフェンディングチャンピオンとしてのシードもあるので、恵まれた環境に感謝しつつ、それを有効に使いながら、2連覇を目指してやっていきたいです」。

 ようやく見えてきた、勝利とゴールのその先の景色。小湊と青森山田の2022年は、まだまだこれからが本番だ。

(取材・文 土屋雅史)
●【特設】高校総体2022

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