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[Fリーグ]鈴村復帰戦で2ゴールの神戸FP江藤「名古屋戦が、ずっと心に残ってた」

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 2012シーズンの開幕を前に、元フットサル日本代表FP江藤正博は、湘南ベルマーレからデウソン神戸に移籍した。「スズさん(鈴村拓也)とプレーしたかったからなんですよね」と、江藤は明かす。

 Fリーグができるはるか前の2003年、江藤は初めて、フットサル日本代表に選出された。全国リーグのない当時は、各地域リーグがトップリーグにあたり、関東リーグが日本フットサルでもっともレベルの高いリーグだった。ほとんどの日本代表選手が関東リーグに所属するクラブでプレーしていた中で、江藤は関西リーグのカンカンボーイズというクラブにいた。そんな江藤に注目が集まったきっかけが、当時から日本代表の中心選手だったFP鈴村拓也だった。

「全国選抜フットサル大会という大会で、兵庫県選抜の一員としてスズさん(鈴村)と一緒にプレーしていたんです。当時、兵庫はまだまだ弱かったのですが、あのときは開催地枠で全国大会に出られたんですよね。しかも、たまたまスズさんを見に来ていた代表監督が、そこで僕のプレーも見てくれて。あの大会で得点王になり、ベスト5にも選出してもらいましたが、スズさんがいなければ、代表に入ることはなかったと思うんです。あそこから、僕のフットサル人生が始まったようなものですからね」(江藤)

 日本代表に招集された江藤は、その後、関東リーグのプレデター(現バルドラール浦安)に移籍。神出鬼没な左利きのアタッカーは、高い得点力を示し、ゴールを重ねた。その後、湘南でのプレーを経て2012シーズンを前に、鈴村とのプレーを望んで神戸へ加入した。ところが…。

「スズさんは10年前から一緒にやっていて、僕を生かす術を誰よりも分かってくれている存在ですからね。だから、がんになったと聞いたときは『何やってんねん!!』って思いましたよ」(江藤)

 2012年12月9日、神戸は名古屋オーシャンズと対戦した。この試合を最後に、鈴村は闘病生活に入ることが決まっていた。『勝利でスズさんを送り出したい』。江藤だけでなく、神戸の選手は誰もがそう思っていた。しかし、結果は0-3の敗戦。江藤にとっては、悔やんでも悔やみきれない一戦になった。

「チャンスがない試合ではなかった。オレにビッグチャンスがあったのに、それをことごとく外してしまってね。試合の数日前の練習で、スズさんが『オレはいつ戻れるか分からない。だから、この名古屋戦は勝ちたい』って涙を流して言っていた。でも、その試合でオレはチャンスを外しまくって、0-3の負けですよ。それがずっと心に残っていました。だから、今日の復帰戦はどうしても点が取りたかったんです」

 前半15分、先制点を挙げた江藤は、1-1で迎えた後半40分にも決勝点となるゴールを挙げた。「自分が点を取って勝たせてあげたいという思いがあった。たまたまだったけど、自分が取れて勝てて良かった」と、試合後の江藤は表情を崩した。

 ただし、鈴村によるこの試合の江藤評は厳しい。「2ゴールで喜んでた? もっと取れたでしょ。アイツが前半にちゃんと点を決めていたら、もっとラクな試合になっていた。まだまだ。これで満足してもらったら困る」(鈴村)。

 だが、鈴村が江藤のことを分かっているように、江藤もまた鈴村のことをよく分かっていた。「今日2点取っても、スズさんは『もっと取れたやろ』って言うと思うんですよ。練習から本当に要求は厳しいですけど、それも自分の能力を信じてくれているから言ってくれているわけですし。スズさんが戻って、ようやくチームに守備の柱ができるので、オレはスズさんの周りを走って、点を取るだけです」(江藤)。

 鈴村と江藤の活躍もあり、5試合ぶりの白星を挙げた神戸は次節、敵地で因縁の名古屋と対戦する。

(取材・文 河合拓)

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