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[MOM3651]山梨学院FW茂木秀人イファイン(3年)_“嗅覚”を信じたストライカーが、前回王者を敗退の危機から救う劇的同点弾!

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延長後半8分。FW茂木秀人イファインの同点弾で山梨学院高が劇的に追い付く!

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[11.6 選手権山梨県予選決勝 山梨学院高 1-1(PK5-3) 韮崎高 JITリサイクルスタジアム]

 焦りがなかったと言ったら、嘘になる。延長後半で奪われた先制点。残り時間がほとんどないこともわかっていた。ただ、自分の中での“嗅覚”は、確実にゴールが近付きつつあることを訴えていた。

「延長後半の失点の前にシュートを弾かれてしまったんですけど、『どんどんゴールが近付いてきているな』というのはあったので、『次にボールが来たら決められるな』というのは自分の中でありました」。

 1点のビハインドで迎えた延長後半8分。右から最高のクロスが届く。山梨学院高のエースストライカー。FW茂木秀人イファイン(3年=FC東京U-15深川出身)は、全身でボールに飛び込んでいく……。

 苦しい試合だった。全国出場を懸けて、韮崎高と対峙した山梨ファイナル。相手の勢いにやや押された立ち上がりを経て、少しずつ山梨学院も流れを取り戻したものの、前線までは良い形でボールが届かない。

「スペースがないと下がって来ちゃう子なんですよ。相手のボランチがイファインを見るような形もありましたし、ちょっと行き場をなくしましたよね」とは長谷川大監督。低い位置まで降りてくることで、茂木自身のボールを受ける回数は増加したが、肝心のエリア内に人数が掛け切れず、膠着した展開になっていく。

 80分間では決着が付かず、迎えた延長戦。後半開始早々に茂木へ決定機が訪れる。左からサイドバックのDF小川玲(3年)が上げたクロスに、きっちり頭で捉えたシュートは枠を襲ったが、相手GKのファインセーブに阻まれると、直後にセットプレーから失点を喫してしまう。0-1。「失点の瞬間に自分の中で『ヤバイな』というのは凄く感じていました」。絶好のチャンスを逃したシーンが、頭の中で繰り返される。

 だが、ゴールへのイメージは湧きつつあった。「失点した直後には、みんな気持ちが落ちちゃったんですけど、やっぱり自分がフォワードとしてチームを救わないといけないというのは責任を感じながらやっていました」。ワンチャンスを生かすために、神経を極限まで研ぎ澄ます。

 延長後半8分。「絶対チャンスは来ると信じていた」ストライカーに、絶好の同点機がやってきた。ロングスローの流れで上がってきていたCB柴田元(3年)が、相手のクリアへ果敢に寄せ、こぼれたボールを右SBの溝口慶人(3年)がダイレクトでクロスを上げると、凄まじい勢いで9番が飛び込んでくる。

「もう合わせるだけだったので、気持ちを見せて、思い切り突っ込みました」。茂木が頭で叩いたボールは、そのまま右スミのゴールネットへ鮮やかに吸い込まれる。「彼の特徴を考えた時に、実は交代しようかどうしようかを延長に入った時に悩んだんですけど、『彼の嗅覚がまだあるんじゃないかな』というところで、少し引っ張ったんですね」と話したのは長谷川監督。采配的中。茂木の“嗅覚”が、土壇場でチームを救った。

 PK戦で勝利が決まった瞬間。多くのチームメイトが仲間の待つスタンドへと走り出したが、茂木はそのままセンターサークルに残り、相手選手と健闘を称え合っていた。「韮崎の選手にもPKを外してしまった選手がいましたし、自分は韮崎の分まで全国で戦わないといけないと思っているので、『次も頑張れよ』というふうに言われて、もっと頑張らないといけないなと感じました」。ライバルの想いも背負って、約束の舞台へと歩みを進めていく。

 1年前に日本一を経験した全国大会には、個人的な“忘れ物”がある。「去年の選手権は1点も獲れずに、悔しい想いをして終わってしまったので、今年は自分が点を獲ってチームを勝たせるという年にしたいと思っています。全国でのゴール、欲しいです」。さらに続けた言葉に、相手選手を気遣える優しさの裏側に抱える、ストライカーとしての矜持が滲んだ。

「今回の全国大会は100回の記念大会で、いろいろな高校の選手が『自分たちが100回大会の主役になりたい』と思っているはずですけど、それを跳ねのけて、自分が100回大会の印象に残る選手になりたいと思っています」。

 山梨学院を敗退の危機から救った男。茂木秀人イファインには記念すべき100回大会の主役をさらっていく資格が、十分過ぎるほどにある。

(取材・文 土屋雅史)

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