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注目対決に敗れた神村学園。だが、先輩たちが築き上げてきた“伝統の連鎖”は確かに息衝き始めている

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神村学園高の戦いはこれからも続いていく(写真協力『高校サッカー年鑑』)

[12.31 選手権2回戦 帝京長岡高 3-2 神村学園高 等々力]

 積み上げてきたスタイルで、ゴールに迫り続けた。失点を重ねても、最後までファイティングポーズを取り続けた。時計の針を巻き戻したくなるような後悔を、歯ぎしりしたくなるような悔しさを、すべて自分たちのパワーに変えてきた。とりわけ3年生たちの奮闘は、この日のピッチでも際立っていた。

「この代は中学校の時に九州リーグから(県リーグに)落としてしまっている代なので、そういうところで自分たちを決して過大評価することなく、地道にやってくれた3年生でした。初めてプレミア参入戦も出ることができましたし、勝つことはできなかったですけれども、まさかこんなふうに3年後に大きく飛躍するような子たちになるとは。僕としても凄い“伸び率”だなと思っているぐらいなので、本当によく頑張ってくれた3年生でした。『お疲れさん』という言葉も言いたいですし、もちろんこれからの彼らのサッカー人生を楽しみに見守りたいと思います」。

 3年間、あるいは6年間の彼らを見守り続けてきた有村圭一郎監督の言葉が、優しく響く。神村学園高(鹿児島)は間違いなく、強かった。

「注目して戴いているゲームだったと思うので、お互い持ち味が出せればいいなと思っていましたが、相手のファインセーブもだいぶありましたし、なかなかゴールをこじ開けることができず、セットプレーから2点を何とか返せましたけど、軽い失点でやられてしまったなという感じはあります」。指揮官はオンライン会見で、こう試合を総括した。

 帝京長岡高(新潟)と激突した2回戦最注目カード。お互いに攻撃的なスタイルを標榜する両チームだけあって、激しい打ち合いも予想される中で、前半16分にロングスローから失点を許すと、32分にも追加点を奪われてしまう。

「サイドで2対1が作れる状況が多々あったんですけれども、そこを前半は上手く使い切れなくて、攻撃のリズムが単調だった部分がありました」(有村監督)。ようやく30分過ぎからは右のMF若水風飛(3年)、左のMF篠原駿太(3年)の両ウイングも躍動し始めたものの、ゴールを挙げるまでには至らない。

 後半4分にセットプレーからMF大迫塁(2年)とFW福田師王(2年)のホットラインで1点を返すと、16分には絶好の同点機が訪れる。篠原の左クロスに、若水が完璧な左足ボレーを枠へ収めたが、相手GKの超ファインセーブに阻まれる。結果から見ればここが勝負の分水嶺。その2分後に3点目を献上。36分には再びセットプレーからMF佐藤璃樹(3年)が意地の1点を返したが、反撃もここまで。真剣に全国制覇を狙った神村学園の冒険は、初戦敗退という結果を突き付けられた。

 チームには負けたくない理由があった。キャプテンのDF抜水昂太(3年)が選手権予選直前の練習試合で右膝前十字靭帯断裂の大ケガを負い、本大会の出場が叶わなくなった。「常に先頭に立って声を掛けたり、走ってくれたりして、チームを引っ張っていたので、自分も声掛けの部分だったり、誰よりも走るということは意識してやってきました」と話したのは、この日のキャプテンマークを巻いたMF畠中健心(3年)。左手首に巻いた赤いテーピングに、抜水の背番号でもある“7”の数字を書いていた福田も「昂太さんが笑顔になってくれる結果で終わりたいなと思っています」と語っていた。

 この日の試合のメンバーに入り、敗退の瞬間をベンチで見届けたキャプテンに対し、有村監督は感謝の念を口にする。「高校の3年間はもちろん、彼は中学校の頃から神村中に入って、この選手権を目指してきたと思うので、そういうところに参加させてあげられなかったのは非常に残念です。このチームは彼が1年間良くまとめて作ってきてくれたチームなので、最後に勝ち切ることはできなかったですけど、彼が本当に先頭に立ってよくやってくれたなと思います」。

 畠中も中学生時代から、6年間の時間を共有してきた盟友への想いを口にする。「抜水がケガでプレーできない分、自分たちが勝利という形で笑顔を届けられたらなと思っていたんですけど、それが初戦で負けてしまってできなくて、とても申し訳ない気持ちでいっぱいです」。今は悔しい想いしか感じないはずだが、きっと仲間と積み重ねた時間の大事さは、この先の未来でより実感するに違いない。

 今後の目標を問われた畠中は、“先輩”と“後輩”の名前を挙げて、自分のこれからに想いを馳せる。「自分はプロを高校3年生になってから目指していて、それは大迫と福田のいる環境で自分がそうなれたんですけど、今は川崎フロンターレにいる橘田健人選手が高3の時に自分が中1で、凄く憧れている存在でした。そういう夢が身近にある中で今年はサッカーができたので、自分としてはもっと質という部分にこだわって、いずれは日本代表に入れる選手になりたいと思っています」。

 橘田の雄姿を目にした畠中や抜水がその姿に憧れを抱き、真摯にサッカーと向き合う先輩たちに刺激を受けて、成長を続ける福田や大迫の背中を、今度は中等部の選手も含めた後輩たちが追い掛ける。



「日常の中で好きなことだけではなくて、嫌なことだったり大変なことだったりということにも向き合わせて、来年はもっと粘り強く戦いながら、ゲームをモノにできるようなチームにしていきたいと思います。今日の負けをきっかけに、もっともっとそういうところを突き詰めて、良いサッカーを見せられるようにやっていきたいと思っています」(有村監督)。

 神村学園が短くない時間を掛けて築き上げてきた“伝統の連鎖”は、鹿児島の地で着々と育まれている。

(取材・文 土屋雅史)

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