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「この3年生のためにという気持ちで1年間やってきた」。日章学園のキャプテン工藤珠凜が抱いた仲間への感謝

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日章学園高を牽引し続けてきたキャプテン、DF工藤珠凜

[12.29 全国高校選手権1回戦 前橋育英高 2-1 日章学園高 NACK5スタジアム大宮]

 キャプテンの仕事は大変だ。時にはチームメイトに嫌われることだって、覚悟しなくてはいけない。ただ、今年の日章学園高(宮崎)には、それができるリーダーがいた。中等部からの6年をこの学校で過ごしてきたDF工藤珠凜(3年=日章学園中出身)だ。

 中学3年時には全国中学校サッカー大会で、青森山田中を破って日本一を経験。その同級生たちと今度は選手権でも活躍することを誓って高等部へと入学したものの、チームはそこからなかなか全国の扉を開けない。

「憧れの青写真を自分も描いて高校に入ってきましたし、歴代の先輩たちを見てきて、『自分たちも勝てるんだろうな』という考えがあったんですけど、選手権というのはそんなに甘い世界ではなかったです」と語る工藤も、とりわけ昨年度はレギュラーでプレーしながら、選手権予選は準決勝で敗退。気付けば冬の全国を味わえないまま、高校生活最後の1年を迎えていた。

「自分も今までのキャプテン以上に3年生にも厳しく言わなくてはいけないと考えてトレーニングからやっているんですけど、『もうピッチの中ではそれでいいや』と思ったんです」。厳しいキャプテンに、チームメイトからの反発がなかったわけではない。でも、勝つためにはそれが必要だと信じ、信念を曲げることはしなかった。すべてはこの仲間と選手権に出るため。全国の舞台で最高の思い出を作るため。

「みんなに好かれようとは思っていなかったですし、孤立する時期もあったんですけど、それでも『この3年生のために』という気持ちで1年間やってきたので、みんなもしっかり付いてきてくれて、今から思えば充実していて、楽しかったなと思います」。シーズンが深まるにつれて、チームの一体感も増していく。キャプテンの想いはみんな十分にわかっていた。

 予選の準決勝では県内最大のライバル、鵬翔高に2-1で競り勝ち、1年前に敗れたリベンジを達成。決勝では都城農高に大勝して、3年目でようやく辿り着いた選手権の晴れ舞台。NACK5スタジアム大宮のバックスタンドからは、ベンチに入れないメンバーたちが大声を張り上げる、統率の取れた声援が80分間ずっと続いていた。

「選手権に出られる選手、出られない選手がいますけど、今年の3年生はそれぞれの立場がありながら、みんながチームのためにやってくれるので、3年生中心にチームの一体感ができたんです。本当は悔しい想いを持ちながらあそこで応援していた選手も多くいたと思うんですけど、自分もそういう選手の気持ちを1年間ないがしろにしたことはないですし、そこは1年間大事にしてきたことだったので、自分としては理想のチーム像の景色が見られたことが嬉しかったです」。

 もちろん選手権に出場できたこともそうだが、3年生を中心にチームが確かな一体感を持って、ピッチで、スタンドで、それぞれが自分の為すべき役割を、全力で果たそうとしてくれた姿勢が、何より工藤には嬉しかった。

 個人としては、悔しさが残っている。1-1で突入した最終盤の後半34分。接触で倒れた工藤は立ち上がることができず、交代を余儀なくされる。「工藤の交代は考えていなかったですね。ウチは今年1年引っ張ってきてくれた彼のチームだったので、本当は攻撃的にも行きたかったんですけど、5バックにしました。5-4-1も準備はしていたんですけど、守り切れなかったなという感じです」と口にしたのは原啓太監督。工藤のいなくなったチームは残り3分で失点。土壇場でインターハイ王者相手の金星は、するりとその手から逃げていった。

「自分が本当はチームを勝たせるプレーをしないといけなかったんですけど、最後までピッチに立つこともできず、一番は申し訳ないなという気持ちです。もっと自分にできることがあったら、この試合も勝って、また次、その次と、日本一を狙えるチームになっていたと思います」と試合後に涙を浮かべた工藤は、それでもみんなで戦った最後の選手権をこう総括した。

「そもそも自分たちが何もできないという考えはなくて、互角かそれ以上にやれるという自信を持って挑んだので、そこは準備してきたモノが出せたのだと思います。自分が引いた抽選でこの舞台を作ったので、育英さんは絶対どこかで当たる相手で、今日は決勝戦のつもりで挑んでいくとみんなで話していました。最後までわからない試合展開で、自分たちにも勝つチャンスがありましたし、そういうゲームに持っていけたのは、自分たちがやってきたことが間違っていなかったなって」。

 日章学園での6年間を経て、この春からは新たなステージへと歩みを進めていく。「僕は大学でもサッカーを続けるので、4年後にはプロに行く(金川)羅彌と同じピッチでまた一緒にプレーできることを目指して、この悔しさと高校3年間で得たものを糧にして4年間を頑張りたいと思います」。

 工藤を中心に決めたという、今年の日章学園がテーマに掲げた『雲外蒼天』には、「結果が出ない時もやり続ければ、継続して努力し続ければ、結果が出る」という意味がある。これからも今まで以上の努力を続けるのであれば、工藤が見上げるその視線の先には、いつだって鮮やかな青空が広がっているはずだ。

(取材・文 土屋雅史)
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