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「3人なら全国獲れる。岡山学芸館に行こう」一度は離れかけた幼馴染トリオ、運命を変えた今井拓人の誘い

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岡山学芸館高FW今井拓人(3年)(写真協力=高校サッカー年鑑)

[1.9 選手権決勝 岡山学芸館高 3-1 東山高 国立]

「学芸で全国に行こう」。高校からバラバラになるはずだった3人は、その一言で岡山学芸館高でも一緒にプレーをした。FW今井拓人(3年)は自身が誘ったDF井上斗嵩(3年)、MF岡本温叶(3年)とピッチの上で優勝の瞬間をともにする。「自分はこの2人と日本一を獲れると思っていた」(今井)。幼馴染トリオが全国制覇の喜びを噛みしめた。

 ともに初優勝を懸け、岡山学芸館は東山高と対戦した。前半25分に今井のプレーが均衡を破る。PA右に入り込んだ今井は「シュートを狙った。思い切り振ろうという意識」で鋭く右足シュート。低い弾道は相手選手に当たってオウンゴールを誘発。岡山学芸館が先制した。

 前半終了間際に東山に追いつかれるが、岡山学芸館は後半7分、40分とMF木村匡吾(3年)が2ゴールを挙げる。3-1の点差を守り切り、90分間で決着。主審の笛が鳴り響き、岡山県勢初の全国制覇が決定した。

「岡山県の代表として、岡山の歴史を塗り替えられたことが一番うれしい」と今井。自身は今大会3ゴールで得点王にも輝く。だが、5選手が3ゴールで並んだため単独得点王にはなれず。「得点王という形では本当にうれしい。だけど決め切れるシーンはあったので、単独で取りたかった」と悔しさも垣間見せた。

 優勝セレモニー後、優秀選手が発表された。岡山学芸館からは今井も含めて6名が受賞した。受賞者のうち今井、井上、岡本の3人は中学時代にハジャスFCでともにプレーした幼馴染。だが高校からバラバラになるところで、2人を岡山学芸館に誘ったのは今井だった。「自分はこの2人と日本一を獲れると思っていた。学芸で全国に行こうと誘いました」(今井)。

 今井の岡山学芸館進学は決まっていたが、井上と岡本は岡山学芸館に進学することを考えていなかったという。「レベルが高すぎるので候補にも入れていなかった」(井上)。その後、岡山学芸館と練習試合をしたことで井上と岡本に声はかかるが、それでも進学をためらう。背中を押したのは今井の存在だ。「拓人はもともと声がかかっていた。拓人とできるなら一緒に行きたいと。拓人の誘いがあってチャレンジしてみようと思いました」(井上)。

 つらいときでも、それぞれが助け合ってきた。2018年の西日本豪雨やコロナ禍という未曽有の事態にも手を取り合って邁進する。「(西日本豪雨で)被災したときも、チームメイトと一緒に協力した。コロナ禍でサッカーができない中では、岡本と自主練で2人でやってきました」(今井)。井上も今井と岡本の存在が大きな支えになった。「あの2人と一緒にサッカーをしたいというのが強かった。向上心を持ってできたのは、本当にあの2人のおかげ」。

 昨年度の選手権は2回戦で敗退した。だが、今年は快進撃を続けた。今井は最前線で、岡本は中盤で、井上は最終ラインで、それぞれの役目を果たす。

 準決勝では優勝候補・神村学園高と対戦。今井は2点目、岡本は3点目を沈めると、PK戦では井上が最後のキッカーとして決勝進出を決めた。「格上を倒すことで自信にもなった」(今井)。決勝の舞台、5万868人が集った国立競技場でも「幸せだなと常に感じていた」(今井)。サッカーができる喜びを噛みしめ、臆すことなく岡山県勢初の優勝を手にした。

「学芸で全国に行こう」。今井は井上と岡本を誘ったその一言に胸を張る。「3人とも優秀選手に選ばれた。自分はこの2人と日本一を獲れると思っていた。誘ってよかった」。背中を押された一言に、井上は感謝をつぶやく。「あの2人と一緒にサッカーができて、こういう結果で終われて本当によかった」。一度は離れかけた縁。再び集った3人が、見事に全国制覇を実現させた。

(写真協力=高校サッカー年鑑)

(取材・文 石川祐介)
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