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[MOM4491]済美MF深見月哉(3年)_苦手なPK戦で命じられた5人目キッカー、指揮官が信頼した“度胸”を示す渾身シュート

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済美高MF深見月哉(2年)

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[11.3 選手権愛媛県予選準決勝 松山北高 1-1(PK2-4)済美高 グリーンフィールド新居浜]

 PK戦が始まる直前、済美高のベンチがどよめいた。PKキッカーは決まっておらず、渡邊一仁監督が選手を指名したためだ。5人目に命じられたMF深見月哉(2年)は「任せてくれたんで、やっぱやるしかない」。もともとPKが苦手と指揮官に伝えていた深見。だが、信頼に応えるシュートを決め、決勝進出の喜びを手にした。

 堅い守備力を誇る済美だが、松山北高のセットプレーで先制を許した。追いかける展開となったが、済美の選手たちは冷静を貫く。「決勝には絶対に行く気でいた」(深見)。徐々にボールを握り始めていたこともあり、自信は確信に変わる。0-1で迎えた後半32分、FW本田蒼(2年)のクロスは一度相手選手に当たるが、敵陣内でボールを収めたのは深見。冷静にPA左にパスを出すと、最後はFW谷野陽香(3年)が同点ゴールを決めた。

 終盤に追いつき、済美は勢いに乗ったものの、残り時間は少ない。後半を1-1で終えると、延長戦でもスコアは動かず。試合はPK戦で勝敗を決めることになった。

 PK戦のキッカーは、いろいろな決め方がある。事前に決める方法、そのときに立候補する方法、プレッシャーをいかに克服するかも大事な要素だ。渡邊監督はPK戦直前に、キッカーを発表した。「選手たちが決めるのではなくて、僕が決めました。自主性と言われる時代ですけど、僕が責任を持ちます」(渡邊監督)。選出理由は“度胸”がある選手。日常で見てきた中で、指揮官は自らの目を信じてその任を伝えた。

 勝敗を決する可能性が高い5人目のキッカーは深見となった。渡邊監督は「度胸が一番ある」と語る一方、深見自身は困惑していた。「小学校のころに、大きな大会ではなかったんですけどPKを外してしまった。試合は勝ったけど、負けそうになった。だからちょっと自信がないんです」(深見)。勝敗にもかかわることなので、深見は事前にPKが苦手ということを指揮官に伝えていたという。だが、指揮官から託された「5人目」という信頼。「やるしかない」。その思いに応えるため、トラウマを乗り越える決意をした。

 両チームともに1人目のキッカーがGKに止められる。その後は成功が続くが、後攻・松山北の4人目が失敗し、4人目を終えた時点で3-2。先攻・済美の5人目、つまり深見が決めた時点で勝利が決することになった。

「緊張はすごいしました」(深見)。渾身の左足シュートはゴール右隅に突き刺さる。済美が4-2でPK戦を制し、12年ぶりの選手権出場に王手をかけた。

 シュートを決めた直後、深見は拳を振り上げて雄叫びをあげた。「緊張が大きかった分、決めたときはやっぱり(喜びが)大きかった。声を大きく張り上げるほど、うれしかったです」。PKへの苦手意識はまだ残るものの、「ひとつ自信にはつながりました」と笑顔を見せた。

 今夏の総体は全国行きを目前に決勝で敗戦していた。だからこそ全国への思いも強い。「これだけの選手が揃っているので。絶対全国に行けるようにがんばります」。大一番を乗り越えた自信とともに、決勝に向けて力を込めた。

(取材・文 石川祐介)
●第102回全国高校サッカー選手権特集
石川祐介
Text by 石川祐介

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