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独自の強化進める拓大紅陵が初の千葉準決勝で堂々の戦い。躍進を「この年だけにしないように」

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拓大紅陵高は初の千葉準決勝で自分たちのサッカーを貫いた

[11.5 選手権千葉県予選準決勝 市立船橋高 4-1 拓大紅陵高 柏の葉公園総合競技場]

 今回だけの活躍では、終わらない。拓大紅陵高は、初の選手権千葉県予選準決勝で堂々の戦いを見せた。対戦相手は選手権優勝5回、インターハイ優勝9回の名門・市立船橋高。また、“高校年代最高峰のリーグ戦”プレミアリーグEASTに所属する市立船橋に対し、千葉県3部リーグの拓大紅陵は自分たちが取り組んできたことで勝負する。

 序盤は相手の切り替えの速さや、強度、判断力の高さに差を作られ、2点を献上。だが、攻撃機会を得た際には最終ラインからボールを正確に繋いで前進することにチャレンジしていた。10番MF細谷怜大(3年)をはじめ、相手のプレッシャーを剥がす力を持つ選手も複数。彼らが相手の状況を見て、判断しながらボールを動かした。

 前半32分には左サイドで2人、3人が係わった崩し。そして、クロスからMF飯田翔音(1年)が決定的な1タッチシュートを枠へ飛ばした。ボールを大事にしながらも、あくまで目指すのはゴール。FKやCB本間竜主将(3年)のロングスローといったセットプレーやロングクロスから、FW佐藤海翔(3年)やMF吉田遥輝(3年)の力強さも活かしてゴールへ迫った。

 後半立ち上がりにFKから失点し、0-3。主導権を相手に握られる中での戦いとなったが、それでも本間やGK宮下陽希(3年)を中心に我慢強い守りを継続し、交代出場の選手たちも特長を発揮して攻め続ける。そして、交代出場MF濱谷雄大(3年)や、U-22日本代表FW細谷真大(柏)を兄に持つ細谷のシュートなどで反撃。後半32分には、左CKから粘って攻め、最後はMF飯野聖士(2年)が右足で堅守・市立船橋のゴールを破った。

 同級生たちの大応援に応える1点。1-4で敗れたが、本格強化5年目のチームが前回大会3位の中央学院高や今年関東2位の伝統校・八千代高を破って初の準決勝へ勝ち上がり、名門・市船相手にも自分たちのサッカーを貫いてゴールも決めた。

 激戦区・千葉でインパクト十分の活躍。嘉藤大樹監督は「やっぱり、さすがでしたね。(プレーも振る舞いを含めて)全てが一枚上手だった」と市立船橋との差を認めた一方、「今年は1年間で流経(流通経済大柏高)とインターハイでやらせてもらって(決勝T1回戦、0-2)、選手権もこうやって市船とやらせてもらって、選手としても、チームとしても、凄く有意義な一年になったと感じますね」と周囲の支えも力に、貴重な経験ができたことを喜んでいた。

 拓大紅陵は磐田や海外でも活躍したFWカレン・ロバート氏が代表を務めるローヴァーズ木更津FCと5年前に提携し、部活とクラブの良い部分を掛け合わせたハイブリッド方式で活動。嘉藤監督は他の高校との違いについて、「選手たちがちゃんとサッカーを理解しようとする環境があるというところじゃないかと。(教員以外にも)外部のコーチがこうやって毎日やってくれている部分があるので、(静岡学園高OBの手倉森賢太コーチや元Jリーガーの守山健二GKコーチら)スタッフは物凄く優秀なので、安心して任せるところは任せられるし、そういうところは凄くメリットかなと思いますね」と説明する。

 サッカー部1、2年生を中心とした約20名がローヴァーズ木更津FC U-18で選手登録し、クラブユースの公式戦を経験するという試みも実行中だ。組織全体がボールを扱う、球際の攻防、攻守の切り替えを重視し、状況に応じた適切な判断、プレーを実行できるようになるためのトレーニングを行っている。勝利ももちろん目指しているが、嘉藤監督は「次のステージを見据えて指導していくことは、僕らの中で落とし込んでいるつもりです」。卒業後は関東1部の強豪大学に進む選手も複数。チームは今回の大躍進の経験も活かし、来年以降に繋げる考えだ。

 嘉藤監督は「3年生はこれで区切りがついちゃいますけれども、1、2年生も出ている子がいるので、その子たちが次どうやっていくかが重要かなと。『(周囲の印象はおそらく、)ベスト4で日体大(柏)、流経、市船……紅陵? 野球か?(※野球部は夏の甲子園準優勝歴を持つ強豪)』 この年だけにしないようにしないといけない。結果としてはベスト4に行かせて頂いて、今年は良かったけれど、じゃ意味がないので、来年を見据えてやっていきたい」。この日は飯野ら4人が先発するなど下級生6人が出場。細谷が「来年、再来年はこの壁を超えられると思っているので、あとは後輩たちに任せたいと思います」とエールを送っていたように、怪我で欠場した注目MF行者道玄(2年)を含めた下級生たちが、またこの場に戻り、超えていくことが期待される。

 流経大柏出身で同校のコーチも務めていた嘉藤監督は、恩師の本田裕一郎氏(前流経大柏監督、現国士舘高テクニカルアドバイザー)から「勝つために何をしなければいけないのか、というのを毎年毎年見せてもらった。(他にも本田氏や榎本雅大現監督から)教わっていた部分もある」。また、コーチを務めた尚志高(福島)で仲村浩二監督の姿を見て「先を見据えて指導している部分のあるし、与えすぎない部分もあるし、選手が一番パフォーマンスを出せるような指導を練習の中でやっていたので、僕は凄いなと」感銘を受けた。

 名将2人の結果、育成を目指す姿勢を「僕はどっちも持っていたい」。そして、「千葉で勝つために何をしなければいけないか。でも、それだけにならないように、もう一つ上のステージでやれるためには何をしなければいけないかというのを、この千葉の中でやることで他との違いを出せていくのではと思います」。ローヴァーズ木更津FCとともに“紅陵モデル”をさらに構築しながら、結果と育成の両方を目指す。

CB本間竜を中心に粘り強い守り

最後まで攻撃姿勢を貫き、後半32分に2年生MF飯野聖士が右足でゴールを決めた

(取材・文 吉田太郎)

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吉田太郎
Text by 吉田太郎

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