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手堅いゲーム運びは「試合から学ぶ」経験を積み重ねてきた“のびしろ”の証。前橋育英は健大高崎を撃破して県3連覇達成!:群馬

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勝負強さを発揮した前橋育英高は県3連覇を達成!

[11.12 選手権群馬県予選決勝 前橋育英高 2-0 健大高崎高 アースケア敷島サッカー場]

 この黄色と黒のユニフォームを着ているからには、負けることなんて許されない。どれだけ他のチームが全力で向かってこようとも、それを上回る全力でなぎ倒すことだけが、自分たちに許された唯一の戦い方だ。

「やっぱりみんなが、桐一さんにしても、健大高崎さんにしても、『打倒・前橋育英』ということでやってくるので、それを受けながら、ウチも頑張って優勝しなきゃいけないなとはいつも考えているので、そういう強い気持ちが大事かなとは思っていますね」(前橋育英高・山田耕介監督)

 手堅く勝ち切っての県3連覇。第102回全国高校サッカー選手権群馬県予選決勝、3年連続の全国を目指す前橋育英高と、2度目の決勝進出で初の全国を狙う健大高崎高が対峙した一戦は、FW大岡航未(1年)とMF斎藤陽太(3年)のゴールで2点を先行した前橋育英が2-0で勝利。力強く群馬の頂点に立っている。


 先にスコアを動かしたのはタイガー軍団。前半14分。左サイドでDF斉藤希明(3年)、FWオノノジュ慶吏(2年)とボールが回り、MF平林尊琉(1年)は「中が2対2の状況だったので、相手の一番ニアにいる選手の頭さえ越えれば、あとはどっちかが詰めてくれると」絶妙なクロス。ここに飛び込んだ大岡がGKの鼻先で触ったボールは、ゴールネットへ転がり込む。「平林からクロスが来るだろうなと思ったので、そこに入って、あとは触るだけでした」と笑ったアタッカーは、準決勝の桐生一高戦に続く2戦連発。1年生コンビの連携で、前橋育英が1点をリードする。

前橋育英は1年生の大岡航未(20番)が先制ゴール!


 ただ、「健大が前からどんどん来るということで、いつもみたいに繋ぐのではなくて、最初はどんどん蹴って、自分たちのリズムを掴もうとはしていましたね」とキャプテンのGK雨野颯真(3年)が話したように、前橋育英は先制以降も比較的長いボールで背後を狙うアタックを徹底。一方の健大高崎も、前へと素早くボールを入れるスタンスを貫いたこともあって、ボールの行き来する落ち着かない展開が続く。

 むしろそれは健大高崎の土俵。FW萩原咲空(3年)とFW村川友亮(3年)の2トップに加え、その少し下に入ったMF渡辺聡馬(3年)も含めた前からのプレスで相手にボールを蹴らせ、MF松本空輝(3年)やDF牧野陸(3年)がセカンドを回収するとすかさず前へ。18分には萩原のパスから、松本が枠へ収めたミドルは雨野がファインセーブで回避。22分にも牧野が狙ったミドルは、ここも雨野が何とかセーブしたものの、前橋育英もペースを引き寄せ切れないまま、最初の40分間は1-0で推移した。

 追い付きたい健大高崎は、後半3分にビッグチャンス。MF湯浅惠斗(2年)の右ロングスローから、渡辺の残したボールを松本が好クロス。後半開始から投入されたFW中澤慶次(3年)がわずかに枠の上へ外したヘディングは、結果的にオフサイドの判定にはなったが、サイドアタックからあわやというシーンを創出する。

 19分も健大高崎。年代別日本代表も経験しているレフティのDF新井夢功(2年)が蹴り込んだ右CKから、ペナルティエリア内は大混戦に。最後は松本のパスに中澤が合わせたヘディングもヒットはしなかったものの、プリンスリーグで磨いてきた攻守にパワフルな推進力を、この決勝の舞台でも恐れることなく披露する。

 苦しい流れの中で輝いたのは「サイドからどんどん仕掛けていくようにと言われてしました」という11番のドリブラー。25分。右サイドでボールを受けた斎藤は一気にギアを上げ、深い位置から中央へ侵入。対応したマーカーにエリア内で倒されると、笛を吹いた主審はペナルティスポットを指し示す。「誰にも蹴らせたくはなかったですね。自分で獲ったのに、あそこで蹴らなきゃ男じゃないとは思いました」という斎藤は、自ら手にしたPKを、冷静に右スミへグサリ。「PKが獲れたのはものすごく大きくて、アレは彼の持ち味だったので、よくやってくれましたね」と山田監督も称賛する貴重な2点目。両者の点差が開く。

 悪くない流れの中で2点のアドバンテージを負った健大高崎は、30分に再び湯浅の右ロングスローからエリア内に混戦を生み出すも、中澤のシュートはMF篠崎遥斗(3年)が、さらに放った渡辺のシュートはDF青木蓮人(2年)が身体を投げ出してブロック。どうしても1点を奪うまでには至らない。

 前橋育英の守備は堅かった。普段はサイドバック起用の多いDF清水大幹(3年)とDF山田佳(2年)のセンターバックコンビは高い集中力で中央を締め、不動のドイスボランチを組むMF石井陽(2年)と篠崎も時間を追うごとにセカンドボールを支配し、相手に二次攻撃を許さず。右に青木、左に斉藤を配した両サイドバックは対峙するアタッカーの突破を、ある程度の余力を持ってきっちり封じ込めていく。

「後半も陽太が1本決めてくれて、守備陣はゼロで終えることができて、結果的には攻守ともに良いプレーができたかなと思います」(雨野)。健大高崎の奮戦及ばず。終わってみれば前橋育英が、勝負の勘所をきっちり押さえた手堅いゲーム運びで2-0と勝ち切って、3年連続となる全国切符を手繰り寄せる結果となった。



 今大会の前橋育英にとって、キーゲームとなったのは準決勝の桐生一高戦。前半のうちにミス絡みで2点を献上したものの、追い詰められた後半終盤に1年生の大岡が同点ゴールを叩き出すと、最後は延長戦の末に途中出場のFW織茂誠太郎(3年)が決勝ゴール。大逆転勝利を収めて、何とかファイナルへと勝ち上がってきた。

 その苦闘がこの日にもたらした影響を、キャプテンの雨野はこう説明する。「先週は入りのところで自分たちのミスから失点したので、今週はその経験を生かして、『入りのミスをなくしていこう』とは話していましたし、2-0になった時も、先週は0-2からこっちが逆転したという経験もあるので、もう1回守備陣が引き締めてやれたと思います」。

 去年の高校選手権で全国大会に臨んだ30人のメンバーに入っていた選手は、今年のチームに4人しか残っていない。その中でもピッチに立ったのはGKの雨野のみ。文字通りの“新チーム”として立ち上がった2023年は、最初の公式戦となった新人戦の準決勝で桐生一に完敗したところからスタートした。

 プレミアリーグEASTの開幕戦も、スタメンの半分以上がプレミアデビュー戦という状況の中で、前年王者の川崎フロンターレU-18に0-3と成すすべなく敗れ、試合後には少なくない選手が放心状態に陥っていたことも印象深い。

 それでも、試合は次から次へとやってくる。プレミアリーグで強豪相手に高い強度の実戦を積み重ねていく中で、ほとんど経験値のなかった選手たちはそのレベルにアジャストしようと、本当に一歩ずつ、一歩ずつ、前進していく。

 連覇を狙ったインターハイは3回戦で同じプレミア勢の尚志高と対峙。結果的には0-1で敗れたものの、そのハイレベルな攻防に会場の観衆は驚嘆のため息の連続。試合後に雨野は「本当に伸びしろがある代だとは思っていて、ここまでも本当に攻撃も守備も伸びてきたと思います」と語るなど、真夏の旭川で成長の一端を逞しく披露した。

 前述した準決勝の桐生一戦を潜り抜けたことも含めて、雨野は今のチームについてこう言及している。「いろいろな1試合1試合を経験していることが大きいと思いますし、『試合から学ぶ』ということができるのが、今年の強みかなと思います。今日も難しい流れでしたけど、こういう中でも勝ち切れるチームになってきたと感じているので、全国でもそういうところを出していければいいかなと思います」。

 辿り着いた冬の全国大会。ほとんどの選手にとって未経験のステージだが、今の彼らであれば、その未知なる領域へ挑むことにだって、きっと心を躍らせているに違いない。最初で最後の晴れ舞台に向けて、斎藤は力強く言い切った。「全国、楽しみですね。その前にプレミアを勝ち切らないといけないですけど、全国で早く自分を試したいと思っています」。

 この黄色と黒のユニフォームを着ているからには、負けることなんて許されない。試合から学び、地道に成長を続けてきた上州のタイガー軍団は、全国の相手と対峙する瞬間に向けて、まだまだ“のびしろ”という名の牙を研ぎ続ける。2023年の前橋育英が狙うのは、2年続けて阻まれているベスト8の壁を超え、その先に待っている国立競技場の表彰台だけだ。



(取材・文 土屋雅史)
●第102回全国高校サッカー選手権特集
土屋雅史
Text by 土屋雅史

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