beacon

流れ変えた後半26分の交代策。京都橘が前回全国準Vの東山に逆転勝ちし、3年ぶりの京都制覇

このエントリーをはてなブックマークに追加

京都橘高が3年ぶりとなる選手権出場を決めた

[11.12 選手権京都府予選決勝 東山高 1-2 京都橘高 サンガS]

 11月12日にサンガスタジアム by KYOCERAで第102回全国高校サッカー選手権大会・京都大会の決勝戦が開催され、3連覇を狙う東山高と3年ぶりの奪還を狙う京都橘高が対戦した。

 府内のライバル校の対戦で、今季はインターハイ予選とプリンスリーグ関西1部で3度戦っており、この決勝戦が4度目の対戦。お互いに手の内を知り尽くしている中で、キックオフから手堅いゲームとなった。

 両チームともチャンスはセットプレーやロングスローからが中心で、シュートや決定機の数も同等。東山は3分にCKの流れからMF足立康生(3年)がファーストシュートを放ち、14分に相手DFのは裏へ抜け出したFW山下ハル(2年)、21分にはロングスローの流れで前線へ上がっていたDF海老原雅音(3年)がクロスにヘッドであわせるが、枠をとらえない。対する京都橘もシュートには至らないがゴール前で惜しい場面を作り出しており、31分にはCKからMF久保翔大(3年)が頭で合わせたがポストを叩く。前半はスコアレスで、ハーフタイムを迎えた。

 後半も同様の展開で試合が進む中、11分に試合が動く。東山は自陣から左サイド奥のスペースへボールを送り込み、抜け出した山下がクロス。これは相手DFにクリアされるが、こぼれ球を回収して敵陣中央でボールを持つと、MF井上慧(2年)がドリブルから右足を振り抜いてミドルシュート。「あのエリアからは自主練で取り組んできた」というシュートがネットに突き刺さって、東山が先制点を奪う。その直後にもロングフィードに抜け出した山下がエリア内まで侵入してシュートを放つが、ここは京都橘GK中浦悠大(3年)にセーブされた。

 京都橘はビハインドを背負う展開となったが、後半から攻撃の流れはでき始めていた。左サイドからのサイドアタックや、そこで相手を引き付けて逆サイドへ展開して、ゴールに迫っている。ただ、東山も球際の対応やスライドが徹底されており、簡単にはシュートまで持ち込ませてもらえない。18分には左サイドからMF松本海音(3年)のクロスが右ポストに、こぼれ球を拾ったDF大塚真沙渡(3年)のミドルシュートがクロスバーに、混戦からFW西川桂太(3年)が放ったシュートがわずかに枠をとらえず、立て続けに決定機を迎えたが1点が遠い。

 状況を打開すべく、米澤一成監督が動く。26分、MF桐原惺琉(2年)を下げてFW吉野歩夢(2年)を投入し、桐原が抜けた右サイドハーフにはFWだった西川を回した。この交代策で流れが変わる。これまでも左サイドからのサイドチェンジを受けた桐原がドリブルで仕掛ける場面があったが、キープできて周りも使える西川が入ったことで、これまでも献身的に上下動を繰り返していた右SBの大塚を絡めたサイドアタックが可能となった。そうした攻撃を繰り出すことで東山の守備陣形を横へ広げさせて、中央へボールが入る場面も増加。終盤は京都橘が攻勢を仕掛けて、東山は耐える展開へとなった。

 そして32分、京都橘は西川が蹴ったCKをファーサイドでDF池戸柊宇(3年)が折り返し、最後は久保が飛び込んで頭で押し込んで同点に追いつく。ドリブラーの久保が「高校3年間で頭で決めたのは初めてかもしれない」というゴールが決まり、沸き立つ京都橘サイド。1-1となった後も試合の流れは変わらず、延長戦突入も見えてきた39分に決勝点が生まれる。ロングスローのこぼれ球を拾った久保がドリブルで右サイド深くから折り返すと、相手のクリアが小さくなったところを吉野が拾い、最後はパスを受けた松本が右足を一閃。これがゴール前の敵味方の間を抜けてネットを揺らして、劇的な逆転弾となった。

 試合はこのまま1-2で終了。京都橘が夏のインターハイ予選でのリベンジを果たして、3年ぶり10回目の優勝。全国大会への切符をつかんだ。試合後、米澤監督は「様々な想定をしたが、球際やセカンドボールといった部分が大事になることは変わりません。(先制されたが)選手たちにはイーブンのとき、ビハインドのとき、リードしたときと状況に応じた戦い方や心の持ちようについて話してましたし、よく逆転してくれました」と話している。後半26分の交代策についても「西川があそこで仕事をしてくれたし、大塚もよく走ってくれた」と狙いどおりだったことを明かしている。

 キャプテンの西川も「サイドにスペースがあったので、一度時間を作って、攻撃が単調にならないようにしました。あそこからチャンスを作って、CKも獲得することができました」、大塚も「(西川)桂太は自分で突破もできて、周りを生かすのも上手い。僕は桂太を信じて、走り続けました」と話している。

 敗れた東山は、昨年の全国大会でつかみ損ねた栄冠を目指して今年の選手権へ挑んだが、全国大会出場はならなかった。堅実な守備と素早い攻撃、セットプレーや足立のロングスローといった持ち味が発揮されており、先制点を奪ったところまではプランどおりだった。

 しかし、「その後に受け身になってしまったのが同点、逆転につながってしまった。ラインを押し上げて、セカンドボールを回収できなかった」とMF濱瀬楽維(3年)が振り返ったように、終盤に相手の攻勢を食い止めることができなかった。京都橘が活路を見出した右サイド、東山にとっての左サイドをいつも守ってきた左SBの志津正剛(3年)が準々決勝から欠場していたことも影響したかもしれない。

 キャプテンの濱瀬は「正直、負けた後のことは考えていなかったが、結果を受け入れなくちゃいけないし、この悔しさを糧に1、2年生は来年やっていって欲しいです」と言葉を振り絞った。

 今季は先輩たちが成し遂げた全国準優勝がもたらす注目と重圧を感じながらのシーズンだった。一つ上の黄金世代が抜けた後のチームで、昨年のレギュラーだったのは志津だけ。自分たちでつかんだ成功体験が少なく、シーズン序盤は「一つのミスを引きずり、立て直すことに苦労する」(福重良一監督)ところからのスタートだった。それでも練習と試合を積み重ね、手応えと反省を洗い出しながら、チームや選手は成長していく。先輩たちとはプレーヤーとしての能力や特徴が違うことも受け入れて「技術のある1、2年生たちを、3年生が引っ張ってプレーで示していく」(海老原)という方向性も定まった。

 夏のインターハイ予選・準決勝では京都橘が終始優勢にゲームを進めながらも、粘り強く戦って失点を許さず、延長戦のカウンター一発で相手を仕留める勝負強さも見せた。リーグ戦も含めて、多くの選手がピッチに立った経験は来年以降にもつながるはずだ。先制点を決めた2年生の井上は「この悔しさを忘れずに、来年はやり返せるようにがんばりたい」と話している。

(取材・文 雨堤俊祐)


●第102回全国高校サッカー選手権特集

TOP