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初めての全国で味わった手応えと悔しさと。早稲田実が誇る不動のキャプテン、MF西山礼央が国立競技場で感じたこと

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早稲田実高(東京B)のキャプテンを務め切ったMF西山礼央(3年=ジェファFC出身)

[12.28 選手権開幕戦 早稲田実高 0-2 広島国際学院高 国立]

 なかなか動かなかった大きな歴史の扉をこじ開けた感覚は、間違いなく自分の中に刻み込まれている。でも、その先に待ち受けていたはずの、さらに新たな扉ですらも、この仲間と一緒になら潜り抜けることができたかもしれないと思うからこそ、悔しさも、寂しさも、また募るのだろう。

「早稲田実業としての歴史を創ったことに関しては、もう1か月前に喜んだので、『今度は全国で勝利を挙げることで、歴史を変えよう』と全員が思っていたんですけど、それができなかったのは悔しいですね。全国で1勝を挙げるという目標は、後輩たちに託したいなと思います」。

 創部56年目にして、初めての全国大会を戦う早稲田実高(東京B)を支えてきた、ブレないキャプテン。MF西山礼央(3年=ジェファFC出身)はみんなで手にした確かな手応えと、少しの寂しさと悔しさを抱えて、国立競技場のピッチを静かに後にした。


「もちろん緊張もしていたんですけど、『その緊張を楽しんでやろう』というふうにみんなで言っていたので、そこまで緊張しすぎてはいなかったのかなと思います」。西山がそう話したように、早稲田実は立ち上がりから立て続けに決定機を創出する。ただ、どちらも得点には至らず、先制のチャンスを逸すると、前半28分には失点を許し、追いかける展開を強いられる。

 東京都予選の5試合を無失点で切り抜けてきた彼らにとっては、これが今回の選手権で初めての失点。ただ、自分たちのやるべきことは変わらない。「バタバタはそんなにしていなかったですね。『この失点は仕方がないから、次に獲りに行こう』という感じで切り替えてやっていました」と西山。前半はそのまま0‐1でハーフタイムへ折り返す。

「ハーフタイムは『ここからだろ!まだまだやり返せるぞ!』と話していました」(西山)。後半に向けてみんなの意志を統一させ、残された40分間のピッチへ向かったものの、後半12分には2失点目を献上。「セカンドボールも回収できていて、自分たちのペースだったと思うんですけど、徐々に主導権を相手に握られてからは、ちょっとゲームが厳しくなってきた感じはありました」とキャプテンも正直な印象を口にする。

「自分たちから追いかける展開は、東京都予選でも経験してこなくて、いざそうなった時に、どういう気持ちを持って、どういうプレーを出して引っ繰り返せばいいのかという意識が、あまり共有できていなかったのかなと思います」(西山)。ファイナルスコアは0-2。全国初勝利を狙った早稲田実の選手権は、1万4千人を超える観衆の集まったナショナルスタジアムで幕を閉じた。


「自分たちのやりたいことを封じられる場面もありながら、かといって、まったく通用しなかったわけではなくて、やりたいことも少しはできていたと思うんですけど、結果としてスピードの差だったり、力の差を見せ付けられたという印象です」。冷静に試合を振り返るのは、このキャプテンの常。それでも表情のそこかしこに悔しさは滲む。

 ただ、この試合のキックオフ前には、ある“憧れ”を実現させていたという。「全国大会でエスコートキッズを連れて入場するというのは、今まで憧れていた形だったので、1つの良い経験になりましたし、凄く興奮しましたね」。その心情はわかる気がする。国立のピッチにエスコートキッズを伴って入場していくなんて、そう簡単に叶えられることではない。

 面白いのは、そんなシチュエーションの最中にも、この人の視野の広さや物事を感じる力は、しっかりと発揮されていたことだ。「僕と一緒に入るエスコートキッズの子がメチャメチャ緊張していて震えていたので、『大丈夫?緊張しないでね』みたいに声を掛けたんです。でも、逆にアレで自分の気持ちも和らいだのかなと思います(笑)」。

 全国大会出場を決めた予選決勝の試合後。西山が話していた言葉が印象深い。「僕たちは『自分たちが全国に行きたい』という想いを新チームの発足時から持っていたんですけど、1年間を通していろいろな経験を積んでいくうちに、いろいろな人の想いを背負っていることも、いろいろな人たちから期待されているんだということもわかってきたので、『みんなのために全国に行くんだ』とだんだんと気持ちが変わってきたんです。今まで早実の歴史を作ってきてくれたOBだったり、自分たちをここまで育ててくれた親やクラブチームのコーチ、そのチームメイトは自分たちに大きな影響を与えてくれた人たちなので、感謝しています」。

 この日の国立のバックスタンドには、ベンチに入れなかったサッカー部員も、後輩の雄姿を一目見ようと駆け付けたOBも、選手たちを支え続けた保護者の方々も、同じ学び舎に通う学生たちも含めて、多くの“早実ファミリー”が集っていた。

「あの応援にはメチャメチャ勇気をもらいましたし、メチャメチャパワーももらいました。スタンドを見て、『ああ、みんな頑張ってくれてるな。自分たちも頑張らないとな』って思いましたね。それにOBの方からも『見に行くよ』とか連絡をいただいていたので、そういう方々の想いは感じていました」。

 もちろん試合には勝ちたかったけれど、自分たちを応援してくれる人たちの存在を肌で感じ、その中で懸命にボールを追いかけた経験は、これから歩んでいく人生の中でも間違いなく大きな核として、西山の心の内側に残っていくはずだ。

 今までのサッカーキャリアを通じて、初の全国大会を戦い終えた西山に、改めてこの日の80分間に対する、率直な想いを尋ねてみる。「まず全国大会出場というのはずっと目指してきたことで、それを達成できたことは本当に嬉しいですし、自分たちの努力が結果として現れて良かったなと思います。個人としては今回が人生初の全国大会で、未知の領域だったんですけど、本当にたくさんの方が関わってくださる機会だなと感じましたし、その中でプレーすることは貴重な経験だったと思います」。

 誰もが憧れる日本サッカー界の聖地に立った、早稲田実が誇る不動のキャプテン。西山が地道に積み重ねてきた3年間の努力と、その先で手繰り寄せた素晴らしい成果に、大きな拍手を送りたい。

(取材・文 土屋雅史)

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土屋雅史
Text by 土屋雅史

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