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「おらんかったら負けていた神様」の後押しも受けた初芝橋本が帝京三との激闘を制して13大会ぶりの初戦突破!

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初芝橋本高は13大会ぶりの選手権勝利!(写真協力『高校サッカー年鑑』)

[12.29 選手権1回戦 帝京三高 2-3 初芝橋本高 駒沢]

「もう『全国大会って難しいな』って。歓声もあって試合中も何も聞こえなかったですし、2失点してからは相手のムードになってしまったんですけど、でも、やることは変えずに、しっかり自分たちのプレーができたから勝利に繋がったのかなと思います」(初芝橋本高・石丸晴大)。

 初戦から繰り広げられたスペクタクルな激闘は、和歌山の雄に軍配。第102回全国高校サッカー選手権は29日、各地で1回戦を行い、駒沢陸上競技場の第1試合は前半で初芝橋本高(和歌山)が3点を先行したものの、後半に入ると帝京三高(山梨)が2点を返す白熱の展開に。最後は初芝橋本が何とか逃げ切り、31日の2回戦では堀越高(東京A)と対戦する。


 試合は開始5分で動く。初芝橋本がペナルティエリアの少し外で獲得したFK。スポットに立ったキャプテンのMF池田真優(3年)が小さく出したパスを、レフティのDF三浦晴太(3年)は左足一閃。強烈な軌道はクロスバーに弾かれたものの、「監督からも前日のミーティングでゴール前の反応というところを言われていた」というMF大丸龍之介(3年)が頭で押し込んだボールは、ゴールネットへ到達する。電光石火のセットプレーで、初芝橋本が1点のリードを奪う。

 次に歓喜が訪れたのは14分。今度は右サイドで獲得した初芝橋本のFK。短い助走から池田が蹴り込んだボールは、ファーへうまく潜った大丸へドンピシャで届き、頭で合わせたボールはゴールへと弾み込む。「狙いとしてリスタートは絶対に行けると。ウチはキッカーも悪くないし、中で合わせるヤツもデカいし、狙い通りと言えば狙い通りですよ」とはチームを率いる阪中義博監督。早くも両者の点差は2点に開く。

 一度乗ってしまった勢いは止まらない。33分。三浦の鋭いパスカットを起点にして、FW竹内崇真(3年)が裏へ送ったパスに、左サイドを走った大丸は完璧なクロスを中央へ。待っていたFW朝野夏輝(3年)のヘディングも、鮮やかにゴールネットを揺らす。「あそこで朝野が決め切ってくれたというのは、エースとしての仕事を果たしてくれたかなと感じます」と石丸も絶賛する10番の一撃。3-0という意外なスコアで、前半の40分間は終了する。

「冷静さを欠いていましたし、自分たちのやりたいことを統一できていなかったので、1つ間を置いて、もう1回サイドにどうポイントを持っていくかを修正しました」とハーフタイムの時間について明かすのは、帝京三の相良和弘監督。前半は相手にチャンスをことごとく得点へ結び付けられたものの、キャプテンのMF辻友翔(3年)がプリンスリーグ関東参入戦の退場によって出場停止を強いられる中で、中盤に入ったMF櫻井元舟(3年)とMF西澤篤成(3年)を軸にボールが動き出す芽は既に十分。改めてやるべきことを整理して、残された40分間へ向かう。


 攻撃に思い切りの出てきた帝京三が繰り出した、反撃の一手は後半22分。途中出場のMF嶋野創太(3年)が右サイドを運び、MF小澤波季(3年)が時間を作ると、上がってきた右サイドバックのDF福司楓馬(3年)は華麗なテクニックで2人をかわしながら、左足を強振。ボールは左スミのゴールネットを的確に捉える。3-1。スコアは2点差に。

 帝京三は守備陣も粘る。25分は初芝橋本。左サイドを単騎で抜け出した朝野のシュートは、帝京三のGK近松煌(3年)がファインセーブで応酬し、詰めたFW神戸賢(3年)のヘディングは枠の上へ。28分も初芝橋本。セットプレーがエリア内でこぼれ、いち早く反応したDF西風勇吾(3年)が無人のゴールへ放ったシュートは、全速力で戻った帝京第三のDF原田飛鳥(3年)がバイシクルでスーパークリア。4失点目は許さない。

 35分。追い込まれた帝京三に美しいゴールが生まれる。キャプテンのDF大野羽琉(3年)が当てたくさびを、しなやかに捌いた小澤はラインの裏へスルーパス。全速力で走り出していた嶋野が丁寧に中央へ折り返すと、エースのFW遊佐凜太朗(3年)が慎重にボールをゴールへ流し込む。3-2。いよいよスコアは1点差に。

 最終盤の痺れる攻防。37分は初芝橋本。左サイドで粘ってキープしたMF増田晋也(3年)が中央へ送り、朝野が打った決定的なシュートは、近松が超ビッグセーブで気合のガッツポーズ。39分は帝京三。高い位置でルーズボールを拾ったMF山岡陸翔(2年)が柔らかく送った浮き球を、走った嶋野は渾身のダイレクトボレーで叩くも、軌道は枠を捉え切れない。

 ファイナルスコアは3-2。「雰囲気に飲まれてポンポンと失点したのは、監督にも『これが全国大会の難しさだ』と言われたので、改めて難しいなということと同時に、最後まで守り切れたのはこのチームで積み重ねてきたものの成果かなと感じるので、全員で勝ち獲った勝利かなと思います」と石丸も安堵の表情を浮かべた初芝橋本が、シビアな展開の中で逃げ切りに成功。2010年度の89回大会以来、13大会ぶりとなる冬の全国勝利をスタンドに詰めかけた応援団と喜び合う結果となった。


 この日の初芝橋本のベンチには、「おらんかったら負けていた神様」(阪中監督)が座っていた。56回大会の選手権では帝京高の主力として全国制覇を達成。卒業後は古河電工でプレーしたのち、故郷・宮崎の日章学園高で長年にわたって指揮を執った早稲田一男氏が、“臨時コーチ”という肩書でスタッフに加わっていたのだ。

 もともと深い親交のあった2人だが、早稲田氏から試合を応援に行くという連絡を受けた阪中監督が、思い切ってベンチ入りを打診したところ、了承を得たことで、この『早稲田-阪中』タッグが結成されたという。

 キャプテンの石丸も、“臨時コーチ”の凄味を実感したようだ。「早稲田監督がベンチに入ってくれることになったんですけど、前半が終わった時に『セーフティリードやけど、ここからが難しいから』ということはずっと言われていて、やっぱり結局難しい試合になったので、『やっぱり全国大会を知っている人なんだな』と思いました」。

 阪中監督も感謝を隠さない。「やっぱり心のある人やから、選手への声の掛け方もうまいですよね。うまくリードするというか、奮い立たせる言葉がけが上手。ベンチにおったらベンチにおったで、『あそこはもうちょっとラインアップした方がいいんじゃないの?』とも言ってくれるので、ありがたいですね。おらんかったら負けていました。もう神様ですね(笑)」。日頃から着実に積み重ねてきたものへ、最後に強力なスパイスを加えたことで、初芝橋本は久々の全国勝利を力強く手繰り寄せたのだ。

 もちろん選手たちに“臨時コーチ”のアドバイスを素直に受け入れる素地があったことも見逃せないが、このキャプテンの言葉を聞けば、なんとなく彼らが築き上げてきたグループの空気感を理解できる気がする。

「これだけ自分たちが成長できるゲームをしてくれたのは、ホンマに相手にも感謝しないといけないなということは感じたので、真っ先に相手のキャプテンのところに行って、『ありがとう』と言いました。全国大会が始まった時に、『勝っても負けても相手のキャプテンに「お疲れ様」は言いたいな』と思っていて、相手のキャプテンの子が『次も頑張ってくれ』と言ってくれたことで、『また応援される人が増えたな』と感じたので、ここから1つ1つ勝ち上がっていかないといけないなとは改めて思いました」(石丸)。

 指揮官はチームの目標を、笑顔で高らかに宣言する。「もう上しか目指していないです。4つまで行きたいなと思います」。全国4強のその先へ。苦しい初戦をみんなで勝ち切った初芝橋本の躍進は、果たしてどこまで。

(取材・文 土屋雅史)

●第102回全国高校サッカー選手権特集

土屋雅史
Text by 土屋雅史

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