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失意のW杯を経てドイツ戦に臨んだDF冨安健洋の覚悟「欠かせない選手だと示す必要があった」

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日本代表DF冨安健洋(アーセナル)

[9.9 国際親善試合 日本 4-1 ドイツ ボルフスブルク]

 頼れる男が帰ってきた。第2次森保ジャパン初合流を果たした日本代表DF冨安健洋(アーセナル)はこの日、敵地でのドイツ戦にカタールW杯後初めて出場。守備で相手の強力アタッカー陣に立ちはだかった上、攻撃でも的確な判断と正確なキックで前半の2ゴールをお膳立てし、別次元のパフォーマンスを表現してみせた。

 まずは前半11分、鮮やかな右サイド攻撃で奪った先制点は冨安が起点だった。MF三笘薫のドリブル突破が相手に阻まれ、こぼれ球が冨安の足下に向かってくると、ダイレクトのインサイドキックで右に展開。これがMF鎌田大地にピンポイントで届き、DF菅原由勢のオーバーラップからMF伊東純也がクロスを叩き込んだ。

「たぶん奪ったボールをワンタッチで逆サイドに展開してっていうプレーだったけど、奪ったボールを前につけて攻撃に行くというのは僕達の狙いの一つ。スタッフ陣から言われているプレーでもあったし、それをうまく表現できたと思う」(冨安)。あたかも指示どおりと言わんばかりの口調で振り返ったが、的確な判断力と技術に裏打ちされたビッグプレーだった。

 さらに1-1と追いつかれた直後の前半21分には左足のロングフィードで右の伊東にピタリと通し、厚みのあるサイド攻撃をお膳立て。最後はFW上田綺世のゴールにつながった。伊東によると「試合前から蹴れそうなら蹴ってシンプルにサイドを変えるのが相手は嫌だと思うと話していた」という狙いどおりの流れ。対戦相手のドイツの特徴を踏まえ、試合前のコミュニケーションでも違いを生んでいた。

 守備ではDF板倉滉とのCBコンビで高い最終ラインをコントロールし、ドイツの強力な攻撃陣を封鎖。前半終了間際にはFWレロイ・サネに独走されそうな場面もあったが、出足の速さと正確なコース取りで先回りし、シュートに対してスライディングでブロックするという驚異的なスーパープレーも飛び出した。

 冨安自身はこの日のプレーについて「ラインを高く保ち、全体をコンパクトにするっていうところは僕たちディフェンス陣のタスクだったし、そこをしっかり達成できた」と冷静に総括したが、DF谷口彰悟を交えた3バックへの変更やビルドアップでの貢献も含め、試合を通じて盤石の安定感を誇っていた。

 昨年末のカタールW杯では度重なる負傷の影響もあって不完全燃焼に終わり、クロアチア戦での敗退後には「何をやってるんだろうという気持ちが強いぶん先を見られない。どうしたらいいんだろう」と失意に沈んでいた。それでも負傷を乗り越えて臨んだ今回の合宿では「自分に何ができるのかというところの整理も含めて練習からトライしていきたい」と前向きに挑み、初陣で攻守に影響力をもたらすまでに至った。

 そうした再出発の裏には並ならぬ覚悟もあった。

「自分の価値を証明することでしかない。それは僕だけじゃなく他の選手も含めてだけど、代表から離れていたぶん、存在感が薄れていたというか、忘れられていた存在でもあったと思うので、欠かせない選手だということを示す必要があった。それは周りに対してもそうだし、自分に対してもそう。それでしっかりと集中してやることができたと思う」

 取材対応の最後には「まだ100点じゃないし、サッカーをやっている以上は100点もない。まだまだやれることがある」と自分自身への厳しい要求を口にした冨安。それでも紛れもなくこのドイツ戦は、この男が日本代表に欠かせない存在であることを明確に示す一戦となった。

(取材・文 竹内達也)
●北中米W杯アジア2次予選特集ページ
竹内達也
Text by 竹内達也

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