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一時は失いかけた自信、ドイツ戦で掴んだきっかけ…冨安健洋が挑むもう一つの戦い「アーセナルのほうでもやれるのか」

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日本代表DF冨安健洋(アーセナル)

 日本代表DF冨安健洋(アーセナル)がキリンチャレンジカップ・トルコ戦を翌日に控えた11日、報道陣の取材に応じ、ドイツ戦のパフォーマンスが「自信を取り戻すきっかけになった」と明かした。負傷明けの強行出場で失意に終わったカタールW杯、世界トップクラスの厳しい基準と向き合うアーセナルの日々を経て、24歳のディフェンダーは見る者の想像以上に大きな重圧を背負っていた。

 カタールW杯のクロアチア戦でPK戦に敗れた後、冨安は「当たり前のレベルが上がれば勝てる集団になると思う」と前を向こうとしながらも、「そういう集団になっていくためには時間が必要だし、(日本代表で)それが可能なのかもいまは分からない」とうつむいていた。

 第2次森保ジャパンでは、そのための取り組みが進められるものと期待されたが、膝の負傷によって2度の代表活動を見送り。今回の欧州遠征がようやくカタールW杯後初の代表復帰となった。

 欧州遠征での最初の取材対応では、昨季を「今までのサッカー人生で一番タフな1年であったのは間違いない」と総括。そこには負傷の影響だけでなく、「(アーセナルでの日々は)かなり要求が高いので自信を失う時期もあったし、正直いろんなことも考えた」とハイレベルな競争の中での葛藤があったことを明かした。

 それでも日本代表に合流するにあたっては「サッカーが自分のチームでやっているものと変わるのでそこの整理もしつつ、あとは個人的に僕の中での整理。自分に何ができるのかというところの整理も含め、練習からトライしていきたい」と決意を表明。所属クラブで自信を失いつつあった中でも、W杯期間中から何度も必要性を口にしていた「主導権を握って戦う」ことへの挑戦を宣言した。

 9日のドイツ戦は、まさに冨安が「自分に何ができるのか」をこれ以上なく証明する試合となった。

 試合序盤から挑んだハイライン戦術は「ずっと前々から『ゆくゆくは僕と滉くんで組んでやんないといけない』という話をお互いしていた」(冨安)というDF板倉滉(ボルシアMG)とのCBコンビでなくては実現しないもの。高いリスクゆえに背後を突かれる場面もあったが、そこは冨安自身がFWレロイ・サネとの走り合いを制し、何度もピンチから救ってみせた。

 攻撃面でも「アーセナルとは違ったものをやっているけど、局面のところでアーセナルでやっていることを使って打開することはできるのでミックスしながら。『この時はあれだな』という引き出しを選びながらやっている」という世界基準のビルドアップでドイツのハイプレスを無力化。さらに得意のキックでは2ゴールの起点にもなり、攻守両面で絶対的な存在であることをはっきりと印象付けていた。

 9日のドイツ戦後、冨安は「代表から離れていたぶん、存在感が薄れていたというか、忘れられていた存在でもあったと思う。欠かせない選手だということを示す必要があったし、それは周りの人に対してもそうだし、自分に対してもそうだった」とこれまでの日本代表での貢献を考えるとオーバーすぎるようにも思える表現で、この一戦に向けて秘めていた覚悟を明かした。

 だが、その言葉は決して日本代表だけを考えたものではなく、アーセナルで過ごす日々も含め、自らへの極めて高い要求を持っているからこそ出てきた言葉だったようだ。

 冨安はドイツ戦から2日が過ぎたこの日、ドイツ戦でのパフォーマンスについて「自分自身を納得させる必要があったし、自分に自信を持たせてあげることが必要だったので、そういう意味では自信を取り戻すというきっかけになったかなというふうに思います」と手応えを口にした。

 それでも冨安は、さらに言葉を続けた。

「ただ、アーセナルとやっているサッカーも違うので、これがそのままアーセナルのほうでやれるのかと言われたらまた話が違う。アーセナルのほうでもしっかりとメンバーを取れるようにやっていく必要があるなというふうに思っています」

 ドイツ戦でのパフォーマンスは、失意からを払拭できるようなものだったように思われた。しかし、完全に自信を取り戻すためには、自らが日々戦うべき場所であるプレミアリーグでの活躍が欠かせないようだ。

「本当にアーセナルで要求の高い日々を送っているので、まだ完全に自信を取り戻せているかと言われたら、100%『はい』とは言えるわけでもない。そういう意味ではアーセナルのほうでも自分はしっかりとやれているという自信を持つことができればいいのかなと思います」

 そうして迎えるトルコ戦。中2日での一戦となるため欠場が濃厚とも思われたが、冨安はあえて出場に前向きな言葉を発した。その理由はやはり、アーセナルでの戦いを念頭に置いてのものだった。

「アーセナルでもチャンピオンズリーグがこれから入ってきて、中3日、中2日で試合をしていくことに慣れていかないといけない。まだトルコ戦に出るかどうかは分からないけど、出たらしっかり良いパフォーマンスをする準備はできている。ドイツ戦の試合後は『結構疲れたな』と思っていたけど、思ったよりも回復できているし、今日の練習をやってみて『疲れてるな』って感覚はなかったので、また良い準備ができればいいなと思います」

 森保一監督はトルコ戦に向けて先発の大幅な入れ替えを予告し、「選手層の幅を広げ、厚くする」ための一戦だと位置付けているため、冨安の起用に踏み切るかは分からない。それでも冨安はアーセナルでの厳しいシーズンを戦い抜く決意、そして自信を取り戻すための覚悟を胸に、目の前の一戦に向けて準備を進めている。

(取材・文 竹内達也)
●北中米W杯アジア2次予選特集ページ
竹内達也
Text by 竹内達也

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