beacon

宮市亮の感涙メッセージに心打たれた横浜FM喜田拓也「必ず最後にシャーレを渡すと彼に誓いたい」

このエントリーをはてなブックマークに追加

FW宮市亮と勝利を喜ぶMF喜田拓也(写真左)

[7.30 J1第23節 横浜FM 2-0 鹿島 日産ス]

 J1リーグ優勝への天王山となった横浜F・マリノス鹿島アントラーズ戦。結果は2-0で完勝した横浜FMが大きくリードを広げる形となったが、この日の日産スタジアムでは結果以上にFW宮市亮(横浜FM)の存在が注目を集めていた。約10年ぶりの日本代表復帰戦で右膝前十字靱帯の再断裂——。そんな悲劇に見舞われた29歳がスタジアムに姿を現すと、サポーターも含めたクラブ総出で盛大な励ましのエールが送られていた。

 大一番のキックオフ数十分前、横浜FMのサポーターが陣取るホームゴール裏には2枚の横断幕が掲出されていた。

 一つは2011年8月4日に34歳の若さで亡くなった松田直樹さんに弔意を表するとともに、AED(自動体外式除細動器)の普及・活用を啓発する『命つなぐアクション』にちなんだ「誇り 魂 想いを紡ぎ 松田直樹 これからも共に」という文面。そしてもう一つは、長期離脱が発表されたばかりの宮市へのメッセージだった。

「トリコロールの宮市亮 再びピッチで輝け 待ってるぞ」

 宮市は今月27日、地元愛知の豊田スタジアムで行われたEAFF E-1選手権・韓国戦で、相手選手とボールを競り合って右足を着地した際、右膝の関節辺りを押さえて転倒。スポンサー看板前で倒れ込み、プレーを続けることができないまま足を引きずってピッチを退いた。続く29日、クラブは右膝前十字靭帯断裂という診断結果を発表。これまで負傷に泣かされ続けてきた宮市にとっては、左右合計で4度目となる同箇所の大怪我だった。

 宮市はクラブ公式発表の直後、自身のSNSを通じて声明を発表。受傷直後は現役引退の決断に気持ちが傾きながらも、さまざまな人々からの励ましのメッセージを受け、復帰に向けた手術・リハビリに取り組む意向が明かされた。この赤裸々な文面は多くの人々の心を打ち、クラブ内では次々に動きが出てきた。サポーターは宮市の復帰を待ち望む横断幕を作成。また選手たちは現場スタッフと協力し、「亮、どんな時も君は一人じゃない」と記した背番号17のユニフォームをウォーミングアップ時に着用するという粋な演出を発案した。

 そして試合当日、スタジアムの光景は宮市の心を打った。キックオフ前、ゴール裏サポーターの前に姿を現した宮市は励ましのメッセージに拍手で応えたが、その目は潤んでいるように見えた。また試合後にはチームのジャージ姿で勝利後恒例の円陣に加わり、チームメートに促される形でサポーターに向けて涙ならがらのメッセージを送った。

「正直、こんなサプライズをしてくれるとは思っていなかったので本当に嬉しいです。何よりみんなが素晴らしいプレーをしていたのでそれに尽きると思います」。マイクを通じて口にしたのは、サプライズ演出への感謝とチームのパフォーマンスに向けたねぎらいのメッセージ。そしてさらに、負傷後の選手としては少々意外な言葉を続けた。

「サポーターの方も素晴らしい声援ありがとうございます。まだまだ長い道のりがありますけど、またみんなで頑張っていきましょう」。メッセージの中で宮市が“長い道のり”と述べたのは、目の前のチームが戦っているシーズンの行方。おそらくさらに長い戦いになるであろう自身のリハビリ生活ではなく、優勝争いを演じるチームのことを案じていたのだ。

 横浜FMのチームキャプテンであるMF喜田拓也に宮市のメッセージについて問うと、感激した様子で次のような言葉が返ってきた。

「ああいう選手とやれることが喜びでしかなくて、自分がああいう状況になってああいうことを言えるというのは普通ではないと思う。そういう仲間がいることをみんな幸せに思わないといけないし、勝っていくチーム、本当の意味で強いチームというのはああいう人がいるチームだと思う。彼の思いは絶対に無駄にしないし、今日だけの感情にするんじゃなくて、これからも彼の思いを持って進んでいきたい」

 喜田自身もこの日までの間、右股関節内転筋肉離れによって約2か月間にもわたる戦線離脱を経験していた。キャプテンとして自らがピッチに立てないことには、おそらくもどかしい思いもあったであろう。しかし、そんな喜田にとってさえも、これまで負傷に苦しんできた宮市の再離脱には悲嘆を隠せなかった。

「僕らも泣きたくなるくらい、本当に悔しくて、悲しくて。ここ数日は感情を揺さぶられる時間を過ごしてきて……」。そこで提案したのがウォーミングアップで17番のユニフォームを着用するサプライズ演出だった。喜田自身は「僕の手柄にするつもりは一切ない」「僕とは言いたくないし、非常に難しいところ」と発案者であることを頑なに否定したが、宮市への思いに話が及ぶと、陣頭指揮を取っていたことが容易に想像できるほど感情のこもった言葉が次々に溢れ出した。

「亮くんにしかわからない気持ちがあるのも容易に想像できたし、僕らが軽々しく何か言葉をかけるのも……。大切に思うが故にそういうことを思ってしまう状況ではあったけど、それでもやっぱり声をかけたくなった。大事な仲間だから何かをしたくて、動きたくて、ああいうユニフォームもそうだし、少しでも彼のこれからの活力になるような言動、行動ができればなと思う」

「彼自身もチームが必ずタイトルを取るために表であろうが裏だろうが全力を尽くすと言ってくれた。それこそが彼がこれまで示してきたもの。これだけたくさんの人たちが激励してくれて、愛されているのは普通のことじゃない。もしかしたら彼自身も感じていることかもしれないし、僕が偉そうに言えるわけじゃないけど、これだけたくさんの人に響く人間性、彼自身が持つ魅力がそうさせているんだと思う。だからみんながついているのは忘れないでほしいと何度も伝えさせてもらった」

 さらに喜田は「最後、一番上に自分たちが連れて行って、必ず彼にシャーレを渡すという僕らの使命ができた」というタイトル奪還に向けた並ならぬ決意も口にしていた。

 2019年に15年ぶりのリーグ優勝を果たした当時もそうだったが、喜田はタイトルに話が及ぶたび、基本的に「目の前の試合」にフォーカスする姿勢を強調し続けてきた。この日も「自分たちには勝たなきゃいけない理由がある」としながらも「それがなくても勝ち続けなきゃいけないんだけど……」とプロフェッショナルとしての矜持をのぞかせつつ、言葉を選びながら発していた。

 しかし、それでもなお「優勝」「シャーレ」という言葉を次々口にしたのは、それほどに宮市への思いを強く持っているという証であろう。

「最後、一番上に連れて行って、マリノスが優勝した時に彼自身の名前が残るということが彼が一番報われることだと思う。そこへの貢献は今日の試合だけじゃなく、絶対に忘れないし、彼の思いを持って戦い続ける。今日だけで忘れることは絶対にない」

「彼にとって何が一番報われるかというと、やっぱりたどり着くところはシャーレを渡すこと。先を見すぎているわけではないけど、目の前の試合を今まで通り全員で、全てをかけて準備して、戦って、行き着いた先がみんなの目指すところであれば、彼も必ず報われる気持ちになると思う」

 試合後のサポーターへのメッセージに表れていたように、宮市自身もチームに対して「必ずタイトルを取るために表であろうが裏だろうが全力を尽くすと言ってくれた」(喜田)という。だからこそ、そういった宮市の思いに報いるため、選手たちは宮市の復帰への道のりに寄り添いつつ、まずはピッチ上でのパフォーマンスに磨きをかけていく構えだ。

「彼自身には僕らが想像もつかないような日々が待っていると思うけど、辛くなった時は僕らがついているということを思い出して頼ってほしいし、彼のモチベーションだとか希望になるような姿を見せ続けることがチームメートとして、仲間としてできることだと思う。絶対に一人にはしないと約束したいし、必ず最後にシャーレを渡すと彼に誓いたい」(喜田)

 天王山となった鹿島戦の白星により、2位と勝ち点8差の独走態勢に入った横浜FM。残り11試合、試練と向き合う仲間の思いを背負い、勝たなければならない理由を胸に、覚悟を深めたトリコロールが3年ぶりの王座奪還に向けてラストスパートを仕掛けていく。

(取材・文 竹内達也)
★日程や順位表、得点ランキングをチェック!!
●2022シーズンJリーグ特集ページ
●DAZNならJ1、J2、J3全試合をライブ配信!!
●[J1]第23節 スコア速報

TOP