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日大藤沢で育った“規格外の素材”198cm森重陽介。育成のバトン受け継いだ清水・内藤スカウト部長「新たなミッションを課せられた」

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日大藤沢の佐藤輝勝監督、FW森重陽介、清水の内藤直樹スカウト部長(左から)

 来季から清水エスパルスに加入する日大藤沢高FW森重陽介(3年)が16日、同校で入団会見を行った。高校年代ではセンターバックとセンターフォワードの“二刀流”を続けており、プロの舞台でも「二刀流で圧倒できるような選手になりたい」と宣言。「まずは早くJリーグデビューして、みんなに森重陽介という選手を認知してもらうのが目標。誰もが知っているサッカー選手になりたい」と大きな夢を語った。

 入団会見には清水の内藤直樹スカウト部長も出席。198cmという規格外の体躯を持つ森重の素質について熱く語った。「パスもできるし、シュートもできるし、後ろも前もできる。スカウトを10何年間やってきて、これだけ高身長でモビリティのある選手は見たことがない。この選手をどうにか育てたいし、エスパルスのユニフォームを着てもらいたいと、獲得の第一候補で挙げていた」。“二刀流”が目を引く森重だが、直接FKのキッカーを任されるほどのキック技術や、大きな体を俊敏に扱えるコーディネーション能力も兼備。単なる“長身プレーヤー”という枠にとどまらない活躍が期待されている。

 そんな森重のプレースタイルは、幼少期から積み上げてきたものだ。「小学校の頃から練習後のバー当てであったり、ゲーム感覚でキックを練習してきた。身長が伸びてくるにつれて、身体がなかなか動かない時期もあったけど、自分に合った蹴り方を工夫しながら、徐々に成長することができたと思う」(森重)。成長期には長身特有の壁にもぶつかったが、サッカーへのひたむきな姿勢で前向きに乗り越えてきた。

 東京Vジュニアユースに所属していた中学時代には、入学時180cm弱だった身長が急成長し、身体操作に苦しむ日々が続いたという。

「アジリティで困ったりしていて、ボール回しや足元の練習が多かったので、中学1〜2年の時は試合もあまり出られず、みんなについていくのが必死だった」。もっともそうした中でも、クラブのトレーナーの協力を得ながら、ポスト成長期を見据えた身体作りに着手。年代間の垣根がない東京Vのカルチャーにも後押しされ、FW藤本寛也やMF藤田譲瑠チマらユース所属の先輩とも交流しつつ、ポジティブにサッカーと向き合い続けていたようだ。

 そうした取り組みが「ヴェルディのパスサッカーは好きだったし、高校でもパスサッカーがしたいと思った」と進学した地元藤沢市の強豪校でさらに花開いた。

「入学した時から190cmを超える身長があって、ポテンシャルが高い選手という印象で、これはなんとかしないといかんと……」。そう当時を振り返る佐藤輝勝監督は入学後の森重に対し、コーディネーショントレーニングに取り組むよう助言。「身体をパワーで動かすのではなく、シャープに動かせるように」という指針を与えたという。

「身体の大きな選手がどうやったらバランスの良い身体をつけられるかは試行錯誤してきたが、一番は本人の特長に合わせてどうアプローチするか。人がすることなので答えはないが、できる限り彼がやりたいプレーに合わせられるようにと考えていた。これまで14人がJリーガーになっているが、みんなスッと背筋が伸びているイメージがあった中、姿勢については言うことはなかった。ただ無理やり身体を動かしている印象があった。とにかく上肢と下肢をバランスよく動くかを考えつつ、全部を教えるのではなく感じ取らせながら取り組んだ」(佐藤監督)

 そうした指揮官の働きかけのもと、森重は日々の練習後の取り組みを継続。「中学の時には身体が動かなくて悔しい思いをしていたので、そうはなりたくないと日々思いながらやっていた」。そんな中学時代の挫折もモチベーションにしつつ、いまでは「ワディくん(2学年上のFW鈴木輪太朗イブラヒーム/徳島→バダロナ)たち先輩方にも学びながら、身体をうまく動かす部分を努力してきたつもり。いまになってそういうところが活きている」と手応えを感じられるほどになった。

 また体づくりの面だけでなく、ピッチ内でも森重の素質を活かす試みは行われていた。入学当初はCBで起用され、Rookie Leagueを戦っていた森重だったが、1年秋ごろからFWとの“二刀流”にトライ。「これだけの能力があるのでシャープに動かせるようにという目標でセンターフォワードとCBを両方やってみないかと過ごしてきたが、彼の努力や才能を見て、どっちも面白いんじゃないかと監督として感じ、本気でチャレンジしようと思った」(佐藤監督)。いずれのポジションも結果に関わるポジションとあり、我慢の時期があったことは想像に難くないが、将来を信じての起用が続けられた。

「1年で2年でと結果を求めてしまいがちだが、足元もあって、フィードもできて、ヘディングもできて、これだけの身体で動けて……という欲張りな選手になってほしかった。毎日トライアンドエラーでやってきた」(佐藤監督)

 そうした成果が実を結び、森重はCBとFWの両方でJクラブから注目を浴びるほどの存在となった。「性格的にはFWが合っていると思うが、DFでも相手の駆け引きを覚えて、両方できるようになったのが評価につながったと思う。未完成の選手ではあるが、可能性を秘めた選手」。そう太鼓判を押す佐藤監督は、自主練習を欠かさなかった教え子の“サッカー小僧”エピソードを明かしつつ、「一番は本人の努力」とここまで辿り着いた努力を称えた。

 さまざまな人々の支えを受け、次に進むステージはプロの舞台。もちろん結果が問われる世界ではあるが、育成のバトンも受け継がれることになる。森重が担うFW、CBのポジションで高卒プレーヤーがすぐに結果を出せるケースはごくまれ。結果が求められる中でも、我慢強く、将来を見据えて育てていくミッションがクラブには求められる。

 それについては清水の内藤スカウト部長も「森重くんを獲得するにあたっては、今後のところが一番の焦点になる」と織り込み済みだ。

「来年の2月からキャンプが始まるが、そこにはスタメンを狙ってプロの選手が集まってくるわけで、当然そこから競争が始まる。身体もようやく落ち着いてくるところで、筋力的なところも含め、そのつど私たちが現場の中で彼のパフォーマンスを見ながら、何が彼に必要なのかを考えていかないといけない。ここから先は実戦しかないということもあるが、特にプロとして身体ができつつあるところに実戦を供給していくことが大事。もしJ1ですぐに出場機会がなければそのほかも考えるし、レンタルなのか、海外で経験を積むのか、いろんな選択肢がある。そこはプレーの確保をしながらクラブが方向性を出していくことが必要だと思う。ただ海外に……と言えば見栄えはいいが、出場機会が少なければ何もならない。そこはチームがコントロールしながらやっていきたい。まずはトップチームで出てもらえれば問題ないし、一番はそれが目的だが、そこから逆算して、通過点を見極めて、一番いい刺激を与えていかなければならない」

 そんなビジョンを明かした内藤スカウト部長は「ポジションのことも含めて、新たなミッションを課せられたと捉えている。それを背負って、今までになかった規格外の選手を出していければ」と展望。「育成畑を踏んできているし、彼に対する育成の意欲がある」という今季途中に就任したゼ・リカルド監督とも協力しながら、大切に育てていく意向を示した。

(取材・文 竹内達也)
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