U20W杯イヤーに先発続く柏の19歳CBコンビ…田中隼人「勝ちがないと信頼を得られない」土屋巧「若いからと思われたくない」
[3.31 J1第6節 柏 0-3 浦和 三協F柏]
U-20ワールドカップ出場権獲得を果たしたU20アジアカップを経て、U-20日本代表のディフェンスリーダーがJ1リーグの舞台で着実に出場機会を積み重ねている。柏レイソルDF田中隼人は帰国直後の第5節広島戦(●0-1)から、公式戦3試合連続でフル出場中。昨夏から長い不調のトンネルに入っているチームを救うべく、「勝ちがないと信頼を得られない」と強い覚悟で戦っている。
柏は昨年8月中旬以降、公式戦18試合勝ちなしが継続中。今季に入っても不調を脱することはできず、ネルシーニョ監督はJ1前節・広島戦で大幅な最終ラインの入れ替えを敢行し、昨季J1リーグ戦4試合出場で弱冠19歳の田中を3バックの左に起用した。田中は188cmの長身と左足のキックを武器とするCB。3月上旬に行われたU20アジア杯ではディフェンスリーダーとして活躍しており、そこでのパフォーマンスも評価されての抜擢だった。
それでもJ1の舞台では悔しい日々が続いている。広島戦では終盤の失点で無念の敗戦を喫すると、先週末のルヴァン杯福岡戦では常に先行する展開での3失点でドロー。この日は浦和をホームに迎えた中、FW興梠慎三のキックフェイントに屈する形で先制点を与えると、そこからさらに失点を重ね、0-3の完敗に終わった。
田中によると、U-20世代のアジア大会とJ1リーグのレベル差は明らかだという。「試合経験を積めているのはポジティブだけど、AFCの大会とJリーグでは強度の差が本当に違う。J1のほうがテンポも、ランニングの質も、一人ひとりの選手の質も違う。海外の選手は一発が怖いけど、日本人の選手は技術があってアジリティがあって上手いので違う経験になっている」。自身のキャリアに目を向ければ「試合に出ることが一番なのでいいこと」と言っても、結果が出ていない中では満足のいく状況ではないようだ。
もっとも、その状況を打破するための努力は欠かさない。浦和と対戦するにあたっても「試合も見て選手の特徴やチーム性、どういう選手がいて、どういう組み立てをして、興梠選手がどういう動き出しをしてというのも分かっていた」と綿密な分析を実施。「前半はチームとしてもプレッシングやゴール前の守備、ビルドアップの仕方は悪くなかった」という言葉どおりのパフォーマンスを繰り広げていた。
試合後の取材対応では課題の整理もできていた。「監督も言っていたけどあれを90分間続けないと強度も落ちてしまうし、相手ペースになってボールを握られてしまう。もっともっと自分たちがボールを握って、後ろの僕が運んでクサビを入れるシーンが増えていれば、(相手のプレスに)ハマらなかったと思う。ビルドアップで自分が運ばないでミツくん(DF三丸拡)にパンと出してしまって、ミツくんがプレッシャーにハマる状況になっていたので、もっと自分がプレッシングを受けてフリーな選手をつける作業が必要だった」と理路整然と話した。
加えて失点シーンについても、映像を見直したという上で「ニアに興梠選手が走っていくのが見えて、後ろに酒井選手が走ってくるのが見えた。三丸選手とも喋ったけど、ミツくんはカバーが間に合っていて、酒井選手がスルーという言葉をかけていたので、自分も酒井選手のシュートコースを消そうと思ってしまった。それで右側が空いてしまった」と状況を整理。「あそこも一歩興梠選手に詰めるだとか、もう一歩足を運ぶとか、本当にその一歩、1秒、それで世界が変わってしまう。そこが自分はまだまだだなと思う。あそこを守れれば、あそこを防げれば自分も一皮剥けることができるし、成長できると思う。ゴール前の守備は人にしっかり行くくらいに詰めないといけないなと改めて思った」と改善点を挙げていた。
そうした努力はまず、チームの勝利につなげていきたい構えだ。
この日の試合はU-20日本代表の冨樫剛一監督が視察しており、「まだW杯に出られると確約されているわけではない。まずは冨樫監督に目が止まるように、J1で出場し続けて、結果を出し続けることが一番だと思う。このまま試合に出続けてW杯に向かいたい」とU-20W杯への意欲も見せた田中だったが、「先発定着もしたいし、その中で勝ちを続けないといけない。勝ちがないと信頼を得られないので勝利がほしい」ときっぱり。待ちに待った今季初勝利に向けて全力を注ぐ姿勢を強調した。
◆もう一人のU-20世代
田中が先発に定着するのと時を同じくして、もう一人の19歳も最終ラインの要を任されている。DF土屋巧。提携校にあたる日体大柏高から昨季加入したプロ2年目のCBだ。
土屋は田中と同じく広島戦から先発に抜擢され、3試合連続で先発中。昨年の天皇杯3回戦徳島戦に続き、先週末のルヴァン杯福岡戦でも得意のヘディングからゴールを決め、田中より一足早くJ初ゴールも記録した。代表歴こそ昨年のU-19日本代表候補合宿の2回(1回はクラブ事情で辞退)のみだが、おそらく冨樫監督の視察リストには入っているであろう一人だ。
そんな土屋にとっても、この日の浦和戦は悔しい一戦となった。0-1で迎えた後半30分、浦和MF大久保智明からのスルーパスに下がりながらの対応を迫られると、自らの足に当たったボールがこぼれ球となり、MFアレックス・シャルクがシュート。これが試合を決める2失点目となった。試合後には「対応はすごく難しかったけど、やれなくはないところだった。もっと落ち着いて面を作ってやっていれば弾けた」と反省の弁を述べた。
また最終ラインの中央を担う立場としては、失点後の振る舞いにも課題を痛感していた。「リバウンドメンタリティーだったりとか、そういった部分にまだまだ甘い部分がある。一番後ろの選手なので落ち着いて安定していないとチームも安定してこない。そういった面でもっと成長していけたら」。
とはいえ、179cmの上背ながら力強さが際立つ空中戦や、相手のポストプレーに身体を寄せ切る対人対応など一定の強みは発揮している。「そこは自分の武器として売っているので絶対に負けられない気持ちはある。ああいうプレーが増えればチームにも安心感を与えることができると思っているので、ああいった部分では負けられない」。J1リーグの舞台でもそうした手応えは得つつあるようだ。
そんな土屋にとって、代表歴で一歩先を行く田中は刺激になる存在だ。「隼人は代表に選ばれたり、すごく身近な存在でいい目標だと思っている。ライバル視している部分は少しはあるので、隼人に負けない気持ちを持ちつつ、チームで声を掛け合いながらやってきている」。もう一人のDF古賀太陽も含めた3バックは19歳、19歳、24歳とフレッシュだが、「若いからというふうに思われたくない。プレーで体現していければ」とプライドものぞかせる。
いまはチームの結果が出ていない以上、個人のキャリアのことよりも「勝ちたいという気持ちだけを持ってやっている」という土屋。それでも田中が中心を担っているU-20日本代表については「もちろん狙っている。行きたい気持ちはある」といい、「アピールには試合に出続けることが必要になる。試合に出た上で自分の良さをもっともっと出していければ」と意識はしているようだ。
土屋が世界舞台を意識するにあたっては、持ち味の対人戦に加え、中盤やサイドバックなどさまざまなポジションでプレーできるのも強みになりそうだ。「昨季は3バックの右だったり、インサイドハーフもやったり、いろんなポジションをさせていただいたのでどこのポジションでもこなせるような頭の整理はできている。どこでも自分はできると思っているので、まずはチームでもっとアピールして先発に定着できたら」。W杯のような短期決戦では高い強度でできるポリバレントな選手は不可欠。まずはチームのために成長を突き詰めつつも、静かにW杯メンバー入りを狙っていくつもりだ。
(取材・文 竹内達也)
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U-20ワールドカップ出場権獲得を果たしたU20アジアカップを経て、U-20日本代表のディフェンスリーダーがJ1リーグの舞台で着実に出場機会を積み重ねている。柏レイソルDF田中隼人は帰国直後の第5節広島戦(●0-1)から、公式戦3試合連続でフル出場中。昨夏から長い不調のトンネルに入っているチームを救うべく、「勝ちがないと信頼を得られない」と強い覚悟で戦っている。
柏は昨年8月中旬以降、公式戦18試合勝ちなしが継続中。今季に入っても不調を脱することはできず、ネルシーニョ監督はJ1前節・広島戦で大幅な最終ラインの入れ替えを敢行し、昨季J1リーグ戦4試合出場で弱冠19歳の田中を3バックの左に起用した。田中は188cmの長身と左足のキックを武器とするCB。3月上旬に行われたU20アジア杯ではディフェンスリーダーとして活躍しており、そこでのパフォーマンスも評価されての抜擢だった。
それでもJ1の舞台では悔しい日々が続いている。広島戦では終盤の失点で無念の敗戦を喫すると、先週末のルヴァン杯福岡戦では常に先行する展開での3失点でドロー。この日は浦和をホームに迎えた中、FW興梠慎三のキックフェイントに屈する形で先制点を与えると、そこからさらに失点を重ね、0-3の完敗に終わった。
田中によると、U-20世代のアジア大会とJ1リーグのレベル差は明らかだという。「試合経験を積めているのはポジティブだけど、AFCの大会とJリーグでは強度の差が本当に違う。J1のほうがテンポも、ランニングの質も、一人ひとりの選手の質も違う。海外の選手は一発が怖いけど、日本人の選手は技術があってアジリティがあって上手いので違う経験になっている」。自身のキャリアに目を向ければ「試合に出ることが一番なのでいいこと」と言っても、結果が出ていない中では満足のいく状況ではないようだ。
もっとも、その状況を打破するための努力は欠かさない。浦和と対戦するにあたっても「試合も見て選手の特徴やチーム性、どういう選手がいて、どういう組み立てをして、興梠選手がどういう動き出しをしてというのも分かっていた」と綿密な分析を実施。「前半はチームとしてもプレッシングやゴール前の守備、ビルドアップの仕方は悪くなかった」という言葉どおりのパフォーマンスを繰り広げていた。
試合後の取材対応では課題の整理もできていた。「監督も言っていたけどあれを90分間続けないと強度も落ちてしまうし、相手ペースになってボールを握られてしまう。もっともっと自分たちがボールを握って、後ろの僕が運んでクサビを入れるシーンが増えていれば、(相手のプレスに)ハマらなかったと思う。ビルドアップで自分が運ばないでミツくん(DF三丸拡)にパンと出してしまって、ミツくんがプレッシャーにハマる状況になっていたので、もっと自分がプレッシングを受けてフリーな選手をつける作業が必要だった」と理路整然と話した。
加えて失点シーンについても、映像を見直したという上で「ニアに興梠選手が走っていくのが見えて、後ろに酒井選手が走ってくるのが見えた。三丸選手とも喋ったけど、ミツくんはカバーが間に合っていて、酒井選手がスルーという言葉をかけていたので、自分も酒井選手のシュートコースを消そうと思ってしまった。それで右側が空いてしまった」と状況を整理。「あそこも一歩興梠選手に詰めるだとか、もう一歩足を運ぶとか、本当にその一歩、1秒、それで世界が変わってしまう。そこが自分はまだまだだなと思う。あそこを守れれば、あそこを防げれば自分も一皮剥けることができるし、成長できると思う。ゴール前の守備は人にしっかり行くくらいに詰めないといけないなと改めて思った」と改善点を挙げていた。
そうした努力はまず、チームの勝利につなげていきたい構えだ。
この日の試合はU-20日本代表の冨樫剛一監督が視察しており、「まだW杯に出られると確約されているわけではない。まずは冨樫監督に目が止まるように、J1で出場し続けて、結果を出し続けることが一番だと思う。このまま試合に出続けてW杯に向かいたい」とU-20W杯への意欲も見せた田中だったが、「先発定着もしたいし、その中で勝ちを続けないといけない。勝ちがないと信頼を得られないので勝利がほしい」ときっぱり。待ちに待った今季初勝利に向けて全力を注ぐ姿勢を強調した。
◆もう一人のU-20世代
田中が先発に定着するのと時を同じくして、もう一人の19歳も最終ラインの要を任されている。DF土屋巧。提携校にあたる日体大柏高から昨季加入したプロ2年目のCBだ。
土屋は田中と同じく広島戦から先発に抜擢され、3試合連続で先発中。昨年の天皇杯3回戦徳島戦に続き、先週末のルヴァン杯福岡戦でも得意のヘディングからゴールを決め、田中より一足早くJ初ゴールも記録した。代表歴こそ昨年のU-19日本代表候補合宿の2回(1回はクラブ事情で辞退)のみだが、おそらく冨樫監督の視察リストには入っているであろう一人だ。
そんな土屋にとっても、この日の浦和戦は悔しい一戦となった。0-1で迎えた後半30分、浦和MF大久保智明からのスルーパスに下がりながらの対応を迫られると、自らの足に当たったボールがこぼれ球となり、MFアレックス・シャルクがシュート。これが試合を決める2失点目となった。試合後には「対応はすごく難しかったけど、やれなくはないところだった。もっと落ち着いて面を作ってやっていれば弾けた」と反省の弁を述べた。
また最終ラインの中央を担う立場としては、失点後の振る舞いにも課題を痛感していた。「リバウンドメンタリティーだったりとか、そういった部分にまだまだ甘い部分がある。一番後ろの選手なので落ち着いて安定していないとチームも安定してこない。そういった面でもっと成長していけたら」。
とはいえ、179cmの上背ながら力強さが際立つ空中戦や、相手のポストプレーに身体を寄せ切る対人対応など一定の強みは発揮している。「そこは自分の武器として売っているので絶対に負けられない気持ちはある。ああいうプレーが増えればチームにも安心感を与えることができると思っているので、ああいった部分では負けられない」。J1リーグの舞台でもそうした手応えは得つつあるようだ。
そんな土屋にとって、代表歴で一歩先を行く田中は刺激になる存在だ。「隼人は代表に選ばれたり、すごく身近な存在でいい目標だと思っている。ライバル視している部分は少しはあるので、隼人に負けない気持ちを持ちつつ、チームで声を掛け合いながらやってきている」。もう一人のDF古賀太陽も含めた3バックは19歳、19歳、24歳とフレッシュだが、「若いからというふうに思われたくない。プレーで体現していければ」とプライドものぞかせる。
いまはチームの結果が出ていない以上、個人のキャリアのことよりも「勝ちたいという気持ちだけを持ってやっている」という土屋。それでも田中が中心を担っているU-20日本代表については「もちろん狙っている。行きたい気持ちはある」といい、「アピールには試合に出続けることが必要になる。試合に出た上で自分の良さをもっともっと出していければ」と意識はしているようだ。
土屋が世界舞台を意識するにあたっては、持ち味の対人戦に加え、中盤やサイドバックなどさまざまなポジションでプレーできるのも強みになりそうだ。「昨季は3バックの右だったり、インサイドハーフもやったり、いろんなポジションをさせていただいたのでどこのポジションでもこなせるような頭の整理はできている。どこでも自分はできると思っているので、まずはチームでもっとアピールして先発に定着できたら」。W杯のような短期決戦では高い強度でできるポリバレントな選手は不可欠。まずはチームのために成長を突き詰めつつも、静かにW杯メンバー入りを狙っていくつもりだ。
(取材・文 竹内達也)
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