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5年ぶり弾の横浜FM喜田拓也「ただただ自分の力が足りないと思っていた」優勝2度の中でも向き合い続けた”結果”への責任

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MF喜田拓也

[4.29 J1第10節 横浜FM 1-1 名古屋 日産ス]

 1点ビハインドを強いられた上位対決の後半、貴重な勝ち点1を手繰り寄せる横浜F・マリノスの同点ゴールは、チームを背負い続けてきた主将の一振りから生まれた。

「苦しい時にチームを救える男でありたいというのはずっと言ってきたけど、こういう示し方もしていかないといけない。チームメートがこいつがいたら助かるなとか、こいつと一緒にサッカーやりたいなと思ってもらえるような選手を目指しているので、そういったところでこうした示し方をしていかないといけないと思う」

 MF喜田拓也にとって2018年5月5日のアウェー名古屋戦以来、5年ぶりとなるJ1リーグ通算3点目。過去4年で2度もJリーグの頂点に立ってきたクラブにおいて、この男の存在の大きさは誰もが認めるところだが、自らに求め続けてきた結果への責任が込められた一発だった。

 試合が動いたのは後半27分だった。横浜FMは自陣でのビルドアップで攻撃を組み立てると、DF角田涼太朗がFWヤン・マテウスに縦パスを差し込んだのを合図に攻勢を開始。FW西村拓真も絡んだ攻撃は一度左サイドに流れたが、ゴールラインを割りそうになったボールをFWエウベルが回収し、カットインから二次攻撃を試みる。そこに反応したのが喜田だった。

「エウベル選手にボールがこぼれて、こちらを振り返った時に来るという感覚はあって、あとは入るタイミングだなと。早すぎないこと、それは入っていくスピードもそうだし、ある程度は(ボールを)コントロールできるタイミングで入っていこうと」。その目論見どおりに折り返しのパスを足元で呼び込んだ喜田は、滑り込みながら左足一閃。「けっこう人がいたので、当てないようにというところ。コースは見えていたので、インパクトのところは気をつけた」。うまく押さえたシュートをゴール左隅に流し込んだ。

 喜田は15年ぶりにJ1リーグ制覇を果たした19年以降、主力としての地位を築いてきたが、その4年間ではいずれもノーゴール。シュート数を振り返れば19年が17本、20年が11本、21年が16本、22年が15本、今季前節までに6本と決して多くはないものの、ゴールを決め切れないことへの責任は大きく感じていたという。

「明らかにゴール数が足りないし、そこに関しては何の言い訳もなく、ただただ自分の力が足りない、シンプルにそれだけだと思っていた。それを真摯に受け止めて、逃げるんじゃなく、チャレンジし続けることをめげずにやっていきたいと思っていた」

「自分がやってきた仕事に後悔はなく、ゴールは取れなかったけど、アタッキングフットボールを作ってきた中で、覚悟を持って仕事をやってきた中での結果だった。その中で得点を奪う力が自分になかっただけ。それが自分の力だと思っていた。しっかりとそこでも貢献したいとずっと思い続けてきた」

 そうは言っても、横浜FMにおいて喜田が担うタスクは得点の他に山ほどある。中盤の底でリスクマネジメントをする役割、あえて低い位置にポジションを取ることで相手のマークを分散させる役割、強力な前線を活かすために攻撃の方向を舵取る役割などいずれもプレーポジションが限られるものばかり。またシュートを外した場面であっても、あえて果敢なフィニッシュを試みることで守備のリスクを減らす狙いが見えるシーンが多かった。したがってゴール数が重ならなかったとしても、チーム内での役割は十分に果たしているように思われた。

 ところがそれでもなお、喜田はゴールへの責任と向き合い続けていた。

「アタッキングフットボールを作ってきて、華がある攻撃陣もいるし、力のある攻撃陣をどう操るかも非常に重要だし、本当にいろんな要素やタスクがある。でもその上で得点を取るというところは、僕だけでなく他のボランチの選手とも高め合ってきた。貢献の仕方はいろいろあるけど、ゴールもその一つだと思う。全ての勝敗の責任を背負うつもりで、僕はピッチに立っている。全ての要素で担わないといけないと思っていたし、それはゴールも然り、守備も然りだと思う」

 そんな喜田は、自らのゴールで身をもって証明したいことがあったという。

「よくみんなのゴールだというけど、底で後ろに残っている選手もいれば、リスクマネジメントしてくれる人、走って(スペースを)空けてくれる人、そういった意味でのみんなのゴールだと思う。それは常套句ではなく、そうやって僕らのサッカーが作られているというのを知ってほしい。あくまで最後に僕がいたというだけで、それまでの過程だとか、そのほかにちゃんと仕事をしている人がいるんだよというのは、決めた自分が言うことで意味があるのかなと思う。それを分かってほしいなと思う」

 ゴールから遠ざかっていた過去4年間のJ1リーグ戦だけでも、「264」ものチーム得点を見守ってきた喜田。ゴールのたびに感じていた感謝やチームとしての喜びは、自らがゴールを決めることにより、なお深まっていったのかもしれない。

「今日の試合が終わってみんなにありがとう、おめでとうと口々に言ってもらったけど、そういう思いは誰よりも自分が持ってきた。そういうマリノスのチームメート、スタッフ、ファン・サポーターと戦えるのが僕は本当に嬉しい。みんなが大好きなので。あれだけ自分のゴールを喜んでくれるのが心にくるものがあった」

 そう感慨に浸った喜田だったが、言葉の締めくくりには「いつも思っていることだけど、改めて彼らのために全てをかけたいと思った」という決意も口にした。

 そうしたさまざまな意味のこもったゴールだったが、何よりチームのことを考えると、勝ち取った勝ち点1の価値も大きかった。「一つ日産スタジアムで、自分の思い入れのある少年時代に通ってきたスタジアムで取れた。それが僕自身というよりチームに何か良いきっかけになればと思うし、この1ポイントがのちのち意味のあるものだったというふうになればチームもまた成長していくと思う。1ポイントの重要性は自分たちが身をもって体感してきたので、次に繋げたいとみんなで話した」。連覇に向けた勝負のシーズン。5年ぶりのゴールの価値は、これからさらに大きなものになっていきそうだ。

(取材・文 竹内達也)
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