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イニエスタが愛した日本、神戸…実り多き5年間「誇りや達成感がある」

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[7.1 J1第19節 神戸1-1札幌 ノエスタ]

「この旅がこれだけ美しく、感動的なものになるとは想像できませんでした。古里から遠く離れた場所で、わが家にいるような感覚を感じられました。それも皆さんのおかげです。本当に皆さんは私たちの人生の一部分です」(退団セレモニーにて)

 MFアンドレス・イニエスタが日本での“ラストダンス”を踊り終えた。昨年8月6日のC大阪戦以来、約1年ぶりの先発出場。「パフォーマンスとしてはもっと出来たと思う」と振り返ったイニエスタだったが、「今日の結果よりも、これまでやってきた誇りや達成感がある」と充実の表情もみせた。

 集まった観衆は2万7630人。これは神戸が主催するノエビアスタジアム神戸でのゲームでは、史上最多となる人数だった。バックスタンドに自身をデザインして作られた大迫力のコレオグラフィーを見るようにして、キャプテンマークを巻いたイニエスタが列の先頭で入場。試合前から「特別な一戦」であることを感じさせた。

 イニエスタがやってくる。2018年の夏、世界的トッププレーヤーの来日に日本中のサッカーファンが歓喜した。名門バルセロナを退団する当時34歳の名手の去就は世界中が注目したが、当時バルセロナのメインスポンサーを務めた楽天の社長で神戸の三木谷浩史会長が、SNSに「これから新しい友達を連れて東京に帰ります」とイニエスタとの2ショット写真を投稿。ほどなくして東京で会見が行われ、あっという間に神戸のイニエスタが誕生した。

 あれから5年。紆余曲折はあれど、“バルサ化”をテーマに強化を進めたチームを先頭に立って引っ張ってきた。イニエスタ自身も大きな思い出として振り返るクラブ史上初タイトルとなった天皇杯制覇は、イニエスタ加入が出した大きな成果だったことに間違いはない。

 そしてこの5年間、日本サッカーに影響を与えたことはもちろん、イニエスタ自身も日本文化により深く馴染んだ。もともと親日家で、バルサ時代の11年に来日した際には、地下鉄車内でつり革を持って乗車している写真をSNSに投稿。“ありえない光景”は世界中驚きを与えたが、気付かれにくさ、もっとも気付いてもプライベートにリスペクトを持って接する文化が、神戸での生活を安心させた。

 新たな船出の時だ。5月11日に39歳になったイニエスタだが、プレーヤーとしての情熱は衰えていない。新天地については、「まだ分からない」「もう少し待たないといけない」と話したが、「次」なる挑戦を意欲的に話す。

「ここ数か月は難しい時期を過ごした。日々のトレーニングでモチベーションを見出すことが大事だった。ただ同時に次に向けたモチベーション、サッカーを続けるモチベーションになった。だから新天地でサッカーを続けていきたい」

 最後に報道陣への感謝を伝えると、ピッチを去る時と同様に深々と頭を下げた。お辞儀。日本での5年間で自然と身についた習慣だ。「心掛けてきたことは常に100%を出すことだった。神戸の街にもリスペクトを持ってきたし、みんなからもそれを感じることができた」。スーパースターが愛した日本、思い出の詰まった神戸を離れる。

(取材・文 児玉幸洋)
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