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「倒して次に進みたかった」鬼門突破を目指した90分間…山形・渡邉晋監督が感じた手応えと清水の底力

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山形を率いる渡邉晋監督

[11.25 J1昇格PO準決勝 清水 0-0 山形 アイスタ]

 モンテディオ山形にとって清水エスパルスのホームは、過去のリーグ戦で1分5敗と1度も勝利がない鬼門。公式戦全体で最後にして唯一の白星は、2009年5月20日のナビスコ杯(現ルヴァン杯)のグループリーグ第3節(○1-0)まで遡る。前回対戦となった今年9月9日のJ2第34節(●0-3)では相手のハイプレスに苦しみ、前半に3ゴールを叩き込まれて完敗を喫していた。

 渡邉晋監督は引き分けでも敗退となる今回のJ1昇格プレーオフ準決勝に向け、「清水さんのプレッシングが前回対戦ここでやらせていただいた時に、我々にとっては後手を踏んだものがあったので、それをしっかり外すようにといったところの準備はしていました」と対抗策を用意して臨んだ。

 試合が始まると、狙いを持ったビルドアップで清水の前線からの守備をかい潜りつつ、シンプルに裏を狙うパターンも織り交ぜて何度もゴールへ迫った。

「実際、今日清水さんがどれぐらいプレッシングを考えていたか分からないですけども、メンバー構成を見れば、もう少し多分、来たかったのではないかなと思っています。それを外すことができたというのを考えれば、前回からの我々の成長というものを見せることができたと思います」

 しかし、清水が大一番で抜擢したGK大久保択生のビッグセーブなどもあり、序盤のチャンスを生かせず。時間の経過とともにペースをつかんだ相手との一進一退の攻防が続き、スコアレスでタイムアップとなった。年間順位で下回る山形はここで敗退。渡邉監督はチームに足りなかったものを挙げると同時に、名門が見せた底力を称えた。

「背後を取って決め切れなかったところは、もちろん選手一人一人のクオリティーをもっと高めていかなければいけないでしょうし、もっともっとチャンスを作り出さなければいけないでしょうし、その2つは我々がこれからもっともっとしっかりと取り組んでいかなければいけないことだと思います。ただ、その最後の際のところで清水さんの守備の堅さというか、GKの大久保くんを含めて、そういったところの彼らの粘り強さ、堅さっていうものを感じました。そこは我々にとっては最終的に立ちはだかった壁なのかなというふうには感じてます」

 今季の山形は開幕2連勝からの5連敗。そのタイミングでピーター・クラモフスキー前監督(現FC東京)が契約解除となり、コーチだった渡邉監督が後を引き継いだ。連敗はクラブワーストの8まで伸びたが、新指揮官の下で徐々に立て直して白星を重ねると、最終節のヴァンフォーレ甲府戦(○2-1)で劇的な勝利を飾り、今季3度目の5連勝。逆転5位フィニッシュでプレーオフに滑り込んだ。渡邉監督は自身の取り組みと、それに応えるように成長していった選手、そしてチームに誇りを示している。

「基本的には我々にはしっかりとしたプレーモデルがあって、それ大きくいじることもなかったですし、微調整を加えながら、ここまで選手たちと一緒に積み上げてきたというつもりでいます。そういう細かいところの作業が、結果的には選手の、あるいはチーム全体の引き出しの多さにつながったと思っていて、相手を見ながらフットボールしようよっていうところを選手と共有している中で、やっぱり相手がこうやって出てくるから、じゃあ我々はこっちの手を出していこうと。じゃあ、こっちの引き出しを今度は開けて、相手が嫌がることをやりましょうと。そういうものをしっかりと選手が判断できるような材料を増やしてきたつもりです」

「今日、実際ピッチに飛び出していった選手たちが、清水さんのプレッシングをどうやって外せましたか。もう間違いなく、(0-3で敗れた)前回よりは前進できましたよね。背後を取りましたよね。チャンスを作りましたよね。もうこれは素晴らしい成長だと思っています。我々はそういったいろいろな武器をたくさん持てるというか、最終的に迫りたいのは相手のゴールで、取りたいのは背後で、ただその手前で何かやらなきゃいけないことがあるんだったらやりましょう、やる必要がないんだったら背後を取っちゃいましょう、そういうような出し入れっていう部分に関して言うと、ものすごく選手たちが成長して、たくましくなった姿だったなと思います」

 確かな手応えを感じていただけに、「やっぱり仕留め切りたかったですし、J2屈指のタレント軍団である清水さんをしっかりと倒して、次に進みたかった」というのが渡邉監督の本音だ。

「日本平に1500人を超える(山形)サポーターが集まってくれたと聞いております。本当に遠路はるばる来ていただいて、我々の選手の背中を強烈に押していただいて、本当にありがとうございました。それから、山形ではパブリックビューイングも開かれていると聞いています。中継先からまた我々の勝利を信じて、思いを届けてくださった皆さん、本当にありがとうございました。期待に応えることができず、ものすごく悔しい思いと、申し訳ない気持ちで今いっぱいです」

 プレーオフ敗退後、アウェー側のゴール裏から送られたのは、大きな「山形ディオ」コールだった。一時はJ3降格圏内に足を踏み入れるどん底の状態から、あと2つでJ1昇格というところまで迫った波瀾万丈の2023年。多くのサポーターの記憶に残るシーズンになったのは間違いない。

 現チームとしての最後の試合となった清水戦を終え、渡邉監督は「この敗戦からまたいろんなものを学んで、次に生かしていければ、おそらく今日いろんなことを感じた選手たちのフットボール人生に、何かまた切り開いていけるようなものがあるでしょう。この敗戦からまたたくさん学んで、力強いまた一歩を、来年以降に踏み出していってほしいと思っています」と、一緒に戦った仲間たちへメッセージを送った。

(取材・文 阿部哲也)
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ゲキサカ編集部
Text by ゲキサカ編集部

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