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[MOM900]富士大FW松田空良(3年)_「下から目線」で“一流チーム”と互角の勝負、青森山田時代はBチームの男が起死回生同点弾

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FW松田空良が起死回生の同点弾を決めた

[大学サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[9.8 総理大臣杯準決勝 法政大2-2(PK3-4)富士大 セイホクパーク石巻フットボール場]

 まさに起死回生の同点弾だった。0-2から1点を返して迎えた後半アディショナルタイム4分、富士大(東北2)は左サイドからDF安野天士(4年=武南高)が入れたクロスが浮き球となってこぼれると、FW松田空良(3年=青森山田高)がいち早く反応。落ち着いてシュートコースを見極めると、ゴール左に力強く蹴り込んだ。

 松田空は「クロスがこぼれてくると思ったので準備していた。トラップしたときにまず上はないなと思って、ファーが空いていたので、下を狙ったらちょうど抜けました。時間がないのはわかっていたので、足を振りぬきました」と冷静に振り替える。富士大はその後、2試合連続となったPK戦を制して、東北勢として史上初となる決勝への勝ち上がりを決めた。

 富士大イレブンがみせたのは、ピッチに立てば肩書きなんて関係ないと言わんばかりの戦いぶりだった。戦前の予想では、J1鳥栖入りを内定させるMF渡邉綾平(4年=前橋育英高)、長崎内定のDFモヨマルコム強志(4年=東福岡高)、今年5月に行われたU-20ワールドカップに出場したFW松村晃助(1年=横浜FMユース)ら実績十分の選手が並ぶ法大を優勢とする見方が大方を占めていた。

 当然、富士大の選手はその空気感を十分に感じ取った上で、力に変えていた。高鷹雅也監督も「うちのチームにも皆さんが知っているチーム(出身)の選手はいるけど、ランク的に向こうは代表とか、高校選抜に入っている選手。こっちはインターハイに出たとかその程度。でもそこで止めてやるぞというようなモチベーションになって、奏功している面はあるのかなと思います」と頷きながら話した。

「最近言っているのは、“下から目線”。一流、二流、三流とあって、向こうは一流だけど、うちは三流だと。言われてムカついているかもしれないけど、ちょっとでもハングリー精神になっていればいいなと思います」(高鷹監督)

 その意味でも勝利に繋げる同点弾を決めた松田空は、象徴的な選手だった。高校時代は名門・青森山田高に在籍した松田空だが、3年時もBチーム。主将DF藤原優大(町田)やMF安斎颯馬(早大)らが脚光を浴びた世代だが、最後の高校選手権の決勝もスタンドで応援していた選手だった。

 ただ大学でも好きなサッカーを続けたい。当然、関東の強豪大学などから声がかかることはなかったが、練習会に参加した際に好印象を持ったこと、そして特待生として受け入れてもらえたことで、双子の弟であるDF松田星良(3年=青森山田高)と一緒に、青森県の隣県である岩手県に所在する富士大への進学を決めた。

 この日の相手にも、今大会で2度のハットトリックを記録してブレイクする後輩FW小湊絆(1年=青森山田高)がいた。「先輩の意地もあったので、結果を残せてよかった。自分ができることは腐らずやり続けることだけなので、今日はそれが出せたかなと思います」。

 あと1勝で日本一を経験できるところまでやってきた。東北予選から続く0-2からの逆転勝利が注目されているが、「それは自分たちの強みでもあるんですけど、優勝するためには失点してしまうと苦しくなる」ということも分かっている。「ここまで来たら優勝したいと思っている。試合が終わるまで、勢いのままに優勝したいと思います」。下から目線の挑戦者が見据えるのは、もう頂だけだ。

(取材・文 児玉幸洋)
●第47回総理大臣杯特集
児玉幸洋
Text by 児玉幸洋

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