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ともに稼ぎ、ともに戦い、ともに高みへ…沖縄SV高原直泰が掲げる『理想のクラブ像』

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ゲキサカのインタビューに答えた元日本代表で沖縄SV「代表兼監督兼選手」のFW高原直泰

 元日本代表FW高原直泰(38)は現在、自身が創設した『沖縄SV』(今季から九州リーグ所属)の「代表兼監督兼選手」として、サッカークラブ経営に取り組んでいる。縁もゆかりもなかった土地に移り住み、今年が3年目。ピッチ上の選手に自身の経験を伝えるだけでなく、選手の獲得、地域貢献、事業開発と多方面に全力を注ぎ続けている男の想いを聞いた。(第1回)

■沖縄でキャンプ事業、『誘致』より『誘客』を

―まずはピッチ外の話をお聞きしたいんですが、沖縄SVではどのような事業をされているんですか。
 まず、Jクラブの沖縄キャンプ誘致を自分たちが沖縄県より受託してやらせていただいています。Jだけじゃなく中国、韓国、女子も含めて全部で24クラブが1月、2月で沖縄キャンプをやりました。Jも18チームくらいありましたね。

―たしかに今年は沖縄が多いなと思っていました。
 過去最大ですね。問い合わせは50チーム以上あるんですけど、もうグラウンドが飽和状態で、受け入れができないっていう。ただ、来年はもう少し受け入れられるようになるかもしれません。それでも2~3チーム分だと思うんですけど。それはもう地域貢献ですよね。沖縄にまず来てもらいたい。
 ただ、いまは『誘致』の部分が強いですけど、それをもう少し野球みたいに『誘客』に持っていこうという話はしています。誘致はある程度できているんで誘客に力を入れていけば、もっと沖縄の地域にお金が落ちて、経済が回るようになる。そういうことをしていくのがここにチームがある理由だと思うんで。

 もちろん、選手たちはこのチームで上を目指していけばいいんですけど、チームのコンセプトを理解してもらったうえで、上を目指してもらいたい。「いかに地域貢献していくか」「チームからどういうものが生まれるか」というところを大事にしているので。そういうことをしていくことで、自分たちに返ってくる。

■理想はおらが街のチーム、松本山雅FC

―自分たちに返ってくるというのは大事ですよね。集客にもつながると思います。
 理想は山雅(松本山雅FC)みたいなね。毎試合、あれだけのファンがホームの試合に来てくれるので。みんなアウェーにも行かれていますけど、沖縄でああいうふうになってくれればいいですよね。人口的には沖縄のほうが多いですけど、いま進んでいるサッカー専用スタジアムは2万~2万5千くらいの客席なので、理想のモデルとしては山雅くらいになると思います。

 毎試合ホームは満員にしたい、そういうところでプレーをさせてあげたいというのがあるんです。自分の経験上、そういうところでプレーをすることで、どういう影響があるか、どういう思いが生まれるか。そういう環境によって選手の成長にもつながってくると思うので。そのためにいま何をしなきゃいけないか。

 チームをつくりながら上を目指していくんですが、そういうのは上に上がってからやっても遅い。こうやってチームを作りながら、広がりをつくっていくことをみんなで考えたい。そこでできることをやっていこうよということで、いろんな取り組みはしています。その一つが農業であり、伝統工芸とのコラボレーションであり、地域資源を生かした商品開発。それをもっと進めていって、今年はもっと情報発信をしたいなっていうところですね。

―沖縄の伝統工芸や地域資源を使ってどのような商品を開発、PRしているのですか。
もともと、沖縄SVを設立する時に八重山ミンサーという沖縄の伝統工芸の織物に「いつの世までも末永く」という意味があるのを知って、チームのエンブレムにも取り入れていて。
 その関係もあって、沖縄の伝統工芸を活性化できないかと内閣府出先機関の沖縄総合事務局から話をいただき、首里織と琉球びんがたとコラボしてポロシャツを開発したり。泡盛をつくる過程で取れるもろみ酢は疲労回復効果の高いクエン酸が豊富で、そのもろみ酢やシークヮーサー、アセロラなど沖縄の資源を使って、アスリート向けのドリンクを大学機関と共同開発したりと、いろいろな取り組みをしています。

■熱いサポーターの存在…「全然違いますね」

―ボカ・ジュニアーズ、ブンデスリーガの2クラブ、浦和レッズ、清水エスパルスなど、日本人サッカー選手の中でも特に熱いサポーターに囲まれてきたサッカー人生だったと思うのですが、やはり存在は大きいですか。

 もう、全然違いますね。でも、お互いにとって大事じゃないですか。応援してくれるほうもプレーヤーがいないと対象がないし、プレーヤーは応援してくれる人がいなかったら成り立たない。気持ちの部分でもなかなかうまく持っていけないというか、盛り上がらないというかね。たくさんの人の中でやるとモチベーション的な部分がプレーにも影響します。だから、どっちがどっちというのはないし、お互いが成り立ってできている。

 自分は熱いチームにいることが多かったので、できるだけたくさんの人に自分たちの試合を観てもらって、そういう環境を選手につくってあげたいなと。それによって選手の質も変わる。またプレーの質だけではなく、一人の大人としての振る舞いだったりとか、そういうところにも影響してくると思います。普段から見られているという意識を持って行動する選手と、ちゃらんぽらんな選手だと違うと思うんですよ。そういうのは大事なことだと思います。

■「目的意識を持っている選手」に来てほしい

―選手を育てたいという思いが伝わってきますが、どんな選手に来てほしいという基準はありますか。
 いまのウチのチームであれば、向上心というか、『このチームに入って何がしたい』というのがちゃんとある選手がいいですよね。目的意識を持っている選手。

―たとえばどんな意識でしょうか。
 「このチームに入って自分がこのチームを上に引っ張り上げる」とか「このチームに入って何かを成し遂げていくんだ」という気持ちを持った選手だと良いですよね。
 俺はよく「このチームを踏み台にしてもいいよ」って言ってるんですよね。「このチームより上のチームからオファーがあって、そこに行くなら自分としてはうれしいことだ」って。「まあ、行ってほしくはないけど」って(笑)。

 このチームで活躍して上を目指してもいいし、活躍が他のチームに認められていいオファーをもらうのもいい。それを俺は悪いことだと思ってなくて、いいことだと思っているんで。そういうのが出てくると、ようやくプロチームっぽくなってきたなと思うし、いま自分が求めているのは、そういうところかな。
 あとは自分たちのチームの考え方、そこを理解して行動できる選手。サッカーでがんばるのは当たり前のこと。上を目指すことはね。このチームでスタメンを奪って引っ張り上げる。ここで活躍してステップアップしたい。それは当たり前。

 そのうえでチームのコンセプト。「どうやったら自分たちのことを応援してもらえるか」とか、「どうやったら地域に根ざしたチームになっていけるだろう」とか、そういうことを考えられるような選手が一番いいです。
 上を目指そうと思ったら、いま何をすべきかを考えて行動するじゃないですか。俺はいまの若い選手には必ず言ってますけど、「何をしに沖縄までサッカーをしにきたんだ」「わざわざ沖縄までサッカーをするのは何のため?」って。「中途半端にやるんだったら辞めたほうがいい」「諦めたほうがいいぞ」って。「中途半端にやっても生きていけないから」って。それならサッカーは遊びでやって、ちゃんと朝から就職して働いて、お金を稼ぐために働いたほうがいいと思います。このチームでサッカーをやる意味を若い選手には求めています。

■沖縄SVでサッカーをする『意味』

―厳しい環境で生き抜くためには『意味』は大事ですね。
 「あれもやりたい、これもやりたい」はできないんですよ。このチームで上を目指すなら、何かを犠牲にしないといけない。プロとして契約をしているわけではないので、仕事をしないといけないわけなんですよ。でも、仕事もやりすぎたらプレーに影響するわけじゃないですか。だからそこで考えないといけない。どれくらいやれば生活できるのかというところをね。

 「厳しい環境だよ、そのなかで覚悟を持って来てる?」って話はすごくしますね。何回も。1回で伝わる選手もいるし、何回も言っても伝わらない選手もいる。何回言っても伝わらない選手はきっとどこへ行ってもうまくいかないんじゃないかな。
 自分たちに限らず、地域リーグでやっている選手は働きながらやる選手が多いわけで、そのなかでサッカーで上を目指さないといけない。生活できないから働くわけで、そこで自分がどういう割合でやるかを考える。サッカーと仕事、基本的にはそういうのが中心。

 若い選手は遊びたいという気持ちがあると思うんですけど、そこの部分を削らないといけない。何かを犠牲にしてやらないとこのチームでは無理。「それができないなら辞めろ」って言ってます。「それがお互いのためだ」と。厳しいようだけど、それが現実。そんな甘い世界ではないので。
 自分たちがもっと上に上がって、プロとして雇用できるようになれば、お互いの関係がはっきりするんですけどね。プレイヤーとして純粋に評価されて、良いのかダメなのかで決まる。でも、いまはそういうところじゃないんで、「プレーがダメだからダメだよ」ってところでもない。いまは、そういう考えをしっかり持っているかどうかを大事にしています。

■「働く」ことは「クラブを広げる」こと

―選手のみなさんはどんな仕事をしているのですか。
 スポンサーをしてくれている企業さんで働かしてもらっている選手とか、役所関係とか、あとは学童保育が多いですかね。何人かは違うところもありますけど、基本的には自分たちをサポートしてくれる企業さんですね。

―そこで働くことは、クラブが地域に根付くことにもつながりそうですね。
 そうですね。これもよく言うんですけど、「自分がいま働かせてもらっているところ、一緒に働いている人たちが応援してくれるようになんなきゃいけないよ」って。「ただ働かせてもらっているのではなく、うちの看板を背負っていることを忘れるな」って。
 自分のファン、自分を応援してくれる人をどうやって増やしていくかが大事です。沖縄で普段はサッカーに触れてない人でも、一緒に働いている人がやってるなら休みの日に見てみようかな、みたいな。そういうふうになっていかないといけないってのはよく言っています。

 地域で上を目指そうとしているクラブって、基本的にはそういうことが多いと思うんですよ。自分たちのチームだけではプロとして雇えないなかで、いろんな人の協力があって、いろんな人との関わりが増えて、そういう人たちがどんどんサポーターになっていくんじゃないかと思うんですよね。そして、そういうふうにしていかないといけない。
 そういうことで試合を観てもらって、楽しんでもらえるような場所を提供したい。みんなで試合を見に来てもらってワイワイ盛り上がれる、そういう場を自分たちが提供していければいいなと。そういう輪がつながっていけばいいなって思っています。

■「選手と一緒に成長していければいい」

―その『輪』は選手にも返ってきますよね。
 そうなんです。それが選手に戻ってきて、いい循環になってくると思うんです。そういうふうにするためにも、人間性の部分も求められる。
 自分はプロとしてずっとやっていたんで、あんまりこういう感覚は持てなかったんですよね、正直な話。でも、いろんなところでプレーして、いろんなカテゴリを見てきたなかで、人とのつながり、チームをサポートしてくれているチーム、いろんな方が自分たちにかかわってくれて、一つのクラブとして成り立っているというのを教わりながら感じてきた。

 いま自分はこういうことをやっているけど、若いうちはすぐに理解できないことも多いかもしれない。でも、そこを何とか理解しながら若いうちからやっていくというのはプラスになっていく。自分も「もっと早く気付けていれば良かった」と思うこともあるけど、せっかく自分と一緒にやるんだったら、若い選手には若いうちに、良い選手というよりは良い人間になってほしいという思いがあります。
 そういうところも一緒に勉強していくじゃないですけど、一緒に成長していければいい。もちろん、自分と一緒にやるんだったら選手を成長させてやりたいと思います。いまの自分のチームはそういう感じです。自分の経験の中をそのままフィードバックさせていることが多いですね。

■チーム名の『SV』は「みんな読めない(笑)」

―まさに高原さんの経験というか、チームカラーはボカそのものですよね。
 紺と黄色のチームカラーというのはボカから来てるけど、沖縄ってところにもマッチするってところも当然ありますね。

―どういうところですか。
 沖縄ってそういうイメージないですか?海は青いイメージ、黄色は太陽。沖縄にはそういうカラーリングが他にもあったりしますね。

―あとはチーム名の『SV』ですね。
 ハンブルガーSVから来ているんですが、ドイツ語でSVは「シュポルトフェアアイン」。「スポーツクラブ」という意味です。
 沖縄の地域に密着し総合スポーツクラブとして、将来はサッカー以外のスポーツ部門にも活動を拡大していく予定です。スポーツを軸にしたさまざまな活動を通じて、地域のコミュニティー活性化につなげていきたいですね。
 まあ、みんな「エスファウ」ってやっぱり読めないですね(笑)。そのうち読めるようになればいいですよね。

沖縄SVが所属する九州リーグ(『kyuリーグ』)は4月7日、沖縄県の集中開催で開幕。9月23日の最終節まで全18試合で優勝を争う。

(インタビュー・文 竹内達也)

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