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左右両足を操る現代型サイドバック。前橋育英MF岩立祥汰はどのポジションでも自分を貫く

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指揮官の信頼も厚い前橋育英高のマルチロール、MF岩立祥汰

[6.20 インターハイ群馬県予選決勝 前橋育英高 0-0(PK3-1) 桐生一高]

 黙々と仕事をやり遂げる姿は、さながら“職人”のような渋みを感じさせるが、その両足を完璧に使い分けられるスキルは、現代型サイドバックそのもの。主役になり得るだけのポテンシャルを秘めている。「キックには自信がありますね。まだまだ球種とかは足りないと思うんですけど、今の自分に蹴れるボールで、それが得点に繋がったらいいなと思っています」。右も左も難なくこなすサイドバックであり、プレースキッカー。前橋育英高のマルチロール、MF岩立祥汰(3年=Wings U-15出身)がとにかく効いている。

 群馬の覇権を巡るインターハイ予選決勝。前半15分過ぎに桐生一高は、左右のサイドハーフの位置を入れ代える。エースのFW寶船月斗(3年)が左から右へ移ると、前橋育英も“寶船番”を命じられていた右SBの岡本一真(3年)が左へポジションチェンジ。左SBで先発した岩立も、必然的に右SBへとシフトする。

「もともと守備面は一真の方が凄いので、寶船のポジション次第で入れ代わるのはわかっていましたし、試合の途中で左と右が代わるのは結構難しいですけど、左右どっちになっても守備だったり、攻撃参加だったり、サイドハーフをサポートしたりして、自分ができることを考えながら、うまく行くようにやっていました」。

 結果的に試合途中で寶船も元のポジションに戻り、前橋育英の両SBもスタートと同じ位置に戻ることになったが、「自分は強みとして、右足と左足とどっちも不自由なく使えるので、どっちをやってもあまり変わらないんです」と言い切る岩立の戦術理解度とポリバレントさが、チームの戦い方の幅を広げていることは確かな事実だ。

 それでも、しっかりと反省点を口にするあたりに、サッカーIQの高さも滲む。「僕は右足で中に切れ込んでスルーパスも出せるので、左SBをやっているんですけど、右でも切れ込んで左足のパスを出せるので、右SBの時にその回数を増やせたらよかったなと思いました」。淡々と振り返る口調からは、むしろ凄味すら感じてしまう。

 基本的には起用されることの多い、左サイドバックでのプレービジョンもしっかり整理されている。「左をやる時は笠柳(翼)が絶対的な個を持っているので、笠柳のポジション取りを見て中にサポートしつつ、自分からフォワードにパスを当てて、崩しに参加していく場面も結構意識している所ですし、インナーラップして、2人で相手のサイドハーフやサイドバックを置いていって、また笠柳に付けたりして、そこから攻撃の基点になって、というのも良いかなと思っています」。淀みのない言葉に、クレバーさも透けて見える。

 半年前まではボランチを主戦場にしていたが、今年に入ってからサイドバックにチャレンジ。ゆえに、今まで参考にしてきた選手も、新しいポジションの選手のそれではない。「もともとボランチでしたし、意識している選手というか、子供の頃からずっと見ているのは(メスト・)エジルなので、パスの視野とか見ているスペースも、結構サイドバックとしては変わっているかなと思います」。その技術の高さと、プレーぶりを見れば、エジルが好きだというのも納得が行く。

 高校最後の夏。成し遂げたい結果は、1つだけだ。「去年はそもそもインターハイもなかったですし、自分たちの代では絶対に全国へ出たいと思っていたので、無事に出られて良かったです。自分たちにできるサッカーを表現して、優勝を狙ってやっていきたいです」。

 左サイドバックか、右サイドバックか、それとも、また新たなポジションか。1つだけ間違いがないのは、どこであろうとも「右足も左足も両方蹴れるので、多様性はありますよね」と評価を口にした山田耕介監督が、自信を持ってそのポジションで起用することのできる、究極のチームプレイヤーであること。岩立祥汰はどこにいても、岩立祥汰であり続ける。

(取材・文 土屋雅史)
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