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伝統の「勝ち切る力」を取り戻しつつあるカナリア軍団。帝京が延長3発で粘る國學院久我山をしぶとく撃破!

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帝京高は延長での3ゴールで粘る國學院久我山高を撃破!

[6.12 インターハイ東京都予選準々決勝 帝京高 4-1(延長) 國學院久我山高]

 印象的だったのは、後半終了間際に同点弾を許して迎えた、延長開始直前のベンチ前に漂っていた雰囲気だ。気持ちが折れかけても仕方ないようなシチュエーションにも関わらず、カナリア色のユニフォームを纏った選手たちには、あるいはそれまで以上にエネルギーがみなぎっていた。

「追い付かれて後半が終わっても、そこで集中力が途切れることなく、『延長に入ったらウチらはもっと行けるよ』『ボールを動かせるよ』『絶対久我山の足が止まるよ』ということを選手たちが言っていましたし、ベンチもその言葉を信じていました。本当によく耐えて、みんなが頑張ってくれたと思います」(帝京・日比威監督)。

 苦しい形でもつれ込んだ延長で力強く勝ち切り、堂々の全国王手。令和4年度全国高校総体(インターハイ)「躍動の青い力 四国総体 2022」男子サッカー競技東京都予選準々決勝が12日に行われ、帝京高國學院久我山高が激突した好カードは、1点のビハインドを負った國學院久我山が後半終了間際に劇的に追い付くも、延長で3ゴールを挙げた帝京が4-1で勝利。準決勝進出を手繰り寄せた。

 スコアは早々に動いた。前半5分。FW齊藤慈斗(3年)が左へ振り分け、上がってきたDF小林佳太(3年)がクロス。MF橋本マリーク識史(3年)が残したボールをFW伊藤聡太(3年)が繋ぐと、MF松本琉雅(3年)のシュートはゴールネットへ吸い込まれる。これがインターハイ予選初戦となる帝京が、最高の形で試合と大会のスタートを切った。

 ところが、逆に失点したことで國學院久我山のスイッチが入る。7分には注目FWの塩貝健人(3年)が単騎で抜け出し、左足でフィニッシュ。ここは帝京のGK川瀬隼慎(2年)がファインセーブで凌ぐも、15分にもFW中山織斗(3年)のスルーパスに塩貝が走り、わずかにオフサイドになったものの、「9番が思った以上に良くて、あそこで振り回されてしまいましたね」と日比監督も振り返ったように、中山の鋭いドリブルが際立つ流れの中で、攻勢の時間が続く。

 32分には塩貝のキープから、FW八瀬尾太郎(3年)が粘り、MF山脇舞斗(2年)のシュートは川瀬がキャッチ。36分にもMF高橋作和(3年)を起点に、八瀬尾の右クロスに塩貝が合わせたヘディングは枠の上へ。40分にもDF岡井陶歩(3年)が短く付け、山脇のクロスから塩貝のヘディングはゴール右へ外れたものの、國學院久我山が同点への意欲を打ち出す中で、最初の40分間は終了した。

 後半に入ると、ようやく帝京も攻撃の歯車が嚙み合い出す。18分にはDF梅木怜(2年)が縦パスを通し、左サイドで収めた齊藤のカットインシュートは國學院久我山のGK石崎大登(3年)が丁寧にキャッチ。25分には齊藤のポストワークから、抜け出したMF押川優希(3年)のフィニッシュは石崎がビッグセーブ。直後の26分にも伊藤が右へ流し、齊藤が巧みなトラップから繰り出した反転ボレーは枠の左へ。追加点には至らない。

 1-0のままで突入した最終盤。35分の國學院久我山は、FW金山尚生(3年)とMF佐々木登羽(2年)でボールを繋ぎ、FW前島魁人(1年)の決定的なシュートがわずかに枠の左へ逸れるも、直後に魅せたのはやはりこのストライカー。38分。石崎が蹴ったロングキックに鋭く反応した塩貝は、身体の強さを生かして前進しながら右足一閃。ボールはゆっくりと左スミのゴールネットへ転がり込む。「主将は任せてもらっているけど、みんなに支えてもらっているので、自分がもっと成長してチームを強くしたい」と言い切る10番のキャプテンが大仕事。起死回生の同点ゴール。1-1。勝敗の行方は前後半10分ずつの延長戦へと持ち越された。

「本当はやっぱり80分で試合を決めたかったですし、あの時間帯で失点した流れは苦しかったですけど、『もしかしたら失点するかもしれない』ということはみんなで話していましたし、『そういう時に気持ちを落とすんじゃなくて、そこからもう1回自分たちで点を獲りに行けるようにしよう』とは話し合っていました』とは帝京のキャプテンを託されている伊藤。そして、ここから伝統のカナリア軍団が、その真価を発揮する。

 延長前半9分。左からDF島貫琢土(3年)がロングスローを投げ込み、MF田中遥稀(3年)と齊藤が懸命に繋いだボールを、途中出場のMF山下凜(3年)がゴールネットへ流し込む。「今日は3年生のみんなが見に来ていたので、メンバーに入っていない選手の気持ちも考えて、自分がやらないといけないなと思っていました」という11番の貴重な勝ち越しゴール。2-1。

 延長後半2分。右サイドで前を向いた伊藤は、齊藤からのリターンを受けると、冷静に周囲の状況を把握する。「キーパーが最後はちゃんと見えていた感じがあって、落ち着けていました」。少し浮かせた軌道が、左スミのゴールネットへ到達する。「正直80分を超えたあたりから攣っていましたけど、辛いけど走らなきゃいけないなって。応援してくれる仲間もいましたし、力を振り絞ってゴール前に走り込めたのが結果に繋がったと思います」という10番の大きな大きな追加点。3-1。

 6分。相手のフィードを梅木がヘディングで弾き返したボールに、延長前半から投入されたMF山崎湘太(2年)がいち早く反応して左サイドを独走。飛び出したGKの鼻先で中央へ折り返すと、そのまま全速力で走り込んできた梅木が無人のゴールへプッシュする。「怜も1失点目は自分のせいだと思って落ち込んでいたんですけど、あのシーンは良く走ってくれました」と押川も称賛した4番のセンターバックが、試合を決めるダメ押しゴール。4-1。

「最後はもう気持ちの勝利でしょうね。ウチが今まで久我山さん相手に苦しんできたことも、コイツらはよくわかっているし、そういう先輩たちの分までという想いもあったみたいだから、今までの悔しさを晴らしてくれたかな」と日比監督も話したように、最後は先輩たちの想いも乗った“オール帝京”で粘り勝ち。2年連続での夏の全国切符に、あと1勝と迫る結果となった。

 昨年までインターハイでは10年間、選手権では11年間も全国の舞台から遠ざかっていた帝京。その間には十分なレベルのチームを構築できた年もあったが、いわゆる“キーゲーム”をことごとくモノにできず、先輩たちは涙を呑み続けてきた。だが、昨年度のインターハイ予選準決勝では堀越高相手に2点のビハインドを突き付けられながら、後半終了間際に追い付くと、延長戦の末に勝利をもぎ取り、久々の全国出場を劇的に経験した。

 1年時からゲームに出続けている伊藤が「勝ち切れないと結局悔しい想いをするのは自分たちですし、先輩たちが悔しい負け方をするところもよく見ていて、ある意味では勉強になっていたので、そこは普段の練習から勝ち切る意識を高めてやれているなと思います」と話せば、「勝負にこだわることをみんなが意識することが多くて、ミーティングも結構やってきた中で、『最終的に勝ち切ろう』という話もしていますし、そういうところが結果に繋がったかなと思います」とはやはり1年時から出場機会を得てきた押川。勝ち切れなかった時期と、ようやく勝ち切った時期の、両方を体感している彼らの存在が、今年の帝京にとって何より大きなアドバンテージになっていることは間違いない。

 手応えのある勝利を収めた試合後も、既に目線は次の試合へと向けられる。「今日の勝利は自信にこそ繋がったかもしれないけれど、次に勝たなかったら全く意味のない試合になってしまうし、久我山さんの分までやらないといけないですよね」(日比監督)「今日も苦しい試合になってしまいましたけど、自分たちは夏と冬は必ず日本一を獲りに行こうと話していて、傍から見たら笑われる目標かもしれないですけど、自分たちは本気でできると思っているんです。そのためには東京予選で手こずっているようではまだ甘いと思うので、あと1週間で改善点を克服して、完璧な状態で準決勝に向かいたいです」(伊藤)。

 勝利への渇望感と、ピッチの外から声なき声で仲間を鼓舞する、メンバー外の選手も含めた一体感。勝ち切れる帝京、勝ち切れるカナリア軍団は、かつてのように高校サッカー界の主役の座へ返り咲くことを、真剣に、全員で、狙っている。

(取材・文 土屋雅史)
●【特設】高校総体2022

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