beacon

今度は青森山田を撃破!「真剣に」優勝を目指し、「誰かのために」戦う明秀日立が“台風の目”に

このエントリーをはてなブックマークに追加

後半35+3分、明秀日立高FW根岸隼が左足で決勝ゴール

[7.31 インハイ3回戦 明秀日立高 1-0 青森山田高 カムイの杜公園多目的運動広場A]

 再び優勝候補を打倒。明秀日立が23年インターハイの“台風の目”になっている。令和5年度全国高校総体(インターハイ)「翔び立て若き翼 北海道総体 2023」男子サッカー競技は31日に3回戦が行われ、明秀日立高(茨城)と青森山田高(青森)が対戦。後半アディショナルタイムにFW根岸隼(3年)が決勝点を決め、明秀日立が1-0で勝った。明秀日立はインターハイで初の8強入り。準々決勝で高知高(高知)と戦う。

 初戦で“高校年代最高峰のリーグ戦”プレミアリーグWEST首位の静岡学園高(静岡)を破り、今度は同EAST首位の青森山田を撃破。明秀日立の萬場努監督は「僕は今日勝ったら、『“台風の目”だ』と書いてもらえるかなと」と微笑む。だが、この2勝は真剣に目指してきた勝利であり、日本一への“通過点”でしかない。

 明秀日立は大会日程と同じく3連戦後に1日休んで3連戦を行うなど、決勝までの6試合を戦うことを想定して準備。萬場監督は、「良い大会にしたいというよりは、現実的に6試合したいと。きょうもヤマだと思うけれども、『ここを通らないと、日本一にはたどり着けないよ』と言っていた。誰でも言えることじゃないと思うんですけれども、(日本一になると)真剣に話をするなら、静学にも、山田にも、それを蹴散らして上にいかなければいけないというのは当たり前なので、そのメンタリティーは身につけてきたつもりではあります」と語る。一時激しい雨が叩きつける中、最後まで真剣に勝利を目指し続けて劇的な勝利。再び全国を驚かせた。

 青森山田は強かった。明秀日立は特長の強度を全面に押し出して戦ってきているが、相手はプレミアリーグや全国大会上位の戦いで圧倒的な強度を発揮してきたチーム。この日、互角に競り合ったようなシーンでその多くは青森山田側にボールがこぼれていた。萬場監督も「もう一回、茨城戻って鍛え直しだと思っています」と苦笑する内容。また、相手の奪い返しのスピードは非常に速く、どうしても低い位置でのクリアが増えてロングスローを与えてしまっていた。
 
 だが、ゴール前ではCB山本凌主将(3年)が強さを発揮するなど各選手がファーストコンタクトで健闘。競り負けるシーンもあったが、セカンドボールへの対応も速く、決定打を打たせない。山本は「(競り合いで相手が)勝つ点も多かったけれど、そのあと(サポートで)2枚3枚来るところは自分たちの方が良かった」。また、GK重松陽(2年)も怯まずにボールへアタック。セットプレーなどの対応でミスすることなく、切り抜けていた。

 守備で良く渡り合っていたものの、クリアボールを青森山田に繋がれてしまい、前半は攻撃回数を増やすことができなかった。FW石橋鞘(3年)が鋭い仕掛けを見せるシーンもあったが、青森山田の190cmCB小泉佳絃(3年)に止められてしまうなど、前半のシュートは1本。小泉、注目CB山本虎主将(3年)を中心とした青森山田の守りは堅かった。

 ただし、明秀日立も前半を無失点で乗り越える。右SH杉本英誉(3年)と左SH川原良介(3年)が中央、逆サイドに移動するなど変化してくる相手の攻撃に対し、声を掛け合いながら集中した守備。青森山田は31分、杉本が左サイドを突破して上げたクロスをプレミアリーグEAST得点ランキング首位のFW米谷壮史(3年)がファーで合わせる。だが、枠右へ。迫力のある攻撃を続けるも、ラスト、またその前の精度や迫力を欠いてしまっていた。

 後半には、右CKから小泉が頭で狙うもシュートは枠左へ。10番MF芝田玲(3年)や山本の配球などから明秀日立の守りをこじ開けに行くが、中央に攻撃が偏ってしまう部分があった。正木昌宣監督は「明秀日立さんも初戦で静学さんに勝ってかなり勢いがありましたし、我々の強みである球際、セカンドの競り合いの部分でどうしても押されてしまっているという印象もありました」と振り返る。

 後半半ば以降はロングスローを連発。またロングボールやクロスを交えてゴールを目指したが、浮き球を交代出場の181cmMF斉藤生樹(3年)や山本に跳ね返され、シュートをブロックされるなど明秀日立を飲み込むことができなかった。

「冷静にやるところは冷静にやれていましたけれど、やはり勝たなければいけないというプレッシャーのところで少し攻撃が単調になってしまったのかなと思います」(正木監督)

 逆に明秀日立は後半、右SB長谷川幸蔵(3年)やMF吉田裕哉(3年)が競り合いを制して前進。前向きにボールを扱う吉田や石橋がDFを剥がして相手を押し返して見せる。「相手の穴を探すことは特に試合の後半は見えました。子どもたちが自発的に判断して、足元で掻い潜った方が良いというのがちょっと出たのが、大きな差になったと思います」(萬場監督)。競り合いで負けない、引かないは大前提。その中でやれることを見つけて実行したことが、自分たちの時間を作り出すきっかけになっていた。そして、左サイドで斉藤が推進力を発揮。力強い動きでDFを振り切り、ラストパスへ持ち込むなど青森山田ゴールに迫っていた。

 終盤、そしてアディショナルタイム突入後も青森山田の攻撃を受けるシーンが多かったことは確か。だが、集中して守った明秀日立が1点を奪い取る。35+3分、青森山田は攻撃でミス。こぼれ球をDFがクリアしたものの、ボールは明秀日立CB飯田朝陽(3年)の正面へ飛んだ。コントロールからすかさず出した飯田の縦パスで、交代出場FW根岸隼(3年)が一気に抜け出す。そして、GKを左からかわして左足シュート。静岡学園戦でも後半アディショナルタイムに決勝点を決めている10番が、再び劇的なゴールを決めた。

 この試合は当初12時キックオフ予定だったが、雷の影響で14時半に変更。そのため、この試合を見てからフェリーで移動する予定だった明秀日立の控え選手たちは、会場で仲間を後押しすることができなかった。その中で、「本当は見せたかったんですけれども、配信とかを見てくれていると思うので、絶対に勝利を届けたいと思ってやりました」という根岸が決勝点。初の8強入りを決めた。

 歓喜の明秀日立。今年は県新人戦を圧倒的な強さで制したが、怪我人が出るなど不安定さのある中で迎えた関東大会予選で早期敗退を喫している。その後、選手たちは色々な人に支えられていること、サッカーが当たり前にできる環境は自分たちで作らなければいけないということを自覚。萬場監督は「(応援する仲間と一緒に勝ち取った県大会の優勝で気づきを与えられ、)このゲームに関しても、『誰かのために』とか話したら理解して、何とか必死になってやるというところは出してくれている。そこは凄く人的にも成長してくれているな、と。出ている子たちだけじゃないです」。仲間と支え合い、一緒に戦い、高い壁を乗り越えた。

 北海道を離れた仲間たちへ、まだまだ良い報告をする。根岸は「まだベスト8なので。切り替えて明日しっかりトレーニングして、日本一目指していきたい」と語り、山本も「明日一回休んで心もリフレッシュして、ここからまた3試合続くので、この流れを持ってそのまま勝ち上がれればなと思います。ここまで来たら優勝したいです」と力を込めた。再びV候補を破り、強烈なインパクトを残している明秀日立だが、勝負はここからだ。慢心せず、「誰かのために」という思いを持ち続けて、準々決勝に挑む。 

(取材・文 吉田太郎)
●【特設】高校総体2023

TOP