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アジア杯決勝は兄弟対決? スペイン流表現で連覇誓ったカタール指揮官「2位は敗者の1番手という言葉がある」

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ヨルダンのフセイン・アムータ監督と握手するカタールのマルケス・ロペス監督(写真右)

 ホスト国として出場したW杯での惨敗を経て、前回アジアカップ王者のカタール代表が連覇に王手をかけている。ヨルダンとの決勝戦を翌日に控えた9日、記者会見に出席したFWハッサン・アルハイドス(アルサッド)は「まさか決勝に進めるとは誰も思っていなかった。まさかこんなパフォーマンスを届けられるとは誰も思っていなかった」と大会の歩みを振り返り、チームの団結力を誇った。

 前回アジアカップ王者のカタールは2022年末、自国で行われたW杯に開催国枠で初出場したが、グループリーグで3戦全敗。史上初めて開催国が開幕戦に敗れるという不名誉な記録を残したのを皮切りに、初めて1勝もできないどころか、初めて1つの勝ち点も取れずに無残な敗退を喫した国となった。

 大会後、カタール連盟はスペイン出身のフェリックス・サンチェス氏に代わり、ポルトガル出身で前イラン代表のカルロス・ケイロス氏を招聘し、チームの立て直しを試みたが、アジア杯を目前に控えた昨年12月に電撃退任。前々任者と同じスペイン出身で、カタールのアルワクラを率いていたマルケス・ロペス氏に後任を託す形となった。

 そうしたスクランブル体制で臨んだ今大会だったが、チームは試合を重ねるごとに成熟を重ねていった。大会前は4-4-2の布陣をベースに親善試合2試合を戦い、カンボジアに3-0、ヨルダンに1-2という結果に終わったが、開幕後は3-5-2の布陣で守備が安定。レバノン戦に3-0、タジキスタン戦に1-0と無失点が続き、ターンオーバーに伴って急造4バックで臨んだにも1-0で勝利するなど、盤石の首位突破を果たした。

 決勝トーナメントでは1回戦でパレスチナに2-1、準々決勝でウズベキスタンに1-1のPK勝ちと苦戦が続いたが、初めて格上との対戦となった準決勝イラン戦では4-4-2に再びシステムを変更。持ち味のポゼッションスタイルは最終ラインのビルドアップのみにとどめ、イランのアグレッシブなプレッシングを逆手に取るロングボール戦術で打ち合いに持ち込むことで、3-2の勝利を収めた。

 イラン戦の試合後、スペイン人指揮官は「攻撃ではスピーディーなプレーを心がけ、スピードのある4人を前線に起用した」と狙いを明かしつつ、「チーム全体が素晴らしい闘志を見せ、まるで決勝戦のようだった」と戦いぶりを称賛。就任から2か月間の成果を「その道のりは困難だったが、選手たちが我々のアイデア、我々のゲーム、我々の哲学を共有してくれた」と誇った。

 そうして迎える決勝戦。前回大会の優勝を知る背番号10のアルハイドスは「チームの一員としていられることを誇りに思う」と前向きに語った。ここまで3ゴールを挙げてきたにもかかわらず、準決勝では戦術変更に伴ってベンチスタートに回っていた33歳だが、国立のサッカー選手養成施設アスパイア・アカデミーから有望な若手選手が出てきている中、現在の立場も前向きに受け止めているようだ。

「この選手たちは2019年から70%が残っている。その中にいられることをとても誇りに思う。プロフェッショナルなメンタリティーを持っていると思う」。W杯惨敗からの立て直しには「まさか決勝に進めるとは」と驚きを見せつつも、「我々は協力し合っている。監督、テクニカルチーム、連盟、FIFAとの信頼関係もある。ここまで来られたのは選手の努力、そして全員の団結があったからだ」とチームの歩みを誇った。

 決勝の相手はヨルダンに決まった。優勝候補に挙げられていなかったチームの決勝進出に対し、世界的には驚きをもって受け止められているが、カタールにとっては大会前の親善試合で敗れた相手。アルハイドスはヨルダンメディアからの質問に対し、「親善試合の結果は誰もが知っているし、驚くことではない。対戦した試合で、彼らが上のほうに行くだろうと思っていた」とサラリと述べた。

 カタール現地では、ヨルダンとの決勝戦は「兄弟対決」としても注目を浴びている、サウジアラビア対UAEが戦った1996年、イラク対サウジアラビアが戦った2007年に続く史上3度目のアラブ決勝という観点からだ。カタールはラウンド16のパレスチナ戦でも“兄弟対決”を戦っており、そのスタジアムには温和な空気に包み込まれていた。ペルシャ勢のイラン戦った準決勝は一変し、殺伐としたムードが漂っていたが、決勝戦はまた異なる雰囲気になりそうだ。

 それでもマルケス監督は言い切った。「これは兄弟関係にある2つの国での試合だが、最後は兄弟同士の戦いになるはずだ」。ヨルダンの監督を務めるフセイン・アムータ氏はかつてカタールのアルサッドの監督を務めていた旧知の間柄。アルハイドスは教え子でもあるため、共に出席した前日会見ではそれぞれが抱擁し合い、友好ムードをうかがわせていたが、指揮官は「兄弟間でも戦いはある。私は兄とテニスをしていたが、兄に勝ちたいと思っていた。これはお互いにとってサッカーの試合だ。両国は非常に良い関係にあるし、彼は素晴らしい監督だが、互いに勝ちたいと思っている」と力を込めた。

 そしてスペイン人指揮官は最後に自ら言葉を続け、伝説的なF1レーサー、アイルトン・セナの言葉として広く知られ、母国スペインでも使われているという詩的な表現で必勝を誓った。

「決勝に進むのはとても困難なことだったが、決勝に進んで全てが終わったと甘んじるつもりはない。もう1試合が残っていて、それは決勝戦なんだ。スペインには『2位は敗者の1番手(El segundo es el primero de los perdedores)』という言葉がある。2位で終わるわけにはいかない。トロフィーのために戦う。アジア大陸でトップに立ちたいんだ」

(取材・文 竹内達也)

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竹内達也
Text by 竹内達也

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