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高校サッカーで差をつける術に?インハイ全国3位の昌平がGPSを用いた戦術・フィジカルデータ取得、活用をテスト

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 全国の強豪32校の1年生たちがトップレベルの戦いの中で切磋琢磨し、成長を目指す「newbalance CHAMPIONSHIP U-16/2016」が9月17日から19日まで行われた。同大会では、GPSを用いて、サッカーやラグビーなど屋外チームスポーツの戦術・フィジカルデータを取得し現場で有効活用するためのシステム「Field Wiz-フィールドウィズ-」をテスト導入。全国高校総体で4強入りしている昌平高の選手たちがGPS受信器を着用して4試合を行い、10月中旬には同校の藤島崇之監督をはじめとしたコーチ陣に測定された情報やシステムの説明が実施された。

 「Field Wiz-フィールドウィズ-」ではピッチ上移動ゾーン(ヒートマップ)、ゾーン別の侵入回数と距離という戦略・戦術データと、時速18~20kmや時速20~25kmなどスピード帯域別走行距離、加速と減速の大きさ(m/s/s)と回数、心拍データによる代謝的負荷、スピード(最大および平均)というフィジカルデータを取得することができる。「Field Wiz-フィールドウィズ-」を取り扱っているS&Cスポーツ科学計測テクノロジーの代表であり、龍谷大学スポーツサイエンスコースの長谷川裕教授が測定されたデータについて説明。誰が最も走ったか、誰がどのくらいの加速、減速を繰り返していたか、時速24km以上のスプリント回数が多かったのは誰かなどを測定値で示した。中には「ヨーロッパのプロ選手並み」(長谷川教授)というスプリントでの最高速度時速30kmを越えた選手もいたという。

 測定値から個人、個人にどのようなトレーニングをすべきかアドバイスすることも可能。「例えばある選手が素走りで時速30kmで走れていたとします。でも、ゲームで活かせていないとしたら、どこに問題があるのか。出せていると思い込んでいるのと、出せていないと思うのとでは隔たりがありますから。『後半、これだけ足が止まっているよ。どれくらい止まっているかと言ったら前半はこの5分、次の5分にこれだけ走れているのに、(数値によると)後半の最後の方は半分も走れていないじゃないか』と。後半に半分走れていないのか、それとも8割走れているのかによって持久力のレベルも違ってきます。測定によって(個人のフィジカルデータが)数字になってくる。ですから、人と比較してはっきり言えることが説得力や選手のモチベーションになってきます」(長谷川教授)

 データから見えてくるものはフィジカル面だけではない。加速度、減速度の低い選手には、フィジカルベースに課題があるだけでなく、スペースがあってチャンスになる場面で加速しようとする判断力や、決断力を欠いていることも考えられるという。またプレミアリーグのクラブでは日常のトレーニングで1週間前よりもトップスピードが低下している選手の怪我の発見に役立ったという事例も。フィジカルを数値で見ることによる利点はいくつもありそうだ。

 昌平の藤島監督は「(測定値によって)適正を見極めるというか、スピードはそんなに速くないけれど、加速度はあるとか知ることで活用する術はあると思う。今やっているポジションよりも違うポジションでできる可能性に繋げることもできると思います」と印象を語った。終盤までアップダウンする能力に秀でている選手をサイドでテストするなど起用法に活かすことも考えられるだろう。また、選手個々の具体的な数値を知ることで個々が強化すべきポイントに沿ったトレーニングをすることが可能になる。現状、一律のフィジカルメニューを行っているという昌平だが、今後「Field Wiz-フィールドウィズ-」システムを導入すれば、パーソナルトレーニングで弱点克服や特性を伸ばすことに繋げることができるかもしれない。

 また藤島監督は「客観的な評価をしてあげた方が生徒のモチベーションは上がるのかなと思います。実際に我々の目で見ることも大切なんですけど、データ化してあげることで選手のモチベーションが上がってくることもあると思います。やってみて絶対に損はないと思う。客観的に使うところと使わないところは(指導する)こちら側が判断すること」。長谷川教授も語っていたように、数値が選手の努力目標にもなる。測定したデータをどうトレーニングに落とし込むかなどまだまだ考える余地がありそうだが、現場の指導者たちも興味。戦術・フィジカルデータの活用が今後、高校サッカーで差をつける術になるかもしれない。

(取材・文 吉田太郎)

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