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よそ見をしている暇はない。FC東京U-18FW野澤零温はゴールまでの道筋だけを視界に捉える

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FC東京U-18のストライカーを託されているFW野澤零温

[6.26 プレミアリーグEAST第8節 FC東京U-18 1-0 浦和ユース 武蔵野苑]

 プロのピッチに立った経験は、その意識を一段階も、二段階も引き上げる大きなキッカケになった。だからこそ、どこでプレーしていても、一度味わってしまった基準を落とす訳にはいかない。「実際プロのピッチの中で感じたことや、ベンチの中で感じたことは凄く大きなことで、そこで『良い経験になった』で終わらせず、このチームに還元できるように、自分としても成長できるように、と思ってやっています」。FC東京U-18(東京)の18番を背負うストライカー、FW野澤零温(3年=FC東京U-15深川出身)がノリ始めている。

 前半だけで積極的に放ったシュートは3本。23分には2トップを組むFW生地慶多(2年)が右から折り返したボールを、エリア内でシュートまで持ち込むも、相手DFのブロックに遭い、ゴールには至らず。「前半で決められるチャンスはあったので、そこで決めていれば試合をもっとスムーズに進められたんじゃないかなと。そこは反省点です」。ただ、その動きの質には確実にゴールの予感があった。

 後半12分。マーカーをしっかり背負いながら、素早い反転から強引に左足でフィニッシュ。相手に当たったボールはGKもわずかに触り、左ポストに弾かれる。「本当にビッグチャンスでしたけど、あそこでポストに当たったことで、『あ、次も来るな』と思いました」。このポジティブシンキングが、“次”の決定機を引き寄せる。

 後半20分。右サイドでDF中野創介(3年)のパスを受けたMF宮下菖悟(3年)は、そのままダイレクトでクロス。「宮下選手が持ったらクロスが上がってくるというのは自分の中で信じて待っていたので、本当にピンポイントで来て、最後に当てるだけだったので、そこは『ありがとうございます』という感じでした」。豪快なヘディングがゴールネットを揺らす。

 プルアウェイしながら、一度マーカーの視野から消えつつ、点で合わせられるポイントに潜った動きも秀逸。「身長もそんなに大きい訳でもないですし、マークの外し方はトップチームの方で教えてもらったり、練習していたので、外すまでは完璧でした。やっぱりストライカーは僕なんですよね(笑)」。貴重な決勝点に舌も滑らか。このあたりもストライカーらしいし、野澤零温らしい。

 5月19日。味の素スタジアムで行われたYBCルヴァンカップ・グループリーグ第6節の大分トリニータ戦で、後半21分からピッチに送り込まれ、トップチームデビューを飾る。「最初はボールを持っただけで緊張しちゃったんですけど、プレースピードも、本当にボールを持った瞬間にプレスのスピードが速くて、とにかくそこでのプレーは楽しかったので、欲を言えば点を獲って結果を出したかったなというのはあったんですけど、良い経験になりました」。ベンチから見ているのと、実際にフィールドに立った感覚の違いを痛感した。

 中でもトップチームでは、練習から同じポジションの先輩に刺激を受けている。「永井(謙佑)選手は攻守において献身的に走る所が凄くて、ベンチに帰ってきてぶっ倒れるぐらい走っていますし、永井選手もストライカーなので点を獲る所でも良い刺激をもらって、ユースに帰ってきてからも、『自分の目指す所はそこじゃないといけないな』と思っています。プロになるには永井選手以上にやらないといけないですし、永井選手以上に点を獲っていかないといけないなと思っているので、良い刺激をもらったことで、そこの意識は変わったなと思いますね」。“永井選手以上”という基準を得られたことは、何より大きな収穫だ。

 実際にプロの扉を開けつつある自分を自覚しているからこそ、ここからの時間が今まで以上に大切になることも、また同時に自覚している。「自分の中では正直プロでも通用する自信はあって、実際にキャンプでも点を獲っていますし、小平での練習試合でも点を獲っていて、トップの練習でもやれている部分が多かったので、自信はあるんですけど、やっぱりそれを決めるのは周りの評価なので、今日の試合も1点だけではなく、2点、3点と獲って、ユースの中では群を抜いているぐらいの実力を見せないといけないなとは思っています。プロへの道は微かに見えているというか、『可能性はなくはないかな』ぐらいまでは持ってこれている気はするんですけど。今のままではプロになったとしても活躍できないので、質を上げていきたいです」。

 求められているものはハッキリしている。一に結果。二に結果。とにかく結果。すなわち、ゴール。よそ見をしている暇はない。ピッチに立った野澤は今、得点を奪うための道筋しか、その視界に捉えていない。

(取材・文 土屋雅史)
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