beacon

涙や主張することは「恥ずかしいことじゃない」。初の岩手制覇、東北3位の花巻東は自信、喜怒哀楽も持って次へ

このエントリーをはてなブックマークに追加

花巻東高の10番FW作山寛都

[1.31 東北高校新人選手権準決勝 花巻東高 0-1(延長)東北学院高 Jヴィレッジ]

 昨年11月の岩手県新人戦は、2度の逆転勝ちなど接戦を勝ち抜いて初優勝。そして、東北新人戦でも名門・秋田商高(秋田)と鶴岡東高(山形)に勝利し、初の準決勝へ駒を進めた。その花巻東高(岩手)は準決勝で延長戦の末、東北学院高(宮城)に0-1で惜敗。だが、チームにとってとても貴重な3試合になったようだ。

 元日本代表主将の柱谷哲二テクニカルアドバイザーから、「このご時世の中でサッカーを、真剣勝負をやらせてもらえる学校だったり、地域だったり、福島県の皆さんへの感謝の気持ちをプレーで出そう」と後押しされて臨んだ東北新人戦。大会前は、自分たちの力が東北で通用するか、選手たちは自信を持てていなかったというが、走り、戦い切る部分や好守で対戦相手を上回った。

 加えて、主将の10番FW作山寛都(2年)は、「声がウチの特長だと思うんですけれども、苦しい時にみんなで声を出せていたと思うので、それは継続して続けていきたい」と頷く。作山が「中学校から同じチーム(ヴェルディSS岩手)なんですけれども、ああいうのがチームの支えになったりするのでありがたいです」と感謝するCB遠藤朋城(2年)がピッチに声を響かせ、跳躍力や起点となる動きが特長の作山や点取り屋のFW中村翔大(2年)らが個性も発揮しながら戦った。

 仙台や鳥栖、東京Vでプレーした経歴を持つ清水康也監督も「子どもたちにとってはとてつもなく貴重な時間になった。色々なものを経験させてもらいましたし、一年二年やるよりも彼らはこの3日間で色々なことを肌で感じて成長してくれた」と認める大会になった。

 試合を重ねるごとに少しずつ増した自信。だからこそ、東北学院戦の敗戦後、選手たちは本気で悔しがっていた。相手にボールを握られながらも我慢強く戦い、セットプレーなどからゴールを目指したがシュート数はわずか1本。清水監督は頑張りの部分が足りなかったこと、そして「(苦しい展開で)1本持って来れるか、来れないかという力はまだ足りない」と指摘する。まだまだやらなければならないことは多い。

 それでも、東北新人戦は彼らが変わるに十分な3日間だった。清水監督は彼らに忘れて欲しくないことがある。それは、「もっと自信を持って欲しい。(多少の実力差があっても、)同じ高校生なので、もしかしたらということがある。(準決勝も)もっとやったら、もっと何かが起こせたかもしれない、まだ多分、今日の相手も慌てていないです。(今、自分たちが出来る戦いの中で、)自分たちに自信を持って欲しいというか、できるというところを出して欲しい」と求めた。

 花巻東は近年、18年度の選手権予選で準優勝。東北屈指のMFだった谷村海那(現いわきFC)らを輩出しているが、これまで岩手を勝ち抜いた経験がなく、現1、2年生も自信の無さからか喜怒哀楽が少ないという。だが、今大会は自分の気持ちを表現する選手が少しずつ増加。悔し涙も、また今後の成長に繋がるはずだ。

 ヴェルディユース(現東京ヴェルディユース)や国士舘大で育った清水監督は、メンタル面が全てではないことを前置きした上で「悔しいとか、涙を流すことは恥ずかしいことじゃないし、自分の声で主張することも恥ずかしいことじゃない。戦えないことや、(自分から行動を)やれないことが恥ずかしいんだよ、と私は習ったし、そこで一人でも目標を持ってやることが格好良いんだとそういったことを伝えているので、(今回の東北新人戦から)学んで欲しいし、感じてくれたんじゃないでしょうか」と語る。

 自分たちもやれると、という自信、目標達成のために自分たちから発信する力を持って次へ。最終日に存在感ある動きを見せた右SB船山智也(2年)は、「この経験ができたのは岩手県でも2校しかないので、この経験は自分の自信になりましたし、東北の球際の強さを練習でできれば必ず全国大会でもできると思うのでやっていきたい。(これまでの目標は)チームとしては岩手県で勝って歴史を変えるということだったんですけれども、岩手県優勝はもちろんということにしないといけない。全国でも勝って行くチームになっていかないといけない。全国でもどんどん上にいきたい」と意気込み、作山も「自分が(花巻東に)入った理由は全国大会に出て歴史を変えるということなので、この敗戦を活かして次は是非全国で東北学院と試合をして借りを返せるように、日々努力していきたいと思っています」。柱谷テクニカルアドバイザーや清水監督の指導の下、ピッチ外の部分から少しずつ応援されるチームに変わってきた。今回得た結果をチーム全体の自信に繋げ、より上のステージを目指しながら日々を過ごす。

(取材・文 吉田太郎)

TOP