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[プレミアリーグEAST]「日本一のチームになるため、日本一の選手になる」。“ハッタリ”の流経大柏が後半AT決勝弾で劇的勝利!

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流通経済大柏高はMF橿本心(6番)の決勝弾で劇的勝利!

[4.16 プレミアリーグEAST第3節 横浜FMユース 2-3 流通経済大柏高 小机]

 絶叫。歓喜。抱擁。劇的な決勝ゴールを叩き込んだ橿本心がピッチサイドへ向かって走り出すと、ベンチメンバーも含めたほとんど全員の選手が殊勲のスコアラーへと全速力で駆け付け、あらゆる感情がグチャグチャに溶け合った、大きな大きな輪ができる。

「今年はもう本当に『オラオラ系』みたいな感じの流経で、猫をかぶって『マジメです』みたいな感じでやっても無理なので(笑)、そういう感じが出たことで、逆に火が付いたというか、もう戦術がどうのこうのというのは置いておいて、『一緒にやろうぜ』みたいな雰囲気になったので、それが一番良かったかなと思います」(大川佳風)。

 これぞ流経と言うべき、殴り合った末のドラマチックな勝ち点3。16日、高円宮杯 JFA U-18 サッカープレミアリーグEAST第3節、横浜F・マリノスユース(神奈川)と流通経済大柏高(千葉)が対峙した一戦は、流経大柏が2点を先行しながら、横浜FMユースも意地で追い付く展開の中、後半45+1分に途中出場のMF橿本心(3年)が決勝点を挙げた流経大柏が、今季リーグ戦初白星をもぎ取っている。

 先制点は開始早々の前半6分。右サイドでキャプテンマークを巻くDF大川佳風(3年)、MF大沼陽登(3年)とパスを繋ぐと、「相手が滑ると思ったので、右に切り返したら行けるかなと思った」と振り返るFW堀川大夢(3年)が冷静にマーカーを外しながらゴールネットへボールを流し込み、あっという間に流経大柏が1点をリードする。

 以降もペースはアウェイチーム。16分には右サイドからFW大堀柊人(3年)が枠内へシュートを打ちこむと、ここは横浜FMユースのGK高橋太陽(3年)がファインセーブ。17分にはMF竹原伸(3年)が、20分には堀川が相次いでフィニッシュを迎えるなど、「今年は『点獲りたい』ってやつばっかりだから(笑)」と榎本雅大監督も口にするアグレッシブさを披露する。

 一方、「ちょっと入りが悪かったので、『今日は動きが悪いのかな』と予想された中で、特に前半は攻撃でクオリティが出なかったですね」と大熊裕司監督も話した横浜FMユースは細かいミスが多く、なかなか攻撃がフィニッシュに結び付かず。35分にはここまでの2試合で4得点を挙げているFW内野航太郎(3年)がエリア内に侵入するも、放ったシュートは流経大柏DF萩原聖也(3年)が決死のブロックで回避。最初の45分間は1-0で推移した。

 後半もまずは流経大柏に決定機。3分に大堀、堀川と相次いでシュートを打ちこむも、どちらも高橋太陽がビッグセーブで仁王立ち。このワンプレーがチームメイトに火を付ける。ここから「彼らが自分たちで修正できて、ああいう入りができたことは良かったと思います」と指揮官も評価したホームチームは、両サイドの幅をきっちり使いながらチャンスを創出。15分にはMF細川楓(3年)の左クロスをMF松村晃助(3年)が頭で落とし、内野がシュート体勢に入るも、流経大柏DF平川佳樹(3年)が身体を入れて阻止。続く激しい攻防。上がるゲームのテンポ。

 だが、次の得点も流経大柏に。23分にMF都築駿太(3年)が粘って残し、DF岡本亮太郎(3年)が枠へ飛ばしたシュートは、高橋太陽がここも弾き出しものの、直後の右CK。レフティのDF今井祐樹(3年)が蹴ったボールを、頭で押し込んだのは平川。守備でも効いていたCBが待望の追加点。点差は2点に広がった。

 苦しくなった横浜FMユースは31分、松村のパスから内野が完璧なプルアウェイの動きとファーストタッチで抜け出すも、「練習だったらほぼ100パーセントで入るんですけど」というシュートはわずかに枠の右へ。これには思わずストライカーも頭を抱えたが、若きトリコロールの執念がゲームを動かしたのは残り10分を切ってから。

 35分。松村とのワンツーで左サイドを切り裂いたDF池田春汰(2年)のクロスが、ペナルティエリア内で相手のハンドを誘い、PK獲得。キッカーはもちろん内野。「『外しても失うものはないな』と。PKには自信もあるので、特に慌てることもなく『PKが来てラッキー』という感じでした」というエースが冷静にGKの逆を突く。2-1。たちまち点差は1点に。

 39分。左サイドで細川とのパス交換を経て、松村は丁寧なパスを中央へ。巧みにアングルを作って前を向いたFW望月耕平(1年)が右足を振り切ると、ボールはゴール左スミへ力強く飛び込む。「ボックスのところでは非常に非凡なものがあって、ああいう感性は非常に高いです」と大熊監督も評価した1年生が大仕事。2-2。終盤で試合は振り出しに引き戻された。

2点のリードを吐き出しながら、それでも流経大柏の心は折れず。45分に堀川と大川の決定機がまたも高橋太陽のビッグセーブに阻まれても、足は止まらない。45+1分。「堀川を信じて出した」大沼のパスを受けた堀川は、誰もがシュートだと思った瞬間に鋭く切り返し、ボールを後方に落とすと、走り込んだ橿本が打ち切った軌道がゴールネットへ突き刺さる。

「絶対最後の1秒まで諦めないということをみんなで話し合った結果、こういう結果に繋がったかなと思います。『良かったあ』って感じでした」(堀川)「『アシストになるかな』と思ったんですけど(笑)、堀川が冷静に判断してくれて、結局ゴールになったので良かったです」(大沼)「課題は本当に挙げればきりがないんですけど、そういう中でも勝ち点をゲットできたというのは、これから先にも繋がってくると思います」(大川)。3-2。激しい打ち合いを制した流経大柏が、アウェイで鮮やかに今季初勝利を手繰り寄せた。



「『三冠を目標にしているんだったら、日本一のチームには日本一の選手がいないと勝てないよ』って話したんです。日本一の選手がどういうマインドでグラウンドに立っているかと言ったら、『誰にも負けないでしょ』って。“ハッタリ”でもいいから『絶対オレの方がいい選手だ』『絶対上から叩いてやる』って、そういう気持ちがなきゃダメだっていうミーティングを今週は1時間ずつぐらいやったんですよ」。試合後に榎本監督はこう明かす。

 キャプテンを務める大川は、今年のチームを「去年と違ってノリと勢いが大事な代」と評している。2点を奪い、2点を奪われた後に、彼らが前面に打ち出したのは間違いなく『ノリと勢い』。チームの落ちかけたメンタルは、その『ノリと勢い』が駆逐した。最後の最後で会場にいるほぼ全員を“騙した”堀川は、「“ハッタリ”っていうエノさんからの言葉があって、『相手を自分たちより強いと思わない』『日本一の選手になれ』とも言われているんですけど、それは自分も常に意識していますし、自分だけではなくて、周りの選手も意識したからこそ、こういう結果に繋がったかなと思います」と笑顔。こんな雰囲気も実に流経らしいと言いたくなる。

「本当に今日は魂の入った良いゲームだったと思います」と語った榎本監督は、「この勝ち方が一番の収穫でしたね。(活動停止があって)まだちょっとコンディション的には戻っていないけど、それでも気持ちがあるから。こういうことならもちろん『チャンピオンになりたい』という目標を立ててもいいと思うし、こういうメンタリティのゲームをしないと先はないなと思います」と言葉を続けた。

 今はまだ“ハッタリ”でも、それを貫き通すことで自信を纏っていけば、それは必ず本物の力に変わっていく。日本一のチームになるため、日本一の選手になる。今年の流経大柏の“ハッタリ”がどう変化していくかは、注視し続ける必要がありそうだ。

(取材・文 土屋雅史)

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