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[プレミアリーグEAST]躍進の鍵は、攻撃力にあらず。圧倒的な守備の強度を誇る川崎F U-18がFC東京U-18との上位対決に完勝!

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勝利後はチーム全員でハイタッチ。川崎フロンターレU-18の勢いが止まらない

[6.26 高円宮杯プレミアリーグEAST第10節 FC東京U-18 1-3 川崎F U-18 東京ガス武蔵野苑多目的グランド]

 負けず嫌いの敵将が、悔しい想いを押し殺しながら紡いだ言葉に、この首位を快走するチームの凄味が凝縮されている。

「攻撃の方は想定通りでした。自分たちがちょっと緩めればやられますし、それでも上回られる部分は想定内だったんですけど、守備の強度は想像以上だったので、僕たちスタッフがもう少し良い発信をしていないと難しかったのかなと。想定よりも選手は圧を感じたというところだと思います。むしろ、こっちがどのくらい噛みついて守備ができるかというところで、先にやられて、こっちの腰が引けたというゲームでした」(FC東京U-18・奥原崇監督)。

 圧倒的な守備の強度がもたらす、昇格組の快進撃。26日、高円宮杯 JFA U-18 サッカープレミアリーグEAST第10節、3位のFC東京U-18(東京)と首位の川崎フロンターレU-18(神奈川)が対峙した上位対決は、得点ランキングトップのFW熊田直紀(3年)のPKでFC東京U-18が先制したものの、MF志村海里(2年)の同点弾で追い付いた川崎F U-18が、FW岡崎寅太郎(2年)の2ゴールで鮮やかな逆転勝利。2位との勝ち点差を7に広げ、いよいよ独走態勢に入ってきた。

 開始早々の攻防に、好ゲームの予感が漂う。前半6分は川崎F U-18。FW五木田季晋(3年)のパスから、粘った岡崎のシュートはクロスバーにヒット。直後の同じく6分はFC東京U-18。今季リーグ戦初出場のMF俵積田晃太(3年)がドリブルで仕掛け、こぼれを拾った熊田のフィニッシュは、果敢に飛び出した川崎F U-18GK濱崎知康(2年)がファインセーブで凌いだが、早くも決定機を作り合う。

 先にスコアを動かしたのはホームチーム。15分。こちらは第2節以来の登場となったMF生地慶多(3年)が切れ味鋭くエリア内へ切れ込むと、たまらずマーカーがファウル。主審はPKを宣告する。キッカーは熊田。冷静に、力強く、得意の左足でゴールネットを射抜く。1-0。FC東京U-18が先制に成功した。

 1点を追い掛ける展開となった川崎F U-18は、それでもまったく焦らない。「焦らなければ絶対勝てるという、謎の自信じゃないですけど、そういうものがあるので、みんな落ち着いていましたね」(松長根悠仁)「PKという形で失点してしまったんですけど、相手の流れでもなかったので、自分たちのやりたいプレーができれば点は入るかなというのは感じていました」(元木湊大)。その言葉は、確かな結果として証明されていく。

 20分。MF大関友翔(3年)が高い位置でボールを奪い切り、岡崎は走り出した五木田を囮に左へ。待っていた志村がエリア外から思い切りよく右足を振り切ると、ボールは左スミのゴールネットへ転がり込む。前節がプレミア初出場だった2年生アタッカーの2戦連発弾。あっという間にスコアを振り出しに引き戻す。



 33分。一度はボールを失い掛けた流れの中で、再びMF尾川丈(2年)が激しいプレスで奪い返し、中央へ。エリアへ潜った岡崎がマーカーに倒され、今度はアウェイチームにPKが与えられる。キッカーは岡崎自ら。「最初は他のコースに蹴ろうと思っていたんですけど、キーパーの足が全然動かなかったので、そのまま左に蹴り込もうと」駆け引きの中で左スミへグサリ。2-1。逆転。

 44分。丁寧なビルドアップからCB松長根悠仁(3年)のパスを引き出した大関が、素早く右へ展開。走ったDF江原叡志(2年)のクロスにニアで五木田が潰れると、丁寧な胸トラップで収めた岡崎が、ボールを左スミのゴールネットへ流し込む。3-1。川崎F U-18がリードを広げて、前半の45分間は終了した。

 このままでは終われないFC東京U-18も、後半に入るとアクセルを踏み込む。7分には左サイドをDF宮崎奏琉(3年)が単騎で切り裂き、上がったクロスからMF佐藤龍之介(1年)がシュートを放つも、懸命に戻った川崎F U-18の左SB元木湊大(2年)が身体でブロック。22分にも右から佐藤が蹴ったCKに、MF永野修都(1年)が合わせたヘディングはクロスバー直撃。惜しいシーンを創出していく。

 だが、川崎F U-18の守備意識は崩れない。「後半になると疲れも出てくる中で、まずはボールへのジャッジですよね。取られた瞬間に行けるのかどうか。行って、剥がされて、大ピンチを食らうのであれば、どこで構えるのかというところのコントロールはすべて選手に任せています」(長橋康弘監督)。少し相手にボールを持たれる時間が長くなっても、「前から行けなくなった分、後ろではゴールを決めさせないことが目的で、どこでボールを取るかも全員で共有していたので、あまり崩されるシーンもなかったですし、崩されても全員が身体を張れていたと思います」と元木が話したように、ボールを奪う場所とタイミングの“目”を揃え続ける。

 終盤には交代で入ったアタッカーたちが躍動。MF岡野一恭平(2年)は得意の仕掛けでPKを獲得。大関のキックはクロスバーを叩いたが、DF浅岡飛夢(3年)やFW香取武(1年)が積極的にシュートを放てば、DF柴田翔太郎(1年)もドリブル突破で決定機を演出する。

「先制点を獲られても慌てることなく、自分たちのサッカーをすれば必ずチャンスは作れるという自信が見て取れたのかなと思うので、選手たちが成長している1つの目安かなという感じはしましたね」と長橋監督。上位対決に3-1と快勝した川崎F U-18は、第10節を終えて早くも9勝目を記録。“昇格即優勝”の快挙に向かって突き進み続けている。

 長橋監督が試合後、興味深いことを教えてくれた。「トレーニングで『ボールを持っているところからがフロンターレのサッカー』と若干そこを勘違いしている選手がいる印象があったので、『トップの試合をもっとじっくり見よう』と、『実はチャンスってどういうふうに作られているの?』という話をした中で、ちゃんと彼らが分析した上で『やっぱり守備もフロンターレだね』というところを、改めてトレーニングで意識してやってくれているので、それがグラウンドに出ているのかなと思います」。

 トップチームもレアンドロ・ダミアンが、小林悠が、マルシーニョが、前線から果敢にプレスを掛け、中盤でも脇坂泰斗や遠野大弥が相手に寄せ切り、ボールを絡め取っていく。まさに攻撃のための守備。元木が「守備の時はチームでも言われているように、ただプレッシャーを掛けるのではなくて、ここでボールを奪うという気持ちでやるように意識しています。プレッシャーで前を向かせないとか、ドリブルでやられないということではなくて、ボールを奪うことを目的としているので」と口にした言葉にも頷ける、トップチーム同様の絶対的な守備の強度が、川崎F U-18にも確かにある。

 10試合で7失点。驚異的な数字に、ディフェンスリーダーの松長根は「複数失点しないという目標は掲げていて、守備が良ければ負けることはないですし、前の選手は1点は獲ってくれるので、『自分たちがゼロに抑えれば、1-0で勝てるな』という想いはあります」ときっぱり。ここまで全試合にフル出場を続けている主役級の活躍にも、「いいんですよ。守備の人間はおとなしくゼロで抑えれば。全然目立たなくていいので。前の選手が目立てばいいんです」と謙虚な姿勢。だが、このチームを支えているのが彼やDF信澤孝亮(3年)、ボランチのMF由井航太(2年)を中心にする徹底された守備意識だということは、もう隠しようがない。

「『守備は本当に評価できる所だよ』ということは普段から彼らに伝えているところで、勝っていると得点を獲ったところばかりが見られがちなんですけど、後ろの選手がGKの濱崎を含めてかなり粘り強い守備で、チームを助けてくれたゲームが実はかなりあるんですね。そういうところは絶対に見逃しちゃいけないよねと」(長橋監督)。

 この躍進の鍵は、攻撃力にあらず。川崎F U-18がプレミアリーグの舞台で身に付けてきた圧倒的な守備の強度と、そこから来る絶対的なチームに対する自信が、簡単に揺らぐことはなさそうだ。



(取材・文 土屋雅史)
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