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「最後の1年は絶対にプレミアで」。来年度で活動終了…JFAアカデミー福島U-18の3年生が期す後輩たちへの“プレゼント”

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JFAアカデミー福島U-18は最後に返した1点を次に繋げる

[10.23 高円宮杯プレミアリーグEAST第19節 市立船橋高 2-1 JFAアカデミー福島U-18 グラスポ]

 その活動は来年まで、ということが決まっている。高体連でもない、Jクラブでもない、他にはないような立ち位置の中、みんなで積み上げてきたこのチームの集大成として、最後の1年を必ずプレミアの舞台で戦うことは、みんなの共通した強い願いだ。

「もうこのチームでの活動も6年目になりますし、同じ寮や学校で生活してきて、家族よりも長い時間を過ごしている仲間と一緒に、先輩たちが残してくれたものを後輩たちに繋げたい気持ちはあります。ユースが来年で終わってしまうので、このチームに育ててもらった僕たちが、その最後の1年をプレミアという一番注目される舞台に残して、戦わせてあげられることがこのチームでやってきたことの意味だと思いますし、絶対に最後は勝ちたいですね。やり遂げたいです」(JFAアカデミー福島U-18・牧田拓樹)。

 プレミアリーグEASTでシビアな残留争いを繰り広げているJFAアカデミー福島U-18(静岡)。彼らは自分のために、仲間のために、そして後輩たちのために、目の前の試合を、とにかく全力で戦い続けている。

 それは衝撃的な“リスタート”だった。7年ぶりに帰ってきた高校年代最高峰のステージ。昨年末のプレーオフを勝ち抜き、大きな希望を抱いて乗り込んだプレミアリーグの開幕戦で、それは無残なまでに打ち砕かれる。

「本当に凄かったですね。熊田(直紀)くんを見て『こんな選手がいるのか』と思いましたし、手も足も出ない感じで、どうなっちゃうんだろうと思いました」とチームの10番を背負うMF牧田拓樹(3年)が振り返れば、「最初のFC東京戦で『やっぱりプレミアは違うな』ということを思い知らされました」と話すのは、チームで唯一ここまでのリーグ戦にフル出場を続けているDF長尾ジョシュア文典(2年)。FC東京U-18相手に1-4。スコア以上の完敗だった。

 ただ、シーズンを通じてハイレベルな相手と切磋琢磨することで、選手たちは確かな成長の手応えを感じてきている。「毎試合が全国大会のような試合ができていることは当たり前ではないので、先輩たちがプレミアに上げてくれたことがありがたいですし、個人としてもチームとしてもタフになりました。成長はメチャメチャしていると思います」(牧田)「開幕戦に比べれば凄くボールも持てるようになりましたし、自分たちの時間も作れるようになりましたし、あとは選手全体の勝ちたいという気持ちが毎試合毎試合上がっていっているのは感じているので、そういう部分は成長しているのかなと思います」(西眞之介)。

 7月には市立船橋高戦の勝利に続き、開幕戦で圧倒的な力の差を突き付けられたFC東京U-18に1-0で競り勝ち、初の連勝を達成。第14節では首位の川崎フロンターレU-18も撃破すると、前節は優勝争いを繰り広げている横浜F・マリノスユース相手に、3-2と打ち合いの末に勝ち点3を獲得。上位陣と対峙しても決して見劣りしない実力を着々と身に付けていることを、確かな結果で証明してきた。

 横浜FMユース戦の良い勢いを持ち込みたい今節は、11位と降格圏に沈む市立船橋との決戦。試合消化数は10位のJFAアカデミー福島U-18が2試合多い中で、両者の勝ち点差は5まで開いており、この一戦は自動降格を回避するためにもとにかく重要な90分間だ。

 だが、前半10分にセットプレーから先制点を奪われると、「そこからはうまく自分たちの時間が作れたんですけど、そこで決め切ることができなかったですね」とキャプテンのDF西眞之介(3年)も振り返った通り、以降はボールこそ動かす時間を長く作りながら、なかなか決定的なチャンスまでは作り切れない。
 
 すると、後半38分にはカウンターから中央を割られ、2失点目を献上。終了間際には牧田がPKで1点を返したものの、試合はそのままタイムアップ。残留争い直接対決はホームチームに軍配。JFAアカデミー福島U-18は望んだような結果を得ることは叶わなかった。



 チームを率いる船越優蔵監督は、今季のプレミアでの戦いぶりについてこう話している。「開幕戦でFC東京さんとやらせてもらった試合は本当に無残な負け方でしたけど、後期になったら勝てましたし、マリノスにもフロンターレにも上位の1位、2位、3位に勝っているという自信は持ってきています。ただ、自分たちと順位が同じようなチームには勝てないという、そこはまだまだ成長しないといけないなと。サッカー選手として何が大事なのかを考えた時に、このプレミアリーグに残留するために、勝つためには思い切ってやることが本当に大事で、だから上手くなると思うんです。でも、『プレミアじゃなかったらやらないのか』といったら、それはまた違う問題で、もちろん対戦相手にいろいろな能力を引っ張り出してもらっている部分はありますけど、そういうところは僕が常に言い続けないといけないなと思います」。

 もちろんプレミアリーグが素晴らしい舞台だということは大前提ではあるものの、指揮官のマインドは良い意味で今までと何ら変わることはない。「プレミアは選手たちにとっても初めての舞台ですし、なかなか去年は試合に出られていなかった子が多いので、そういった意味では凄く張り切って、『自分たちは絶対に残留するんだ』という想いでやってくれていますし、それが途切れたことは1回もないです。ただ、僕個人的にはプレミアであろうが、プリンスであろうが、県リーグであろうが、試合があるのであれば、それに向けてモチベーションを高く持って取り組まないといけないし、自分が上手くなるためには毎日トレーニングをしっかりやらないといけないと思っています」。まずは目の前のトレーニング。そして、目の前の試合。そこに全力を注ぎこむことは当然のこと。環境に左右されないベースが、JFAアカデミー福島U-18には根付いている。

 前述したようにJFAアカデミー福島は、再来年から本拠地を静岡から福島へと戻す過程の中で、高校年代に当たるU-18の活動は2023年度までということになった。そのため、今年のチームは2年生と3年生の2学年編成。今までより少ない選手でシーズンを進めていくことに、さまざまな難しさがあることは想像に難くない。

「そもそも人が少ないので、ケガをしたり、何かの用事でいなくなったりした時に、プレーできる選手が限られてくるのは、スタッフも相当悩んでいると思うんですけど、自分も相当難しいなと感じています。それでもやらないといけないのは事実なので、そこはもう自分たちが2学年でやっていると思わせないぐらい、1つになってやるしかないかなと思います」と口にした西は、それでもポジティブな側面も明かしてくれる。

「特に最近はいろいろな人が途中から試合に出てきてくれて、それが良い影響になって、試合に出ていない人たちも巻き込んでくれているので、チームが1つになって戦えるようになってきていると思います。それに人数が少ない分、それぞれが関わることも自然と多くなるので、1人1人とコミュニケーションを取る中で、見えるところが多くなったのはキャプテンをやらせてもらって凄く感じるところで、自分も仲間に支えてもらいながら成長させてもらっているなと思います」。逆境は、言い換えれば成長の余地。キャプテンが言い切った言葉が頼もしく響く。

味方に大声で指示を出すJFAアカデミー福島U-18のキャプテン、DF西眞之介


 だからこそ、ラストイヤーはプレミアを戦い抜き、有終の美を飾りたい。2年生の長尾は「自分も高校最高の舞台でもあるプレミアリーグで来年もやりたいですし、3年生も自分たちの代にもプレミアでやらせてあげたいと思ってくれているので、そこは普段から感じています」と“先輩たち”の想いをはっきりと感じている。

「来年はアカデミー福島のU-18としては最後の年なので、もうやるしかないと思っています。3年生が本当の覚悟を持って、残り3節を死ぬ気で頑張って、一戦一戦勝ちにこだわって、後輩たちに良いプレゼントができればいいなと思います」(西)「もうあとがない、崖っぷちなのはわかっていますし、もう全員が1つの方向を向いて、やれることを1日1日積み上げていくしか、できることはないんです。どのチームよりも絶対に練習をやってきている自負はありますし、だからこそ最後にはサッカーの神様が味方してくれると信じているので、僕たちは1日1日を大事に過ごしていって、最後はみんなで笑って終われたらいいなって思っています」(牧田)。

 とにかく、目の前の試合を大切に。できることを、全力で。濃厚な日常を積み重ねてきた仲間との強い絆で結ばれているJFAアカデミー福島U-18の明日は、彼ら自身の手の中に握られている。



(取材・文 土屋雅史)
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