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「勝ち点1」からスタンスと立ち位置変えた旭川実が11年ぶりのプレミア、地元インハイへ挑戦

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旭川実高は2012年以来11年ぶりにプレミアリーグ挑戦

 日本の最北に位置する北海道の中でも北に位置する豪雪地帯に、今季二つの理由から注目校に挙がる強豪がある。2012年以来11年ぶりとなる高円宮杯プレミアリーグへの復帰を果たし、さらに地元開催のインターハイも控える旭川実高だ。

 1月も半ばを過ぎたこの時期、地元を離れ、チームは週末を利用して御殿場でジャパンユーススーパーリーグの試合へ臨んでいた。内容的には芳しいものではなかったが、無理からぬ理由がある。

「広いグラウンドでボールを蹴るのは久しぶりですからね。まあ、こんなもんですよ」

 チームを率いる富居徹雄監督はそう言って笑った。「まあ、毎年のことなので、慣れているし、わかっているというのはあります」と言うように、現状への焦りはない。

 全国高校サッカー選手権への出場を逃した旭川実は、冬休みを利用して御殿場で過ごした後、地元へ帰ってのトレーニングを続けていた。いわゆる“サッカー”の練習は難しい中で、主な練習場所は体育館。細かいボールテクニックや短い距離での連携を磨きつつ、筋力トレーニングを含めて11対11のサッカーから少し離れて「徹底して個にフォーカスする」(富居監督)時期だと割り切っているわけだ。

 それゆえに、この時期に本州のチームと試合を組めば、「すぐに慌てちゃうし、遠くを見られなくなっている」(富居監督)現状が露骨に出てしまうのだが、一方で個々のコンタクトプレーでの強さなど強みもしっかり出せていた。「実際、体の強い選手は多いと思う」と指揮官も自信を見せるとおり、雪の期間に徹底して個人を鍛えたからこそ存在している個々のベースは、旭川実の伝統的なストロングポイントである。

 ただ、「今年はゆっくりしてばかりもいられない」(富居監督)理由もある。日本の育成年代最高峰リーグである高円宮杯プレミアリーグに11年ぶりの帰還を果たしたからだ。

 その11年前は、年間を通して「勝ち点1」に終わり、最下位で降格する憂き目にあった。当時の経験は現在の部員にも語り継がれているそうで、ゲームキャプテンを務めていたMF百々楽に当時の話を振ると、「10年前は勝ち点1だったので」とパッと戦績の話も出てきた。

 11年前の降格に際し、「この経験を無駄にするつもりはありません。もっともっと力をつけて帰ってきたい」と語っていた富居監督は、強化の目線を上げてのチームビルディングに取り組み続け、今季からの復帰を果たした。同じ轍を踏むつもりはない。

 11年前と大きく異なる点は「コンサドーレのいないところで勝ったのではなく、コンサドーレのいるプリンスリーグ北海道を勝てるようになってきたこと」(富居監督)だろう。

 札幌U-18は2003年から10年にかけての8年間でプリンスリーグ北海道を7度制覇。旭川実は11年に初優勝、15年に2度目の優勝を飾っているが、これはまさに札幌U-18がプレミアリーグを戦っていた「コンサドーレのいないプリンスリーグ北海道」。しかし、18年に「コンサドーレのいるプリンスリーグ北海道」を初めて制すると、20年と22年にも優勝。過去5年で3度の優勝、しかも昨年は2位と勝ち点8差、3位の札幌U-18とは勝ち点11差をつけての優勝だった。「昨季は練習試合含めて1度もコンサドーレに負けなかった」(富居監督)事実が一つの自信になっている。

 富居監督は「10年前にプレミアリーグへ参加してから、ウチのスタンス、立ち位置が変わった」と言う。全国レベルの相手と日常的に戦う環境に初めて身を置く中で、もっと高い基準を持って取り組む必要性を痛感した経験は今も生きている。

「やっぱり北海道はどうしても“島国”になってしまう面があります。触れられる情報量にも経験値にも差が出てくる。北海道の子が3か月に1度くらい味わうものを関東の子たちは日常的に経験している」(富居監督)

 だからこそ、北海道のチームがプレミアリーグにいる重要性も痛感している。ホーム&アウェイ方式のプレミアリーグでは必ず旭川でホームゲームがあり、ゲームに出た選手が体感する刺激はもちろん、見守る人たちにも伝わる部分が必ずあるからだ。厳しい舞台なのは百も承知だが、「何も分かってない中でポンと上がってしまった」(富居監督)11年前とはチームができる準備も違う。

 全国レベルの相手と毎週ぶつかる経験は、夏の旭川を舞台に開催されるインターハイにも当然生きてくる。「プレッシャーはありますよ」と指揮官は笑って言いつつ、「二つの大きな大会が同時に旭川にやって来るのは、この地域の子どもたちにとって本当に大きいと思う」と笑顔を見せる。

「ここから冬眠に入りますので」と指揮官は冗談めかして語るように、雪深い土地のチームゆえに4月1週目に開幕するプレミアリーグに照準を合わせるのは容易ではない。ただ、2度目の最高峰リーグへ臨む旭川実には、先輩たちが残してくれた過去の経験と蓄積がある。同じ戦いにするつもりはない。

(取材・文 川端暁彦)

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