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[MOM4326]甲府U-18GK高橋黎光(3年)_みんなには内緒で決めていた「全国か、引退か」。負けたらラストゲームのPK戦で“甲府のレアル”が圧巻の3本ストップ!

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ヴァンフォーレ甲府U-18GK高橋黎光(3年=ヴァンフォーレ甲府U-15出身)は負ければ引退のPK戦で圧巻の3本ストップ!

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[6.11 日本クラブユース選手権関東予選3代表決定戦3回戦 甲府U-18 1-1 PK7-6 三菱養和ユース 駒沢補助競技場]

 みんなには言っていなかったけれど、もう自分の中では決めていた。勝てば全国大会。負ければ引退。だからこそ、ユース最後の試合になるかもしれないこのPK戦は、楽しもうと思っていた。でも、もちろん負けるつもりなんて毛頭ない。もう少しだけ、この最高の仲間と一緒に、同じ目標を追い掛けたいから。

「みんなには『自分が止めるから』という声を掛けていましたけど、本当に自分が止めないと全国に行けないので、最後は気持ちだと思って、その気持ちで押し切りましたね。相手が外した瞬間にみんなが走ってくる景色は最高でした。もうアレはヤバかったですね」。

 関東最後の全国切符を執念で手繰り寄せたヴァンフォーレ甲府U-18(山梨)。PK戦までもつれ込んだ代表決定戦で、相手のキックを3本もストップしたGK高橋黎光(3年=ヴァンフォーレ甲府U-15出身)の覚悟が、チームに大きな歓喜をもたらした。

 甲府U-18は前日に大敗を喫し、この日の試合に向かっていた。第47回日本クラブユースサッカー選手権(U-18)大会関東予選3代表決定戦。勝てば全国が決まる2回戦は栃木SCユースと対峙したものの、スコアは1-5。関東最後となる第11代表の権利は3回戦の結果に委ねられる。

「チームとしては『明日しかない』という状態だったので、すぐ切り替えてやるだけでしたね。個人としても昨日は自分のミスで失点してしまったんですけど、もう映像を見ても負けは変わらないので、今日全国を決めるために最高の準備をしてきました」。高橋も気持ちの切り替えはもうとっくにできていた。

 試合中から“ゾーン”に入っているような感覚があったという。前半27分には決定的なヘディングを枠内へ打ち込まれたが、「アレはヘディングされた瞬間にボールが高く上がって、『すぐ飛んでも届かないな』と思ったので、すぐにボールの落下地点を見極めて、思い切り飛んだら身体が伸びたという感じです」と振り返る高橋はビッグセーブでボールを掻き出す。

 後半に入って先制こそ許したものの、その3分後にはすぐさまチームも追い付き、90分間は1-1で終了。延長戦は設けられておらず、勝敗の行方はすぐにPK戦で争われることになる。

 実は高橋は並々ならぬ想いで、この試合に臨んでいた。「正直このクラブユースが終わったら、自分はサッカーをやめようと思っているんです」。将来のことを考えて、大学進学に向けた勉強に専念するため、甲府U-18での活動にはこの大会で区切りを付けることを決めていた。

 みんなにはあえて黙っていた。「それを言うことで、逆に『変に意識されたら嫌だな』と思って、言わないようにしていました」。そのことを知っていたのは、U-12から9年間を一緒に過ごしてきたキャプテンのDF櫻井秀都(3年)とMF中村瑠志(3年)だけ。チームメイトのこの大会に懸ける想いを痛感していたからこそ、高橋は自分のことで余計な邪念を抱かせたくなかったのだ。

 全国か。引退か。チームの未来も、自身の未来も懸かった運命のPK戦。「始まる前ぐらいから止められる感覚があったので、あとは相手と向かい合った時に、勘で思った方に飛ぼうと思っていました」。不思議と、頭の中はクリアだった。

 先攻の甲府U-18の1人目が外して迎えた、三菱養和ユースの最初のキッカー。高橋はキャプテンの言葉を思い出していた。「キャプテンの櫻井が練習の時に『右手を出したら右の方に蹴ってくるから、そっちに飛んでみろ』と言ってくれて、9年間一緒にやってきた仲間なので、仲間を信じて右手を出して、自分の得意な方に飛んだら、上手く当たってくれた感じでした」。まずは1本ストップ。

 甲府U-18の2人目は成功。続く三菱養和ユースの2人目。ノッている守護神には、運も引き寄せられていく。「アレは狙っていないんですけど、左足が上手く残ってくれて、それでボールに当てたら、また止められちゃいました(笑)」。これで2本ストップ。

 サドンデスに突入した7人目。先攻の甲府U-18のキッカーは、相手GKのセーブに遭う。決められれば、その時点でチームの敗退と自分の引退が決まる運命の1本。集中力を極限まで研ぎ澄ますと、自身の左に飛んできたボールを右手1本で弾き出す。

「味方が点を獲って引き分けにしてくれたこともありましたし、7人目で止められたのも後輩でしたし、先輩として止めなきゃなと思っていました。本当に人生であそこまでのセーブは初めてです」。圧巻の3本ストップ。

 決着は10人目で付いた。相手のキッカーが蹴った軌道が枠を外れ、勝利が決まった瞬間、自分に向かってチームメイトたちが叫びながら走ってくる。「相手が外した瞬間にみんなが走ってくる景色は最高でした。もうアレはヤバかったですね」。もみくちゃになりながら、気付けば涙が頬を伝っていた。

「今日は主役を持っていかれましたね。PKの練習をしている時は『黎光、大丈夫かな』と思っていたんですけど(笑)、やっぱり試合になったら黎光がメッチャ大きく見えました」とDF伊藤柚太(3年)が話せば、「神懸っていましたね。みんなの気持ちが伝わったのかなと思います」とはチームを束ねる内田一夫監督。「関東で終わりじゃなくて、みんなと全国まで行って、違う道に進もうと思っていた」という高橋が思い描いていたプランは、現実のものとなった。



『黎光』と書いて、『れある』と読む珍しい名前について、その由来は言うまでもないだろう。「親がレアル・マドリードが好きなので、『銀河のように輝け』という意味だと聞きました」。みんなとボールを追い掛けられる期間は、さらに1か月半近く伸びた。その先には銀河のように輝くための、全国大会というステージが待っている。

「ヴァンフォーレは本当に家族みたいな場所で、しんどい時も、辛い時も、楽しい時も、ともに戦ってきた仲間たちなので、良い場所に出会えて良かったなと思っています。チームとしては全国1位を目標として掲げていて、自分はゴールを決めることはできないので、とにかく失点ゼロで終わることと、チームを優勝させられるようなキーパーになっていきたいと思います」。

 もうあとは、最高の仲間と一緒に過ごせる時間を楽しむだけ。最後の晴れ舞台に挑む高橋の躍動を、真夏の群馬が待っている。



(取材・文 土屋雅史)

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