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掲げるのは「日本のバスク」への大いなる挑戦。白熱の北関東ダービーで水戸ユースとドロー決着の栃木U-18は最終節にプリンス2部優勝と1部昇格を懸ける!

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白熱の北関東ダービーは両者譲らずドロー決着!

[11.25 高円宮杯プリンスリーグ関東2部第17節 栃木U-18 1-1 水戸ユース 壬生町総合公園陸上競技場]

 それは壮大な理想かもしれない。でも、50年後まで、それこそ100年後まで、このチームがこの地に根を張り続け、多くの人の夢を繋ぎ続けていくためには、それぐらいの理念を掲げ、進むべき未来を思える人たちがいることこそが、クラブの大きな財産であることに疑いの余地はない。

「ウチには栃木の選手しかいないんですけど、ある意味『バスク地方のチーム』みたいな想いは持っているつもりではあるんですね。自分たち栃木の人間が、関東の中で、あるいは全国の中でどのくらいできるかと、そういう気概を持っているので、そういうものを発揮するために、見せるために、示すためにやっている部分はあります」(栃木SC U-18・只木章広監督)。

 白熱のユース版北関東ダービーはドロー決着。25日、高円宮杯 JFA U-18サッカープリンスリーグ 2023関東2部第17節で栃木SC U-18(栃木)と水戸ホーリーホックユース(茨城)が対戦。前半3分にFW村上竜規(3年)のゴールで栃木U-18が先制したものの、後半24分には水戸ユースもFW田口聖(3年)が同点ゴールを叩き込み、結果は1-1で引き分け。栃木U-18の2部優勝と1部昇格の決定は最終節へと持ち越しになった。


 試合は開始早々に動く。前半3分。この試合に勝利すれば来季のプリンス関東1部昇格が決まる栃木U-18は、左サイドで時間を作ったMF佐藤佑磨(3年)のパスから、オーバーラップしてきたDF臼井春翔(3年)は「入りから前に行こうと思っていたので、良い形で、狙い通りのクロスでした」と素晴らしいボールを中央へ。待っていた村上の冷静なシュートがゴールを打ち破る。「力ではなくて、ボールを足に当てるところだけ意識して、ゴールに押し込むという感じでした」と振り返る9番が大仕事。ホームチームがあっという間に1点のリードを奪う。

先制ゴールを喜ぶ栃木U-18の選手たち


 以降もペースは栃木U-18。「立ち上がりに良い形で入れれば、自分たちのペースで進められると思っていました」というキャプテンのMF石川丈慈(3年)とMF永井心温(3年)で組んだドイスボランチの回収と配球から、右のMF舘野勇輝(3年)、左の佐藤と両サイドハーフが躍動。10分には石川が右へ流し、舘野のクロスにFW金沢優介(2年)が合わせたヘディングは枠を越えるも好トライ。21分にもルーズボールを拾った臼井が枠内シュートを放つも、ここは水戸ユースのGK小堀椿葵(2年)がファインセーブ。さらに31分にも右サイドバックのDF小幡心(3年)のフィードから、抜け出した村上のシュートはクロスバーの上へ。2点目には届かないが、攻勢を強めていく。

 ただ、「栃木さんが分析していた形とは違うシステムで来たので、最初は受け身になってしまった部分があったんですけど、そこに気付いて、『ビルドアップも我々がいつもやっている形でできるよ』という話をしてからは落ち着いてボールを持てましたね」と冨田大介監督も口にした水戸ユースは、35分を過ぎるとDF前野風杜(2年)とDF市野沢大成(3年)のセンターバックコンビと、キャプテンを務めるボランチのMF大澤羽穏(3年)の3枚でボールを動かし始め、少しずつ攻撃の芽が。44分にはDF島田佑樹(2年)の右クロスから、ニアに飛び込んだMF渋谷一希(3年)のボレーはわずかに枠の右へ外れるも、アウェイチームも反攻の意欲を示した前半は、栃木U-18が1点のアドバンテージを握ってハーフタイムへ折り返す。


 後半に入ると、全体の構図はより明確に。ボールを握る水戸ユースに対し、ボールの奪いどころを探る栃木U-18。水戸ユースはボランチに入った大澤とMF青沼龍之介(3年)のボールタッチも増加。10番を背負った左サイドバックのMF吉井拓真(3年)がMF橋本峻(3年)と左サイドで基点を作れば、右も島田とMF桃井俊輔(2年)の縦関係で突破を試みるなど、全体の重心が上がっていく。

 それでも「我々はいつも相手に持たれてしまうような感じなので、それで分が悪いとは特に思っていなかったですね」と只木章広監督も話した栃木U-18はGK熊倉成希(3年)に、DF安齋大輝(3年)とDF本橋頼(3年)のセンターバックコンビを中心に、相手のポゼッションにも左右にきっちりスライドして対応。「後半は相手も全力で来ますし、そこで攻められる時間が多くなるというのはある程度予測していました」(石川)。丁寧に時計の針を進めていく。

 青の一刺しは後半24分。その10分前にDF堀口優人(3年)が左サイドバックへ投入されたことで、1列前にスライドしていた吉井が鋭いドリブルからクロスを上げ切ると、走り込んだ田口のヘディングが鮮やかにゴールネットを揺らす。「あそこで吉井が抜き切ってクロスを上げられるという確信があると、中も入っていきやすいので、そういうものが形になったのかなと。田口もよく決めたなと思います」(冨田監督)。目の前での歓喜は見たくないアウェイチームの意地。1-1。スコアは振り出しに引き戻された。

水戸ユースはFW田口聖が同点ゴールを奪う!


「もう引き分けで終わりなんてことはまったく考えていないと。ハッキリ言ってしまえば、『やられてもいいから打って出よう』というのが、根本的な哲学です」(只木監督)。追い付かれた栃木U-18は、攻める。31分。途中出場のDF山崎柊(3年)を起点に永井が左へ振り分け、佐藤がクロス。小幡の折り返しは、よく戻った水戸ユースの前野が何とかクリア。40分。本橋に舘野と繋いだボールから、臼井が叩いたミドルはゴール右へ。水戸ユースもFW菊地昭弘(2年)とDF相川将翔(3年)を終盤のピッチへ送り込み、最後まで勝利への意欲を前面に。集まった両チームのサポーターも、最後の声援を振り絞る。

 8分近いアディショナルタイムが過ぎ去ると、主審の長いホイッスルがピッチに響く。「良い形で先制してから2点目、3点目を奪えたら理想の形だったと思うんですけど、相手に失点を与えてしまってからは、自分たちが点を獲りに行く力が足りなかったのかなと思います」(石川)「栃木さんは全員の個々の能力が高くて、穴のないチームだと思うんですけど、その中で我々の状況や順位をいろいろ含めた中で、選手たちは良くやったかなと思います」(冨田監督)。ファイナルスコアは1-1。両雄が勝ち点1ずつを分け合う結果となった。


 まずはこの試合の空気を醸成した、両チームのサポーターの存在は語り落とせない。「なかなかこういう雰囲気の中での試合は高校生でできないと思うので、こういう機会を作ってくださって、本当にありがたいなと思います」と只木監督。「今回は今までで一番ぐらいサポーターが来てくれて、サポーターの声や後押しは自分たちの力になるので、本当に毎試合感謝していますね」と臼井が話せば、キャプテンの石川も「これだけ多くの声援の中で試合をやるということは当たり前ではないと思いますし、栃木SCだからこそこういう経験ができると思うので、こういう経験を力に変えて、見ている人たちを魅了したり、心を動かせるゲームを自分たちもできたらいいなと思います」と語っている。

 この“ダービー”を選手としても経験している水戸ユースの冨田監督が紡いだ言葉も印象深い。「なかなかユースの試合でサポーターの方がここまで来て下さることは多くないと思いますし、栃木さんも勝てば昇格という状況で、クラブを挙げてという状況はわかっていましたので、『この雰囲気の中でサッカーをできることは凄く幸せだよ』という話をしました。ただ、我々にもプライドがある中で、『北関東ダービーはトップ、アカデミー関係なしに負けられない試合だよ』と。『トップは勝てていないので、我々が借りを返しましょう』という話はさせてもらいました。この状況にもう1つ『薪をくべる』じゃないですけど、エネルギーにさせてもらったかなと思います」。プリンスリーグの舞台で実現した『北関東ダービー』もまた、間違いなく熱かった。

スタンドに詰めかけた栃木SCサポーターが黄色と青のフラッグで選手たちを鼓舞する


 この日のドローという結果に加え、2位の桐蔭学園高と3位の桐光学園高が揃って勝ったため、目前に迫っていた栃木U-18の2部優勝と1部昇格は、最終節へと持ち越されることになった。ただ、ようやく辿り着いたプリンスリーグ参入1年目でここまでの結果を残していることは、彼らが着実に蓄えてきた実力とポテンシャルを間違いなく示している。

 2015年に現役時代を過ごした栃木SCへ指導者として帰還し、U-18での指導は5年目のシーズンを迎えている只木監督は、「去年も良い経験を積ませてもらいましたし、今年の3年生はずっと中心的にやっていた年代ではあったんですよね。あとはジュニアユースからずっと同じグループでやっているというのも強みではあると思うんですけど、そこにユースから新たに入った選手が凄く刺激になっていて、水を運ぶ役をやってくれているところもあるので、ありがたいなと思っています」と話しつつ、チームの全員が栃木出身者だという状況についてもこう語っている。

「それはもうこだわっています。もちろん外の子を受け入れないというわけではないんですけど、必然的にそういう環境になっているので、そこも大事な要素なんじゃないかなと。Jリーグの理念を踏まえても、どこまでやれるかというところにトライすべきだとは思っています。栃木の子は頑張り屋さんが多いですからね」。

「もちろん戦うステージも大事なんですけど、たとえば県リーグだからどうとか、プリンスリーグに入ったからどうということではなくて、とにかく与えられたステージや環境の中で、より高みを目指して、仲間としのぎを削ってやるしかないと思うので、それでやっと結果が付いてくるんじゃないのかなと思いますし、こうやって応援しようと思ってもらえるんじゃないのかなって。みんなでサッカーにエネルギーをいっぱい使って、ひたむきに、一生懸命やったら絶対に良い人間になれるんですよ。ウチは本当にいいヤツばっかりで、みんなまっすぐですし、僕がもうちょっと丁寧に教えてあげられればもっと上手くなるんでしょうけど、つい『行け!』って言っちゃうから、そこは『しょうがねえな』と思ってやってもらいたいですね(笑)」。

 最終節は矢板中央高Bとの一戦。今度は“栃木ダービー”が、チームの新たな歴史の扉をこじ開けるための舞台になった。U-12からこのクラブでプレーしてきた臼井は「僕はチームに何かを残して大学に行きたい想いは誰よりも強いと思っていますし、この仲間とできる最後の1試合なので、後悔のないように、今までで一番良い試合にできるように、高い意識を持ってやっていきたいと思います」と“最後の1試合”へ想いを馳せる。

「去年の先輩がプリンスリーグ2部という舞台を残してくれたので、その経験は無駄にできないですし、自分たちは後輩にプリンスリーグ1部という舞台を残して、引退できたらいいなとはシーズン最初から思っていました。目の前の試合に向けて、自分たちがやるべきことをしっかりやっていけば、結果は付いてくると思うので、それを信じて1週間やっていきたいと思います」(石川)。

 栃木の地から掲げる明確な理想と野望。『日本のバスク』への大いなる挑戦。2023年のラストゲームに、栃木U-18は自らの未来を懸けて、堂々と立ち向かう。



(取材・文 土屋雅史)

土屋雅史
Text by 土屋雅史

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