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「ゲームの世界の選手」との対峙と年代別代表で膨らんだ向上心。川崎F U-18MF尾川丈は戴冠を懸けた「9年間の集大成」へ挑む

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川崎フロンターレU-18の10番を背負う司令塔、MF尾川丈(3年=川崎フロンターレU-15出身)

[11.18 高円宮杯プレミアリーグEAST第20節 FC東京U-18 0-2 川崎フロンターレU-18 東京ガス武蔵野苑多目的グランド]

 到達したいと願う場所への目線は上がり続けている。この年代最高峰のリーグで過ごす日常も、日の丸を背負って戦った緊張感も、ゲームで見ていたようなワールドクラスの選手たちとの邂逅も、すべてはこれからもっともっと成長していくための、大事な、大事な、経験だ。

「物凄く良い経験ができていると思います。それと同時に、今は同年代でJリーグで活躍しているような選手もいますし、自分もそこに追い付いて、追い越していかないといけないと感じているので、そこに向けて頑張っていきたいです」。

 プレミアリーグEAST連覇を狙う川崎フロンターレU-18のナンバー10。MF尾川丈(3年=川崎フロンターレU-15出身)がクールな風貌に秘めた確かな闘志は、日に日に静かな炎を今まで以上に強く、強く、燃やし始めている。

 1か月近い中断を経て、再開された高円宮杯プレミアリーグ。FC東京U-18とのアウェイゲームに臨む川崎F U-18には負けられない理由があった。まず1つは夏の雪辱だ。「クラブユースで負けた相手ということで、あの時は凄く悔しい想いをしたので、『絶対に負けない』という気持ちはチームとしてありました」と尾川が話したように、夏のクラブユース選手権ではラウンド16でFC東京U-18に1-2と競り負け、川崎F U-18は敗退を強いられたため、リベンジマッチという意識は選手たちにもあったという。

 もう1つは中断を目前に戦った90分間の苦い思い出だ。10月25日に市立船橋高と激突した一戦は、前半で2点を先制したものの、後半に3失点を喫しての大逆転負け。「ああいう負け方をしてしまったので、凄く気持ち的に“来る”部分はあったんですけど、しっかり切り替えて、このFC東京戦に向けてはチームとしても個人としても、少しでも練習から成長することは意識してきたかなと思います」(尾川)。悔しい経験を糧に、この日へと向かってきた。

 ゲームは前半のうちにMF岡野一恭平(3年)のゴールで先制すると、後半はなかなか次の1点が遠い時間が続いたが、エースのFW岡崎寅太郎(3年)が追加点を奪って、2-0で快勝。尾川は「2-0で勝ち切れたのは良かったですけど、後半の入りで結構危ないシーンが多くなったり、2点目を獲るまでが結構掛かりましたし、もっと点を獲っていけるようにしていかないと、この前の市船戦みたいになってしまう可能性もあるので、そういうところを改善していきたいなと思います」と気を引き締めたが、何より大事な勝ち点3の獲得に、試合後の選手たちは安堵の表情を浮かべた。

 昨シーズンは不動の右サイドハーフを務めていた尾川は、今季に入って1トップ下を主戦場にしていたが、夏前からはさらにボランチへとコンバート。「トップ下だとなかなかボールを触る機会が少ないですけど、ボランチだと自分でボールを受けに行けば、何回でもボールを受けられますし、もともとボランチもやってみたいなという想いはあったんです。ボランチ、面白いです」とポジティブに新ポジションへ取り組むと、8月にはSBSカップに参戦するU-18日本代表に招集される。

 自身初となる年代別代表での活動は、新鮮な驚きと悔しさの連続だった。「もともとはそこまで代表を意識していたわけではなかったんですけど、入ったからにはやってやろうと思っていました。でも、なかなか自分の特徴や良い部分は出せなかったですし、一番の課題は守備の部分ですね。チームとしても個人としても、守備の部分は思ったようなプレーができなかったので、意識して改善していきたいなと思いました」。

 とりわけ守備の重要性を突き付けられたのは、大会最終日のU-20関東大学選抜戦。スタメンに指名された尾川は、ハーフタイムでの交代を余儀なくされる。「正直メチャメチャ悔しかったです。一番は守備の部分のことを言われましたけど、攻撃の部分も何もさせてもらえなかったので、とにかく悔しかったです」。周囲の仲間も、対戦相手もレベルが上がる中で、改めて自分に足りない部分を見つめ直す機会となった。

U-18日本代表の一員としてSBS杯を戦った


 ちなみに、この最終日の一戦でドイスボランチを組んだのは、1つ年上で今季からトップチームに昇格した川崎フロンターレの大関友翔。「去年の自分は右サイドハーフをやっていたので、ボランチで一緒にやることはなかったんですけど、コミュニケーションを取りながら、上手くやれたのかなとは思います」と尾川は“先輩”と一緒に中盤で並んだ45分間を振り返ったが、こういう“再会”が実現するのも戦うステージが上がったからこそだろう。

 7月末には、川崎Fが国立に世界的強豪のバイエルン・ミュンヘンを迎えた一戦で、ベンチ入りを果たした尾川は後半41分からピッチへ解き放たれる。「ゴレツカ選手とか、コマン選手も出ていて、ほとんどの選手を知っていました。自分はよくサッカーゲームをやるんですけど、もうその感覚に近いですね。『もうこれってゲームの世界の話だよな』って(笑)」。

 短い時間ではあったが、実際に肌を合わせた“ゲームの世界の選手たち”は、やっぱり凄かった。「プレシーズンだったこともあってか、自分が出た最後の時間帯は相手も少し疲れていて、あまりプレッシャーもなかったんですけど、1回身体がぶつかった時のフィジカルの違いだったり、スピードの違いは凄く感じましたね。でも、それに追い付いていかないといけないと思うので、自分もそういう舞台に行けるように頑張っていきたいです」。まだ彼らを基準に置くまでにはいかないけれど、いつかあのレベルへ追い付くために、できることは日常をきちんと積み重ねていくことだけだ。

 残されたプレミアリーグもあと2試合。昨年の雪辱を期すその先の“1試合”、すなわちファイナルも戦うために、持てるものすべてをこのチームに捧げる覚悟はとっくに決まっている。

「自分は小学校4年生からこのフロンターレというチームに入らせてもらっているので、9年間の集大成として、まずはチームみんなでEASTを優勝して、去年成し遂げられなかったファイナル優勝を全員で、チーム一丸となって成し遂げられるように頑張っていきたいです」。

 青く静かに燃える闘志をたぎらせた、川崎F U-18の司令塔。尾川は自らが辿ってきた『9年間の集大成』の先に、埼玉スタジアム2002の表彰台でカップを掲げる未来を、きっと思い浮かべているに違いない。



(取材・文 土屋雅史)
●高円宮杯プレミアリーグ2023特集
土屋雅史
Text by 土屋雅史

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