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全チームから勝点獲得達成!尚志は前年王者・川崎F U-18撃破でプレミア2位と大躍進も「悔しさという伸びしろ」を携えて選手権で日本一獲りに挑む!

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プレミア最終節の激闘、「等々力決戦」はアウェイの尚志高に軍配!

[12.3 高円宮杯プレミアリーグEAST第22節 川崎F U-18 1-2 尚志高 等々力陸上競技場]

 残留を目標にスタートしたシーズンは、途中から頂点を狙う戦いへと変化した。全チームから勝点を獲得し、前年王者もアウェイで撃破し、過去最高の2位でプレミアリーグを駆け抜けた。でも、悔しい。本気で獲りに行ったからこそ、タイトルを逃したことが。残された最後のチャンス。選手権でこそ、全員で笑って優勝カップを掲げたい。

「今日の勝利で全チームから勝点を獲るという小室(雅弘コーチ)さんが掲げてくれた目標を達成することはできたけれど、2位という結果で終わったので、悔しさはあります。でも、その悔しさが選手権へのモチベーションになると信じているので、ここからの期間がより大事だと思っています」(尚志高・渡邉優空)。

 白熱の等々力決戦はアウェイチームに軍配。3日、高円宮杯 JFA U-18 サッカープレミアリーグEAST第22節、2位の川崎フロンターレU-18(神奈川)と3位の尚志高(福島)がともに優勝の可能性を残して激突した一戦は、アウェイの尚志が2トップのFW笹生悠太(3年)とFW網代陽勇(3年)のゴールで2-1と勝利。他会場で首位の青森山田高が勝利したために逆転戴冠とはならなかったが、躍進のシーズンを堂々の2位で締めくくっている。


「ちょっと緊張から来るものなのか、最初の方は動きが硬かったかなと思いますね」と長橋康弘監督も振り返ったように、ホームの川崎F U-18は序盤からボールは握るものの、もう一手の思い切りが悪く、なかなかフィニッシュまで至らない。対する尚志は「試合前から回されることは想定内」とボランチを務めるMF神田拓人(3年)。きっちりブロックを敷きつつ、圧倒的な突破力を有するMF安齋悠人(3年)という“飛び道具”も忍ばせ、虎視眈々と反攻の機会を窺う。

 すると、スコアが動いたのは14分。このゲームで初めて獲得したCKをDF白石蓮(3年)が左から蹴り込み、DF市川和弥(3年)のヘディングは川崎F U-18のGK濱崎知康(3年)にファインセーブで阻まれたものの、これで再び得たCKを白石はニアへ。網代がフリックしたボールをMF若林来希(3年)が粘って残すと、笹生が頭で合わせたボールはゴールネットへ吸い込まれる。「今日は福島から応援団が来てくれたり、地元の友達も含めていろいろな人が来てくれたので、本当に決められて良かったです」と笑った関東出身の12番が見事な先制弾。尚志が1点のリードを奪う。

尚志はFW笹生悠太(12番)のヘディングで先制!


 ビハインドを負ったホームチームは、ようやくスイッチが入る。20分にはMF矢越幹都(2年)、MF尾川丈(3年)、FW岡崎寅太郎(3年)とスムーズにボールが回り、尾川のラストパスからMF岡野一恭平(3年)が枠に収めたシュートは尚志不動の守護神・GK角田隆太朗(3年)がキャッチしたものの、流れるようなフィニッシュを。39分にはセンターバックのMF由井航太(3年)のオーバーラップから、最後は岡崎が枠を越えるシュートまで。「あの2列目からどんどん出てくるようなパスワークが止められなかったんですけれども、失点はしなかったのでよく耐えたなという展開でした」とは尚志を率いる仲村浩二監督。川崎F U-18が盛り返しながらも、前半は1-0のままで45分間が経過した。

 後半4分。『川崎のトラ』が魅せる。右サイドで矢越が後方に戻すと、「相手のセンターバックの背後は狙っていて、トラと目が合って動き出してくれた」というDF江原叡志(3年)はダイレクトで最終ラインの裏へ。抜け出した岡崎は「自分たちのキーパーがレベルの高い選手たちだという自負があって、その2人(濱崎、菊池悠斗)に普段からああいうシュートも練習していた」とループシュートを選択。ボールはGKの頭上を越えて、ゆっくりとゴールへ弾み込む。これで岡崎はシーズン18点目。1-1。試合は振り出しに引き戻された。



 川崎F U-18は攻める。9分。右からDF関德晴(1年)が蹴り入れたCKに、突っ込んだDF土屋櫂大(2年)のヘディングは角田の正面。22分。右サイドでMF志村海里(3年)が時間を作り、矢越のクロスから岡崎のヘディングはクロスバーの上へ。24分。岡野一との連携で左サイドを破った関のクロスに、FW高橋宗杜(3年)が合わせたヘディングも枠を捉え切れず。「流れ的には完全にこっちだったと思うので、そこで2点、3点行こうというのはみんな考えていました」(由井)。ただ、どうしても逆転の2点目が遠い。

 劣勢の尚志に歓喜をもたらしたのは、「今日はオレがやってやろう」と意気込んでいたストライカー。32分。DF冨岡和真(3年)のスルーパスから、若林が丁寧な右クロス。エリア内へ入ったMF藤川壮史(3年)のシュートはDFのブロックに遭ったが、こぼれ球にいち早く反応した網代は「ファーストタッチで良いところに置けて、あとは思い切り振り抜きました」と右足一閃。軌道はゴールネットへ鮮やかに突き刺さる。『尚志の9番』が土壇場で大仕事。尚志が一歩前に出る。



 川崎F U-18は攻める。42分。志村の左クロスから、前線に上がっていた土屋のヘディングは左のゴールポストを直撃。45+2分。江原のパスから単騎で抜けた岡崎のシュートは、抜群のタイミングで飛び出した角田がビッグセーブ。「今回はアウェイなのに3年生も応援してくれていたので、『応援しているヤツらのためにも』という想いで最後に身体を張れたり、一歩が出たりしたと思います」とは尚志のキャプテンを任されているDF渡邉優空(3年)。築いた堅陣は崩れない。

 等々力に響き渡るタイムアップのホイッスル。「僕らも高体連として『走る』ところには意地がありますし、『絶対にスタミナでは負けちゃいけない』と思っているので、後半はそこがうまく行ったんじゃないかなと。(他会場では)山田が勝ったんですよね。でも、僕らがどうすることもできない結果を考えるよりも、今日の勝ちが嬉しかったです」(仲村監督)。優勝には一歩及ばなかったものの、アウェイで逞しく勝ち切った尚志が川崎F U-18を勝点で上回り、4年ぶりに復帰したプレミアを2位で終える結果となった。

フロンターレサポーターのエールに拍手で応える尚志の選手たち


「(第12節の)FC東京に勝ったあたりから、『頂点を狙いに行こう』と。それまでは残留を目標にやってきていたんですけど、FC東京戦が終わって『優勝を獲りに行こう』と言ったんです」(仲村監督)。

 尚志は今シーズンが3度目のプレミアでのチャレンジだが、リーグ創設初年度の2011年、染野唯月(東京ヴェルディ)を擁した2019年と、どちらも最下位での降格を突き付けられている。ゆえに今シーズンの目標は、まずこのリーグに残留すること。「もともと残留を目標にやっていたので、こうやって2位で終われたということには自分も正直驚いていて、まさかここまでできるとは思いませんでした」という神田の言葉は偽らざる感想だろう。

 残留という明確な目標を立てるにあたり、過去2回の悔しい経験は間違いなく今年に生かされていた。「2回もやらせていただいたことでプレミアリーグのレベルの高さがわかって、選手層を厚くしていかないと絶対にこのリーグは乗り越えられないということが経験上でわかったので、『プレミアリーグで戦えるチームを』ということを目標にずっとチーム作りをしてきました。今年はもう『誰が出てもいいんじゃないか』という選手層になったので、代表で選手が抜かれても他の選手がやってくれましたし、そういうことができたのは良かったかなと思います」(仲村監督)。

 たとえば神田が出場停止、安齋がベンチスタートとなった第14節の流通経済大柏高戦では、ボランチで起用されたMF吉田尚平(3年)が攻守に存在感を示せば、MF濱田昂希(3年)は2ゴールで勝利の立役者に。引き分け以下で優勝の可能性が潰える第21節の横浜F・マリノスユース戦では、3-3で迎えた後半アディショナルタイムに途中出場のFW桜松駿(3年)が劇的な勝ち越しゴールを叩き込み、最終節にタイトル獲得の可能性を残してみせた。

 不動のセンターバックとしてチームを牽引してきたDF高瀬大也(3年)が選手権予選後に負傷離脱した中で、リーグ戦のラスト3試合でスタメン起用されたのは、それまで逃げ切りを図りたい時のクローザー起用が大半だったキャプテンの渡邉。「大也が離脱したから自分が出ているので、まずは『自分が倒れるまでやらなきゃいけないな』ということは凄く感じていて、今日も途中で足が攣っていたんですけど何とか粘って、3年間で練習してきたヘディングの成果を守備面では出すことができたので、そこは成長したところだと思っています」と言い切る姿勢も頼もしい。

 厚い選手層を誇ったチームは、前半戦で敗れた青森山田と川崎F U-18にも、後半戦ではきっちり勝利でリベンジ。プレミアEASTに所属する全11チームから勝点を獲得するという、大きな目標も見事に達成。久々の参戦となった世代最高峰の舞台へ、確かな歴史を刻んだことに疑いの余地はない。

 ただ、笹生が口にした言葉が印象に残る。「最初から優勝を目指すには目指していたんですけど、自分たちにとってプレミアは初めてなので、正直そんな順位になれるとは思っていなかったんです。でも、後期のFC東京戦に勝ってから目標を優勝に変えて、常に練習からもそういう意識でやっていたので、2位という順位は正直悔しいです」。

 2度に渡るリーグ最下位でのプレミアからの降格。第97回大会選手権の準決勝ではPK戦で青森山田に惜敗を喫し、今季も頂点を明確に狙ったインターハイでは、準々決勝で桐光学園高にその行く手を阻まれている。彼らは紡いできた歴史の中で、味わってきた悔しさを“伸びしろ”として、必ず次に向かうエネルギーに変えてきた。そして、あと一歩でプレミアの覇権に届かなかったこの経験も、最大の目標を成し遂げるためには最高の燃料になりうるかもしれない。

「入学当初から日本一になるのが自分たちの目標で、このプレミアリーグで良い経験ができたので、その経験をもとにチーム全体で日本一を目指していきたいと思います」(網代)「大也の想いも背負ってということもありますし、この部員全員で目標としてきた全国制覇に向けて、ここから突き進んでいきたいです」(渡邉)。

 時は満ちた。猛者の集うプレミアリーグで積み重ねたかけがえのない経験を胸に、悲願の日本一を目指す尚志の2023年シーズンは、まだまだ終わらない。



(取材・文 土屋雅史)
●高円宮杯プレミアリーグ2023特集

土屋雅史
Text by 土屋雅史

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