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[東京都CY U-17選手権]「幸せの連鎖」の先にあるのは戻るべき場所と進むべきステージ。東京Vユースは三菱養和ユースを“ウノゼロ”で撃破して東京制覇!

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東京ヴェルディユースはウノゼロ勝利で東京制覇!

[2.23 東京都CY U-17選手権決勝 東京Vユース 1-0 三菱養和SCユース 味の素フィールド西が丘]

 去年と同様に獲得した“一冠目”を今後に繋げていくためには、これで満足しているわけにはいかない。自分たちには戻るべき場所と、進むべきステージがある。その両方を追い求めて、また明日からランドで切磋琢磨する日々が待っているのだ。

「選手たちもトップチームがJ1に上がった部分には影響を受けていて、そういう彼らを少しでもトップチームに上げていきたいですし、ここで育った僕自身もJ1で戦ってくれることは凄く嬉しいので、何とか自分たちもユースで頑張って、一番上のカテゴリーに辿り着きたいですね」(東京ヴェルディユース・薮田光教監督)。

 重ねたトレーニングの成果を発揮して、堂々の連覇達成。新チームが腕試しの機会として鎬を削る、東京都クラブユースサッカーU-17選手権大会。昨年と同じカードとなった東京ヴェルディユース三菱養和SCユースの決勝は、前半23分にキャプテンのDF坂巻悠月(2年)が奪った1点を堅い守備で守り切った東京Vユースが勝利。西が丘の雨空に歓喜の歌声を響かせた。


「前半の立ち上がりは良かったと思うんですけどね」と今季から5年ぶりに指揮官へと復帰した増子亘彦監督が話したように、序盤は三菱養和ユースが積極性を打ち出す。前半6分にMF大橋慧斗(2年)の左CKにDF後閑己槙(2年)が合わせたヘディングは枠を外れ、直後にMF高木大和(2年)が積極的に狙ったミドルは、東京VユースのGK山崎琉聖(1年)が何とかキャッチしたものの、続けてフィニッシュまで取り切る。

 それでも先にチャンスを成果に結び付けたのは緑の若武者。23分。左サイドで獲得したCK。MF仲山獅恩(1年)が蹴り込んだキックがこぼれると、いち早く反応した坂巻が左足ボレーで叩いたボールはゴールネットへ吸い込まれる。「反応は速くできて、うまく決められたかなって。あまり点を獲る選手ではないので、メチャクチャ嬉しかったです」と笑ったキャプテンの先制弾。東京Vユースがスコアを動かす。

 これでペースを引き寄せた東京Vユースは、相次いでチャンスを創出。34分にはU-17ワールドカップにも出場したMF川村楽人(2年)が高い位置でボールを奪い切り、そのまま打ち切ったシュートは三菱養和ユースのGK長谷川宗大(1年)がファインセーブで回避。41分にも仲山が、44分にもFW半場朔人(2年)が惜しいシュートを放つと、45+1分にも決定機。FW土屋光(2年)、MF今井健人(1年)と繋いだボールを半場が枠へ収めると、ここも長谷川が好守で凌いだものの、攻勢を強めた東京Vユースが1点のアドバンテージを握って、最初の45分間は終了した。


 後半はスタートから三菱養和ユースが3枚代え。決勝リーグのFC東京U-18戦でも得点に絡んだMF今井颯大(1年)、FW平野真央(2年)に加え、プレーメイカーのMF倉持譲太郎(1年)を投入し、明確に狙いに行く同点とその先。後半1分には早速MF岡新大(2年)を起点にDF薦田翔太(2年)の左クロスから、飛び込んだ平野が惜しいヘディングを放つなど、ゴールへの意欲を滲ませる。

 10分も三菱養和ユース。カウンターから縦に運んだFW中村圭汰(2年)が左へ振り分け、岡が中央へ入れたグラウンダーのクロスは、良く戻った東京Vユースのディフェンスラインが適切なポジショニングで危機回避。29分も三菱養和ユース。薦田が蹴った右CKに、途中投入の長身FW齋藤凪(1年)が競り勝つも、ゴール前に生まれた混戦の中で東京Vユースの守備陣は身体を張って、シュートを許さない。

 ここには練習の成果が表れていたようだ。「去年のプリンスでは全試合で失点していたので、今年はゴール前のクロスの対応だったり、相手に寄せるところはかなりやっています」と昨季から主力を務めるDF川口和也(2年)が口にすれば、「守備のトレーニングも今シーズンはちょっと多めに入れているところもありますね。あまり大きな選手がいないので、セットプレーやクロスの対応は継続してやってきました」と薮田監督。抽出した課題に取り組み、それをこのファイナルの舞台できっちりと形で示してみせる。

 終盤は追加点を狙う東京Vユースがラッシュ。33分には右から丁寧に蹴ったFW井上寛都(2年)のグラウンダークロスに、仲山がフリーで合わせたシュートはゴール左へ。36分にも左サイドでルーズボールを拾った仲山のフィニッシュが枠を越えると、39分にも相手の横パスをさらった仲山が打った決定的なシュートは、長谷川がキャッチ。21番にボールが集まるものの、なかなか2点目には至らない。

 45分は三菱養和ユースのラストチャンス。中村がドリブルで敵陣へ切れ込み、こぼれたボールをミドルレンジから狙った平野の枠内シュートは山崎が丁寧にキャッチすると、ほどなくして聞こえた試合終了のホイッスル。「今回もクロス対応も含めて無失点で終われたので良かったですね。去年の決勝も3-1で失点していたので、今年は1-0で終われたことはチームとしての進歩なのかなと思っています」と大会MVPにも選出された川口も言及する東京Vユースが“ウノゼロ”での勝利を手繰り寄せ、晩冬の東京制覇を力強く勝ち獲る結果となった。


 今シーズンを戦う東京Vのトップチームは、16年ぶりにJ1へ復帰した。薮田監督も「去年は城福さんとコミュニケーションを取って、練習試合や紅白戦も何回かやってもらって、選手もかなり見ていただいたんです。トップを間近で見られることはありがたいですし、今シーズンも『もうちょっとしてからやろうね』ということは言ってくださったので、またうまくトップの練習に行って刺激をもらえればいいですよね」と語ったように、その影響は確実にアカデミーの選手にも広がっている。

 ただ、当事者たちに話を聞くと、それは危機感とも同義のようだ。「J1のチームになるとユースからトップに昇格する基準ももっと厳しくなると思いますし、そうなるともっと意識を高く持って、日々の練習に取り組んでいく必要があると思うので、そういう意味では刺激になっていますね」(坂巻)「今までは『このまま頑張っていけば昇格できるかな』みたいな気持ちも少しはあったんですけど、やっぱりJ1に上がったことで、自分たちももう一段階成長しないとトップには上がれないと思いますし、さらに成長に対する意識が増しました」(川口)。自ずとランドで過ごす日常の熱量が上がっていくことも間違いないだろう。

 印象的な光景があった。昨シーズンのあるアウェイゲームの試合後。試合に出場できなかった選手たちと、薮田監督をはじめとしたコーチングスタッフがミニゲームを行っていた。もちろんトレーニングの側面もありつつ、楽しそうにボールを蹴り合う大人と高校生が入り混じった“サッカー小僧”たちを、試合に出ていた選手たちも時には野次を飛ばしながら、楽しそうに眺めている。そこはまるでランドに受け継がれている伝統を切り取ったような、実に幸せそうな空間だったのだ。

 川口も「メチャメチャ雰囲気はいいと思います。一緒にやっていて楽しいですし、ヤブさんは基本的に自分たちの決まり事を守れない選手に対しては厳しいですけど。そのほかは自由にやらせてもらっているので、そこはこのチームの良いところだと思います」と言い切るように、今季のチームからも相変わらず良好な空気感が伝わってくる。

「自分もよみうりランドに練習に行くことが楽しくて、仲間とボールを蹴ることが楽しくて、さらには対人で相手の逆を取ったり、おちょくるようなプレーをしたり(笑)、そういう楽しさの毎日の繰り返しで成長できたと思うので、それを今の選手にも味わってほしいですし、1人でも『練習嫌だな。行きたくないな……』と思うような環境にはしたくないと思っています」と話す“読売育ち”の薮田監督が、昨年の1年間を通じて感じたことを明かしてくれた言葉も印象深い。

「もちろん選手本人にも幸せになってほしいですけど、本人がここで納得してサッカーを楽しくできたことで、それを見たお父さんやお母さんも幸せになってくれて、さらにおじいちゃんやおばあちゃんも同様で、そういう全体を幸せにしていくことが大切で、なかなか全員を試合には使ってあげられないですけど、試合に出ていない子も含めて成長させてあげて、少しでもサッカーを楽しめるようにできたら一番いいかなとは思いました」。

「選手が成長していく一面を見られた時には僕自身も幸せですし、もちろん全員をプロにさせてあげられなかった自分への不甲斐なさや悔しさはあるんですけど、最後に保護者と話した時に『ウチの子は試合に出ていなかったですけど、すごく楽しくやらせてもらいました』と言ってもらえるだけでもありがたかったですし、大学からとか違う形でもいいので、少しでもプロになれる可能性を残せるように働きかけていけたらいいなと感じています」。

 サッカーと真摯に向き合うからこそ、生まれていく幸せの連鎖の大事さを、指揮官は十分に理解している。「チームとしての目標は全試合無失点でのプリンスリーグ優勝とプレミアリーグ昇格で、クラブユースも優勝を目指していきます。個人としては1つ1つの練習を確実にこなして、1つ1つの試合でアピールしていって、どんどんプロに近付いていきたいと思います」という川口の意気込みは、間違いなくチーム全員の共通認識。2024年の東京Vユースが期す、戻るべき場所へ戻るための、進むべきステージへ進むための大いなるチャレンジが、いよいよ幕を開ける。



(取材・文 土屋雅史)
土屋雅史
Text by 土屋雅史

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